私はこうして、VCになった——産業の変革に挑むGCP、プリンシパル鼎談

日本発ユニコーン企業であるメルカリが「世界と戦う道筋」をつくり、スタートアップ業界に勢いが生まれてきた。“起業後進国”のレッテルを貼られた日本からも、産業を変革する可能性を秘めたスタートアップが登場しつつある。

その一端を担っているのは、高い志を持つアントレプレナーであることは間違いない。しかし一方で、彼らを支える「影のアントレプレナー」——“Entrepreneur behind entrepreneurs”の存在を耳にすることは、そう多くない。

グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)のプリンシパルである福島智史、渡邉佑規、湯浅エムレ秀和は、これまで数多くの起業家に寄り添い、産業の創出を支援してきた。

メディアに露出する機会の少ないベンチャーキャピタリストたちは、どのようにしてキャリアをスタートし、現在に至るのか。スタートアップ、ひいては日本経済に非線形の成長をもたらすVC3名に、その仕事の全貌を聞いた。

(インタビュー:長谷川リョー 構成:オバラミツフミ 編集:小池真幸

なぜ、GCPなのか。プリンシパル3名が語る、キャリアチェンジの分水嶺

ーーメルカリのIPOを皮切りに、国内でのスタートアップへの注目度がますます高まってきています。一方で、アントレプレナーを支えるVCの存在が話題になることは、あまり多くありません。GCPでVCとしてご活躍されるお三方に、ベンチャーキャピタリストという職業についてお伺いできればと思います。まずは、入社の経緯からお伺いさせてください。

福島智史:グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル
ドイツ証券株式会社 投資銀行統括本部にて、M&Aアドバイザリー並びに資金調達業務に従事。
2014年4月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。東京大学経済学部卒。

福島智史(以下、福島):29歳で入社し、今年で5年目になります。大きな入社理由の一つは、大学時代の友人や以前勤めていた投資銀行で尊敬していた先輩、同期の多くがベンチャーの世界で活躍し始めていたこと。彼らと再び仕事をするために、ハブになる仕事をしたかった。

またVCは、“色のないお金”を、意志のある若者に持っていける仕事です。日本は若者が少ない国。上の世代の方々がつくったお金を、意志ある若者に託し、新しい産業の創出に活かせるこの仕事に大きな魅力を感じました。

渡邉佑規:グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル
三井住友銀行にて上場企業を含む中堅企業への融資および金融商品販売業務に従事した後、大和SMBCキャピタル(現・大和企業投資)およびSMBCベンチャーキャピタルに出向し、一貫してベンチャー投資に携わる。その後、SMBC日興証券の投資銀行部を経て、2015年7月にグロービス・キャピタル・パートナーズ入社、現在に至る。一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了(MBA)。

渡邉佑規(以下、渡邉):私はメガバンクからキャリアをスタートし、2008年からVCに従事しています。GCPに転職をした理由は2つ。一つ目は、日本で一番のキャピタリストになりたかったから。そのためには、日本で一番のVCと認識していたGCPで働く必要があると考えました。ここでいう「日本で一番のVC」とは、僕が心から学ばせてほしい、尊敬できると思えるキャピタリストの数が一番多かったという意味です。

二つ目の理由は、GCPの真骨頂とも言える、ハンズオン式の支援に挑戦してみたかったから。前職はハンズオフのVCだったので、双方のスキルを会得したいと考えました。入社は34歳のときです。

湯浅エムレ秀和:グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル
主に産業変革(デジタルトランスフォーメーション)を目指す国内ITスタートアップへ投資。前職は、デロイトトーマツコンサルティングおよびKPMGマネジメントコンサルティング(創業メンバー)にて、企業の海外進出や経営統合(Post Merger Integration)に従事。グロービス経営大学院(MBA)講師。ハーバードビジネススクール卒(MBA)、オハイオ州立大学ビジネス学部卒(優秀賞)。

湯浅エムレ秀和(以下、湯浅):私は28歳で入社し、5年が経ちました。入社の経緯は、コンサルを経てMBA留学をしている際に、アメリカでは新しい産業が次々と生まれ、産業や企業の新陳代謝が活発な光景を目にしたことです。当時日本は、今よりもスタートアップが誕生するエコシステムが整っていませんでした。ある意味危機感に似た感情があり、この状況を打開するキャピタリストという仕事に興味を持ったのです。

転職先選びは慎重に行っていて、ウェブサイト上のポートフォリオを見ながら、イケてるベンチャーに投資しているVCを絞り込み、さらに知人の起業家にも複数話を聞きました。結果として、GCPを推す声が多数聞かれました。

