“プロダクト”の質で勝負するスタートアップに勝機はない。顧客のペインを解消する“サービス”を設計せよ。Takram佐々木・GCP渡邉・FABRIC TOKYO森が語る、D2Cの成長戦略

企業とユーザーのコミュニケーションチャネルがSNSへと移り変わった昨今、メーカーが商品開発から広告宣伝までを内製し、ユーザーへ直接商品を販売する「D2C」のビジネスモデルが急拡大している。「Warby Parker」「Casper」「Away」など、2010年以降に設立された海外のD2Cスタートアップの中には、1〜3億ドルといった大規模な資金調達を行う企業も登場。これらの企業はECのみならず、実店舗を展開して自社製品を販売しているが、必ずしも商品の販売だけを目的にしていない。D2C企業にとっての実店舗は、顧客に製品を試用してもらうことで、場やブランドとの接点を持ってもらう場だからだ。ではこうした企業は、いかにして収益を生み出しているのだろうか。
 
グロービス・キャピタル・パートナーズは、2019年2月、D2Cの知見を深めるために議論するイベント「小売をディスラプトする新しい流通形態『D2C』 -業界外から見る知見者討論-」を開催。登壇したのは、デザイン・イノベーション・ファーム「Takram」にて幅広い業種のコンサルティングを務める佐々木康裕氏、グロービス・キャピタル・パートナーズのキャピタリストである渡邉佑規、年間成長率が2期連続300%を超える急成長中D2Cスタートアップ「FABRIC TOKYO」の代表・森雄一郎氏だ。
 
優れたプロダクトをつくるだけでは成功しない理由から、D2Cスタートアップを買収する大企業の戦略、ブランドとして掲げるべき世界観まで議論された。

(構成:岡島たくみ 編集:小池真幸

D2Cとは、メーカーや小売の「サービス業化」

ーーD2Cの登場によって、小売はどのように変化していくのでしょうか?

Takram ディレクター / ビジネスデザイナー 佐々木康裕氏

佐々木:客層の拡大、ラインナップ拡充、チャネル拡大の3つに加え、「時間」というベクトルが生まれてきているーーつまり、一人ひとりのユーザーとどれだけ長期的な関係を築けるかが重要になっていきます。
 
そして、ユーザーにブランドと長い関係を築いてもらうためには、ECだけでなく実店舗でのコミュニケーションが大切です。そのため、実店舗数を増やし、ユーザーとの密なタッチポイントを増加させていくことでLTVを伸ばす手法が、D2Cブランドの一つの勝ち筋であると感じています。

株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役社長 森雄一郎氏

森:僕もそう思います。D2Cでは顧客とのタッチポイントをすべて押さえているので、顧客のデータがどんどん溜まっていきます。そして、そのデータをマーチャンダイジングに活かせることが、一番の利点ではないでしょうか。
 
また、Warby ParkerのメガネやCasperのマットレスなど、試用や試着が必要で、Amazonで売れづらい分野がD2Cで取り上げられるように感じます。

グロービス・キャピタル・パートナーズ キャピタリスト 渡邉佑規

渡邉:僕はD2Cの本質を、「メーカーや小売業のサービス業化」だと捉えています。当然、「プロダクト」は大事なのですが、それだけではD2Cとして物足りないと思っていて、どうやってこれまでにないユニークな顧客体験、サービスを創るかという意思や戦略が大切だと思っています。言い換えれば、D2Cスタートアップがプロダクトの質のみで勝負しようとするのは、筋の良い戦略だと思っていません。プロダクト一本鎗では、資本力がある大企業、既存企業に摸倣され、簡単に追い抜かれる恐れがあるからです。

森:FABRIC TOKYOでも、「お客様の購入プロセスに革命を起こす」ことを掲げ、サービスづくりに注力しました。従来、スーツを購入するためにはとても煩雑なプロセスを経なければなりませんでした。一方、僕たちのメイン顧客であるビジネスパーソンは多忙な方が多く、実店舗に訪れる時間を勿体無く思ったり、接客されること自体を好まなかったりする。そこで、一度採寸したデータを登録すると、店舗に訪れずともオーダーで購入できる仕組みをつくったんです。
 
とはいえ、サービスだけを磨けばうまくいくわけではありません。クオリティ面で差別化された商品をつくったうえで、それらを売るためのサービスを設計し、ECや実店舗から得たデータと連動させることが大切なんです。

物流やSNSなど、領域ごとのプロフェッショナルを採用せよ。創業初期から多様なスキルを持った仲間を集めるべき理由

ーー今後、D2Cはどのように広まっていくのでしょうか?

