日本型オープンイノベーションの実現に挑む“おっさんベンチャー”。GCP最長、10年越しの上場秘話

グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)史上最長の10年間の支援を経てIPOを果たしたスタートアップがある。2018年4月に東証マザーズに上場したビープラッツ株式会社だ。SaaSベンダーに対して、サービスのサブスクリプション化を支援するプラットフォーム事業を展開している。
 
経営を主導する幹部たちは、インダストリーへの強い情熱に駆動され、粘り強く日本型オープンイノベーションを推進する三井物産出身のメンバーだ。彼らは自らを、“おっさんベンチャー”だと自称する。
 
箱売りのパッケージ型ビジネスがソフトウェア業界の常識だった10年前から、月額課金のサブスクリプションモデルの可能性を信じて疑わなかった。時間はかかっても、いつか必ずブレイクスルーが来るーー。そんな固い信念のもと、10年間の長い投資期間の中で、どのようにビジネスを成長させていったのか。複雑だが美しいビープラッツのビジネスモデルの仕組みから、マチュアーで業界や事業への知見が深い起業家ならではのベンチャーキャピタルとの関わり方までお話を伺った。

(構成:小池真幸 編集:オバラミツフミ

「時間はかかっても、いつか必ずブレイクスルーが来る」ーーGCP史上最長の10年間の支援を経てIPO

ーーまずは、ビープラッツさんとGCPさんの出会いについてお伺いしたいです。最初の投資が行われた2008年6月から、今野さんがずっとご担当されていたのでしょうか?

今野穣(以下、今野):はい。当時は僕もGCPに参画してから3年目で、まだまだ投資家としてのキャリアも若い頃でした。そこからずっと一緒にお仕事させていただき、GCP史上最長の10年間にわたる支援を経て、2018年4月にIPOを果たしています。


ビープラッツ 代表取締役CEO 藤田健治氏

藤田健治(以下、藤田):史上最長なんですね、GCPさんの胆力の強さがよくわかります(笑)。

さらに言うと、実は私たちとGCPさんとの出会いはもっと前なんですよ。ビープラッツ創業前の三井物産在籍時に、社内で立ち上げた新規事業をカーブアウトして独立しようと思い、GCPさんに資金面のご相談をしたことがありました。そうしたご縁もあったので、三井物産を退職して独立するタイミングで再度GCPさんにご相談し、ご投資いただけることになったんです。

今野:メーカーが製造した箱売りのソフトを販売代理店が売っていくパッケージ型ビジネスが主流だった当時のソフトウェア業界で、いちはやくSaaS型ビジネスを予見していた先見性に可能性を感じました。当時まだ存在しなかったビジネスモデルなので、時間はかかるかもしれないけれど、いつか必ずブレイクスルーが来るだろうなと。


ビープラッツ 取締役CFO 宮崎琢磨氏

宮崎琢磨(以下、宮崎):ビープラッツにとっても、GCPさんはこれ以上ないパートナーでした。BtoBのスタートアップの絶対数も少なかったですし、そもそもスタートアップ投資のエコシステムが今ほど成熟していなくて、1億円調達するだけでも大ニュースになっていた時代。BtoBのスタートアップに中長期的なレンジで2億円も投資してくれるベンチャーキャピタルは、GCPさん以外にはいませんでした。ワークスアプリケーションズさんなど、ソフトウェア業界での豊富な投資実績も魅力的でしたね。

“SaaS業界の楽天”から、サブスク支援のプラットフォームベンダーに転身

ーー事業内容についてもお伺いしたいです。GCPさんに投資いただいてからIPOに到るまで、どのようなビジネスを展開されてきたのでしょうか?

藤田:1回目の投資を受けた頃は、SaaSサービスのマーケットプレイスをつくろうとしていました。“SaaS業界の楽天”を目指していたんです。

先ほど今野さんが仰っていた通り、2008年当時のソフトウェア業界は基本的にパッケージ型モデルしか存在しませんでした。ソフトウェアメーカーがつくった箱入りソフトを、何階層もの取次・販売代理店を経てユーザーが購入するモデルです。

しかし私たちは、モノの時代からコトの時代に移り変わるにつれて、「使った分だけおカネを払う」月額課金のSaaS型モデルが主流になると確信していました。そうした確信にもとづき、出品者と購入者が集まるSaaSサービスのマーケットプレイス的な場を運営するビジネスをはじめたのです。

今野:ただ結果的に、マーケットプレイスづくりは上手くいきませんでした。キラーアプリが入ってこなかったのが最大の敗因です。Google Apps、Microsoft Office、Salesforceといった業務用ソフトウェアは当時から影響力があったのですが、そうしたソフトウェアの開発元は自社で営業部隊や売るための仕組みを持っていて、マーケットプレイス的な場を必要としていなかったんです。

そこで2013年頃に、売る人や買う人に参加してもらう売り場づくりではなく、売る人を裏側から支えるシステムづくりにシフトしました。SaaSサービスを流通させるマーケットプレイスから、サブスクリプション型の月額課金でSaaSサービスを売りたい人を支援する、プラットフォーマーへの転向です。

藤田:転向が功を奏して、2013年頃から加速度的に業績が伸びていきました。通信業界ではMVNOがトレンドになって回線の卸売販売が常態化しましたし、ここ数年で爆発的に広がったIoTビジネスもメーカー主体の複雑な販売システム構築が必要となるので、販売支援プラットフォームのバリューが高まったんです。