そこで留学中にインターンからスタートし、卒業と同時に正式入社しています。インターン中にGCPの真髄であるハンズオンを間近で見ることができましたし、全てのキャピタリストが個人のキャリアよりも日本の発展を考えていたため、一緒に働きたいと感じました。

ーーみなさん、VC以前のキャリアは銀行、コンサルとさまざまです。入社後はどのようにして、キャピタリストとしての能力を身につけていくのでしょうか。

湯浅:キャリアが浅いうちは、メインの担当者として投資案件を持つことは少ないです。すでにキャリアのあるキャピタリストとチームを組み、仕事のいろはを学ぶことになります。入社直後からVCの全容を理解できている人は少ないので、走りながら高速でラーニングしてもらいます。

福島:教科書に業務内容が書いてある仕事ではないので、最初はミラーリングしたり、逆に自分だったらこうするだろうと思索したり、現場で学ぶことの方が多かったと思います。

渡邉:GCPでいうと、アソシエイトが、いわゆる見習いの時期です。この時期は、投資成果を求められるというよりは、複数の先輩キャピタリストとチームを組みながら基礎を学び、多くの案件に触れて頂き、自分なりの「型」をつくっていきます。

「好奇心」と「妄想力」——VCに求められる、“時間軸”で技術進化を読み解く力

ーーGCPでは、キャピタリストとしての「型」を、どのようにつくっていくのでしょうか?

福島:同じ組織であっても“芸風”がバラバラなので、まずは複数の先輩からスタイルを盗むこと。その上で、自分が好きな起業家のタイプや、得意な領域を明確にしていくことが大事です。

湯浅:どの分野に強いキャピタリストなのか、どういったサポートができるキャピタリストなのか…ブランド構築や差別化には、正解がありません。自分の性格や市場のオポチュニティなど複眼的な目線で、自分なりの勝ち筋を考えていく必要があります。

ーー入社してから最初の案件が決まるまで、どのくらいの時間がかかりましたか?

渡邉:私はVC経験者ではありましたが、それでも最初の自身の投資案件が決まったのは、入社してからおよそ1年後くらいだったと記憶しています。明文化はされていませんが、GCPスタイルのベンチャーキャピタリスト像を習得するにはある程度時間がかかり、その後に案件を回せるようなるためです。

なお、「何年経たないとメインで案件を持てない」といった決まりはありません。また、必ずしもメイン案件を持つことが早ければ良いものとも思っていません。本人の意向や成長スピード次第という部分もあります。

ーーちなみに、案件を持つまでの1年間はどのようにして過ごすのでしょうか?

湯浅:私は海外歴が長かった上に、前職はスタートアップと縁のない環境でした。なので、知り合いがほとんどいない状態でVCとしてのキャリアをスタートしています。最初は仲間づくりと、サブとして参加している案件の支援が中心でしたね。

85年生まれなので「85年会」を主催したり、当時はフィンテックに詳しいわけではないのですが「フィンテック飲み会」を開催したり。投資先の支援を同時並行で行いながら、起業家たちと信頼関係を築き、スタートアップコミュニティに溶け込んでいくことを意識していました。

ーーVCとしてのキャリアをスタートさせる上で、たとえば「ファイナンスに強い」など、特別な知識は必要ですか?

渡邉:「ファイナンスのバックグランドは必要ですか?」とよく聞かれますが、少なくとも入社時点では、ファイナンスの専門スキルは必ずしも必要ないと思っています。Day1の時点では、コーポレートファイナンスやアカウンティングの基礎が備わっていればそれで十分です。どちらかといえば「経営全般を俯瞰的に見たことがある」経験の方が重要だと思います。

湯浅:必ずしもスタートアップで働いた経験が必要かといえば、そうでもない。僕が考える重要な素養は「好奇心」と「妄想力」です。私たちの仕事は、常に変化を続けるテクノロジーに投資をすること。そうした変化への好奇心がないと仕事を続けていけないでしょう。

また将来の成長性に投資をする仕事でもあるので、「このテクノロジーや業界は、数年後どういった姿になっているんだろう」と妄想できるクリエイティビティも必要です。そうでなければ、ただの“評価者”になってしまいます。

福島:ここで言う「好奇心」とは、ただの「新しいモノ好き」を指しているのではありません。VCの仕事は「今後どういった時間軸で技術が発展し、どのようなチャンスが訪れるのか」を、情熱を持ち、かつ冷静に読み解くことでもあります。ただテクノロジーの進化を追うのではなく、より俯瞰しながら考えられる能力が求められるのです。

折れない“胆力”の有無が、VCの名を冠する資格

ーーお三方の仕事内容についても詳しくお伺いしたいです。投資案件が始動するまでに、どのような流れがあるのでしょうか?