佐々木:現在はセーターやメガネといった限られた領域のみで盛り上がっていますが、今後はさまざまな産業でD2C化が進むのではないでしょうか。Warby ParkerやCasper、Awayなどは、既存企業が支配していた市場をどんどん侵食しています。
 
また大企業は、自分たちの業態を変化させるのではなく、伸びているD2C企業を買収することで対策を行う傾向にありますね。たとえばウォルマートがD2Cアパレルブランドの「Bonobos」を、ユニリーバがD2Cサブスクリプション型の髭剃りブランド「Dollar Shave Club」を買収しています。
 
D2Cスタートアップは共同創業が多いこともポイントです。たとえばWarby Parkerは4人、Casperは3人で創業されています。

渡邉:共同創業者が多い理由の一つに、D2Cというビジネススキームのバリューチェーンの長さがあると思っています。商品開発、サプライチェーンマネジメント、ブランディング、マーケティング、ECサイトの構築及び運営、カスタマーサポート、場合によってはリアル店舗開発及び店舗運営、、、通常のインターネットの世界に閉じたビジネスと比較しても、D2Cは非常にバリューチェーンが長く、複雑です。よって、多様なスキルを持った人材が必要だし、そもそも頭数も求められるというマネジメント上の特徴があります。

森:D2Cはとても一人では手に負えない分野なため、ソーシャルメディアや物流といった各領域のプロフェッショナルが力を合わせる必要を感じています。僕は一人で創業しましたが、大変な苦労の連続でした。もしかすると、創業時点で仲間を集め、それぞれで役割を分担していれば、FABRIC TOKYOはもう少し早くグロースしたかもしれません。

原価利益率と単価が高く、トレンドサイクルが長い商材を選べ

ーーD2C事業を伸ばしていくためには、何が必要なのでしょう?

佐々木:届けたい世界観を持つことが大切です。僕はD2C企業が提供するべきものを、良いプロダクトではなく、世界観に基づいたライフスタイルだと考えているんです。安易にプロダクトや流通形態を模倣する企業も見られますが、それは大切なポイントを押さえられていないと思います。

佐々木:プロダクトと流通形態を真似るばかりでは、顧客との長期的な関係を構築するのは難しいでしょう。D2Cは参入障壁が低く、アメリカではWarby Parkerのモデルを模倣したメガネブランドや、Casperを模倣したマットレスブランドなどが複数登場しています。しかし、成功しているD2C企業は、顧客に寄り添い、世界観に準じたプロダクトを展開していける企業です。たとえばCasperは、マットレスだけではなく寝室用のライトや雑誌の販売、ポッドキャストの配信などを行っており、「快適な睡眠」を提供している。また、Awayもスーツケースだけでなくホテルも展開しており「快適な旅」を提供しているんですよ。

森:FABRIC TOKYOも、オーダースーツを楽しめる世界観を描いていたからこそ生まれたサービスです。自分の腕が長く、既製品のスーツが似合わなかったとき、オーダースーツをつくってとても感動した原体験があって。その後調査を行うと、オーダーに興味はありつつも、「敷居が高い」と感じて利用していなかった人がたくさんいると分かり、その課題を解決するために事業をつくっていったんです。

ーーD2Cに向いている商材はありますか?選定基準などがあれば、お伺いしたいです。

渡邉:限界利益率及び単価が高く、トレンドサイクルが長い商材はスタートアップが取り組むのに適したD2C商材だと思っています。僕がFABRIC TOKYOに投資したのも、スーツがこの条件を満たしている商材だったからです。既存のスーツ事業者のIRを見て頂くと分かりますが、スーツは単価だけではなく、限界利益率も高い商材です。また、スーツのトレンドは毎年変わるわけではありません。スタートアップにとって、「昨年開発した商品が、トレンド的に今年はもう売れません」といった事態が起こるのは、商品開発コストの増大につながるため、取り組みづらいと思っています。
 
また、商材毎に購入サイクルに大きな違いがあることにも注意が必要です。購入サイクルが2〜3年以上になると、プロダクトマーケットフィットや各施策が効果的だったのかの検証をするのに時間がかかるーーつまりPDCAを高速で回せず、改善活動が難しくなる傾向があります。

佐々木:商材選定の際の購入サイクルについて、僕は少し違う見方をしています。プロダクトの単価が高い商材であれば、購入サイクルが長くても成長できると考えているんです。たとえば、AwayのスーツケースやCasperもマットレスは購入サイクルが5〜10年と長いですが、2社とも成長を続けています。これは、1つの商品が売れた時点で、CACの回収が終わっている状態をつくれているからです。さらに、世界観に沿ったプロダクトを横展開していくモデルを構築できれば、購入サイクルが長かったとしても、事業は伸ばせるのではないでしょうか。

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