宮崎:もともと売り場づくりをしていたおかげで、売るために必要な機能が一通り揃っていた点も大きかった。サブスクリプション型のサービスを売るために必要な、煩雑なお金の流れや法律についてのノウハウがたまっていたんです。なかなか成長スピードが加速しないにも関わらず、辛抱強く5年間もご支援し続けてくださった、GCPさんの粘り強さの賜物ですね。

“自己増殖型モデル”で成長を加速。ビープラッツをIPOに導いた「複雑で美しいビジネスモデル」の全貌

ーー事業モデルの転換が、時流にも即していて奏功したんですね。加速度的な成長速度の源泉となった、SaaSのサブスクリプション支援ビジネスの収益モデルについて詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?

藤田:月額固定のシステム利用料と、従量課金の決済手数料の二段構えでマネタイズしています。前者は導入社数に応じて増えていき、後者はお客様の決済額が高くなるにつれて増えていくモデルです。

ここでポイントなのが、導入企業が自己増殖するモデルとなっている点です。お客様にビープラッツを導入していただく際に、そのお客様の取引先の企業様にも導入していただかないと最大限ご活用いただけないので、他の企業様にも導入を勧めていただくことになるんですよ。お客様が仮想的なパートナー企業となっているわけです。すると自然に導入数が増えていき、決済手数料も上積みされます。

宮崎:私たちはある大きな仮説にもとづきビジネスを展開しています。「一般的なスタートアップに期待される“ディスラプティブ・イノベーション”は、大手企業を中心とするBtoBの販売システムでは起きないのではないか」という仮説です。たとえば、iPhoneは非常にディスラプティブなプロダクトですが、メーカーがつくったものを販社を通じて販売する流通プロセス自体は非常に旧態依然としています。

大企業がIoTに代表される新しいサービスモデルに対応しようと業態変化を試みる際、その変革をアシストする存在を目指す戦略です。既存のシステムも活かしつつ、新たなサービス形態にアダプトするためのサポーター的なポジショニングを志向していました。

マチュアーな起業家を成功に導いた、自己反芻の機会提供

ーー複雑ながらも美しいビジネスモデルですね。ビープラッツさんのように元々業界や事業への知見が深い起業家に対して、GCPさんはどのようなバリューを発揮されていたのでしょうか?

今野:ひとつは、他社事例や業界トレンドといった情報のご提供です。他のBtoBやクラウド系のスタートアップが産業構造の変化に対してどんな取り組みをしているか、どんなKPI戦略を立てているのかといった、ひとつの会社を経営しているだけではなかなか知り得ない情報をシェアしていました。

また、組織づくり面でもアドバイスをさせていただきました。ビープラッツは7人の“濃い創業メンバー”がいまだに全員残っています。それ自体は非常に素晴らしいことなのですが、コアメンバーが濃すぎるがゆえに後発メンバーが馴染みにくくなる懸念があったんです。そこで、僕がメンバー全員と喫茶店で1on1ミーティングを行なってヘルシーな状態なのかチェックする、といったチームビルディング面でのサポートもさせていただきました。

藤田:大企業出身でスタートアップ経営の知見に乏しい私たちに、ベンチャー経営の要諦をご指南いただけた点も大変ありがたかったです。ファイナンスのタイミング、望ましい株主構成、IPOに向けた証券会社や東京証券取引所との折衝など、信頼できる情報を数多く提供していただきました。

今野:上場関連の話でいえば、僕らが定期的に素人目線でゼロベースの問いを投げかけていたのも意味があったと思います。上場するためには、業界内だけでなく誰にでもわかるようにストーリーや強みを説明できなくてはいけない。もちろん業界や市場のことについては経営メンバーの方が詳しくて当たり前なのですが、取締役会で僕らが素人目線のフラットな問いを投げかけることで、自己反芻してより抽象度の高い議論や思考をする機会が創出されていたのではないでしょうか。

悔し涙がこぼれても、やめない。“おっさんベンチャー”が教えてくれたスタートアップ経営の要諦

ーー最後に、読者のみなさんに向けたメッセージをお伺いしてもよろしいでしょうか?

今野:ビープラッツが上場まで10年かかっていることからも分かるように、スタートアップ経営には粘り強さが必須です。実際、経営状況が思うようにいかずに藤田さんが取締役会で悔し涙を流されていたこともありました。

僕も他の監査役の方や他のGCP社員に何度も「大丈夫なの?」と心配されましたが、「大手企業の作法やソフトウェア業界に精通したこの人達にしかできないビジネスだ」と確固たる信頼を寄せ、粘り強くご支援し続けていました。

あとはビープラッツのように、マチュアーな経営陣で大企業を変革していくような骨太なベンチャーがもっと出てくるといいなと思います。

宮崎:大企業の変革を志向する点は私たちも大切にしています。今の日本は製造業やメーカーなどを中心につくり上げられた国なので、スタートアップを創業してゼロから大企業をリプレイスするよりも、大企業をハックして中から変革する日本型オープンイノベーションの方が大きなインパクトを残せる可能性が高い。インダストリーへの強い情熱を持って、日本型オープンイノベーションを支援する“おっさんベンチャー”がもっと増えることを願っています。


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