渡邉:投資の意思決定プロセスは、複数段階に分かれており、本格的に検討を開始してから意思決定に至るまで、1~2ヶ月ほどかかります。この間は投資をするか否かの審査期間でもあるのですが、本質的には起業家と共に事業計画のリバイスや精緻化を行う過程で、起業家との信頼関係を築くためのプロセスだったりします。

ーー投資先の判断基準はありますか?

渡邉:市場性や競争環境、それらを元にした競争戦略など、教科書的な論点を潰すのは当然のこととして、究極的には“人”選びです。

福島:GCPの特徴は、投資後に経営に参加し、ハンズオンで支援をしていくこと。その際は、経営的な助言をするだけでなく、経営者の孤独に寄り添うなど、紋切り型ではない「パートナー」としての役割が求められます。

ベンチャー企業ですから、成功確率を緻密に計算しても、その通りになることはほとんどない。仮説を立てることは重要ですが、最後は起業家の想いが大事になる。なので、「一緒に挑戦したい」と思える人間性がすごく大事です。

渡邉:私たちも起業家同様に、職を辞する覚悟を持って投資をしています。そうした覚悟に踏み切れるかどうかは、ビジネスの発展性だけに依存しないのです。

ーー異業種から転職された経験を踏まえ、VCに向いている人の特徴はどのような性質だと思いますか?

湯浅:面接で見ている点でいうと、何よりもマインドセットです。めまぐるしいスピードで変化していくベンチャー企業と接するので、課題が発生したときに、それらをどうやって乗り越えていくのかを考え抜けるタフさは重要になると思います。

渡邉:課題が発生したときに、自分ごととしてすぐに対峙できるかも大事です。やるべきことを遂行していればある程度融通の利く仕事ですが、投資先のトラブルを自分ごととして捉え、すぐにでも駆けつけられるフットワークの軽さは重要になると思います。

福島:複数の投資先企業の経営陣のパートナーとして同時並行で働くということは、複数の企業の波が合計されてランダムな波形を描くことを意味します。つまり、うまくいかないことが連続して発生することもある。そうした際に、折れない胆力や想いの強さを持っているかが、向き不向きを分ける分水嶺になるのではないかと。

数年前と比較して、現在はスタートアップに関する情報量が増えています。起業家に会えるチャンスも増えている。なので、VCへの転職を考えているのであれば、一度起業家に会って話をしてみることをお勧めしますね。

起業家に寄り添い、長い旅路を歩く。ビジネスモデルのアップデートを担う、未来のVCたちへ

ーー起業家の挑戦に伴走するVCの仕事ですが、一方でGCPも新たな挑戦をしています。先日は375億円という大型調達をした6号ファンドの設立が発表されました。今回の発表には、どのような意図があるのでしょうか?

福島:GCPは「ユニコーン創出ファンド」を志向しており、社会の基盤となるスタートアップを輩出することをミッションに掲げています。他のVCとの違いは、アーリーステージからレイトステージまで、起業家に寄り添い、長い旅を続けていく点です。

1社に最大50億という大きな金額を集中投資し、専任チームを組成してハンズオン支援を行う。現役で活躍する実績豊富なVCとともに、日本からユニコーン企業を複数生み出していくことを、本気で目指しています。

私たちにとっても、VCビジネスモデルをアップデートする挑戦です。新たにメンバーを加え、非線形の成長をしていきたいと考えています。

ーー最後に、GCPでVCとして挑戦していくことを考えている読者に、メッセージをお願いします。

湯浅:私たちGCPはこれまで23年にわたり、高い志をもって日本のスタートアップを支えてきたファンドです。しかし日本の産業全体へのインパクトを考えれば、まだまだスタート時点でこれからやるべきことがたくさんある。今まで培ってきた知見や実績にレバレッジをかけ、今までの延長線上にない新たなチャレンジをしながらさらなる飛躍をしていきたいと考えていますので、同じ志を持つ方はぜひGCPの門を叩いてください。

福島:「10年後や20年後に世の中はこうなっていてほしい」という世界観を持ち、起業家と共に実現していく熱量をもっている人にGCPのプラットフォームを最大限活用して一緒に新たなVC像を切り開いてもらいたいです。

渡邉:ありがたいことに、GCPは日本のVC・Startup業界でのプレゼンスは相応に高い状態にあると思っています。一方、今がBestとも、完成形とも全く思っていません。良い意味でGCPを壊し、より良い形に再構築できるような、気概のある方のご応募をお待ちしています。


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