400億円ファンド組成のGCP、“次の一手”。バリューアップチーム「GCP X」で和製ユニコーン輩出を加速

2019年4月、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)は、過去最大の規模となる運用額400億円の6号ファンド組成を発表。1社あたり最大50億円を投資し、日本発のユニコーン企業創出を目指すことを表明した

そして、2020年1月、GCPは“次の一手”を繰り出す–––投資先企業のグロース支援に特化した、新組織・GCP Xの創設だ。経営面から組織・人材面、そしてオペレーション面まで、中長期的なバリューアップにコミットする。

昨今は、国内外でVCによるバリューアップチーム創設の動きが盛り上がっているが、GCP Xはユニコーン輩出のため、世界でも先駆けた存在を目指す。

GCP XのTeam Headには、ZOZOで本部長として事業立ち上げやグローバル展開を推進してきた、小野壮彦が就任。小野はZOZO参画前も、起業と楽天への売却、そしてエグゼクティブサーチのトップファーム・エゴンゼンダーのパートナーも経験してきた。

本記事では小野に加え、GCP Xの立ち上げを主導したキャピタリスト・湯浅エムレ秀和、採用支援とコミュニティづくりを手がける水野由貴にインタビュー。創設の背景と勝算を訊いた。

(取材・構成:小池 真幸  写真:栗村智弘

企業価値を“急激に”高め、多数のユニコーンを輩出する

ーーまず、GCP Xを創設した背景を教えていただけますか?

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ Head of Value up Team・小野壮彦
1999年にネットエイジ社の支援を受けて、起業を経験。創業したプロトレード社を楽天へ企業売却したのち、Jリーグヴィッセル神戸の取締役事業本部長として、クラブ経営、チーム強化に従事。その後、エグゼクティブサーチのトップファームである、エゴンゼンダー社にて、国内外の大手企業の経営陣の強化に携わる。ヘッドハンティング、アセスメント、コーチングを、100社以上の企業、約5000人の経営人材へ実施。2015年にパートナー就任。直近では、株式会社ZOZOに参画し、本部長に就任。プライベート事業本部の立ち上げ、ゾゾスーツの開発および販売、海外72か国へのグローバル販売展開を推進。SDAボッコーニ経営大学院卒(MBA)

小野壮彦(以下、小野):最大の目的は、数多くのユニコーン企業を輩出することです。そのために、企業価値を“急激に”高めるお手伝いを行う組織として、GCP Xを立ち上げました。

ーー具体的に、どういった支援を行うのでしょうか?

小野:投資先経営陣のパートナーとして、組織・人材面からオペレーション面まで積極的に支援していきます。組織・人材面では、人材紹介や人材調達機能の構築支援に加え、企業のフェーズに応じた経営陣の体制づくりまでサポート。オペレーション面では、各領域の専門家を集めたアドバイザーネットワークと、GCP X内部のメンバーが有機的に連携して支援を行います。

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター・湯浅エムレ秀和
主に産業変革(デジタルトランスフォーメーション)を目指す国内ITスタートアップへ投資。担当投資先は、GLM(香港上場企業により買収)、New Standard、センシンロボティクス、MFS、フォトシンス、Global Mobility Service、Shippio、CADDi、Matsuri Technologies等。グロービス経営大学院(MBA)講師。ハーバードビジネススクール卒(MBA)

湯浅エムレ秀和(以下、エムレ):GCPはこれまで、HR(Human Resources)、PR(Public Relations)、IR(Investor Relations)、そしてエンジニア(EngineeR)の「4R」の側面で投資先をハンズオン支援してきました。ただ、投資先の事業規模や目指す世界観が大きくなるにつれ、さらに強力な支援を実施していく必要性を感じてきていて。キャピタリストのハンズオン支援だけだと、時間的制約や専門性の観点から、支援内容に限りができてしまうので。

ーーより専門的で、射程の長い支援を行なっていくために、GCP Xを設立されたと。

エムレ:はい。専任チーム化することで、ノウハウが蓄積されて再現性も高まりますし、投資案件を横断してノウハウやネットワークを共有することも可能になります。また、社外の専門家も巻き込みやすくしたい意図もあります。

“バリューアップチーム戦国時代”における、GCP Xの独自性

ーー昨今は、投資先のバリューアップ支援を手がける専任チームを設置するVCが、国内外で増えている印象があります。GCPならではの強みは、どこにあるのでしょう?

小野:事業と組織を包括した、中長期的な経営戦略に基づいて支援する点です。たとえば、投資先企業や担当キャピタリストから「このポジションの人がほしい」とオーダーされたときも、機械的に従うことはしません。「いや、そのポジションの人が一緒に働きたくなる上司として、まずは役員を採用したほうがいいのではないか?」と、一歩立ち止まって上流から議論します。

ーー下請け組織ではなく、経営者と同じ目線で支援しているのですね。

エムレ:そもそも、GCPのVCとしての成長戦略を考えるうえで、先行しているアメリカ市場でのVCの差別化戦略を研究しました。すると、大きく「3つの方向性」があると気づいたんです。

ーー「3つの方向性」?

エムレ:1つ目は、ブランドやファンドレイズ力にレバレッジをかけ、シードからレイターまで、スタートアップの資金ニーズを一気通貫でカバーする戦略です。たとえば、セコイア・キャピタル。メインファンドを維持しつつも、スカウトプログラムでシードステージをカバーし、グロースやグローバルグロースファンドでレイターもカバーしています。スタートアップに対しては継続して資金提供できる魅力を提供しつつ、優良案件は「外に逃がさない」ようにしているんです。中国・インドなどグローバルに広げ、さらにヘッジファンドまでやっていた時期もあるので、さらに飛び抜けています。

2つ目は、バリューアップチームによる差別化戦略。この戦略を取っているVCの典型例としては、アンドリーセン・ホロウィッツが挙げられます。40人の投資チームに対して、160人以上のバリューアップチームを抱えているようです。先述のセコイア・キャピタルと競っていた最近の案件では、投資前に社内ヘッドハンターを20人近くを動員し、投資先に対する支援力で競り勝ったと聞いています。

そして3つ目は、古き良きトラディショナルなVCで、少数精鋭のスターパートナーだけでチームを構成し、彼ら/彼女らとの近い距離間を差別化要素にする戦略。5〜7人のパートナーのみで莫大なリターンを生み続けている、ベンチマーク・キャピタルが好例です。

ーーGCPは、3つのうちどの戦略を取っていくのでしょうか?

エムレ:1つ目と2つ目のスタイルを掛け合わせたアプローチを取っていきます。6号ファンド設立を発表した際に掲げたように、シード・ラウンドから時価総額1,000億円を超えるユニコーン・ラウンドまで継続的に投資支援を行う“First to Last”を投資戦略に置きつつ、GCP Xで経営観点でのバリューアップ支援も実施します。ファンドとしての継続性を重視するGCPとしては、3つ目は取らないことにしました。

日本一のバリューアップチームをつくるため、メンバーは絶対に妥協しない

ーーGCP Xの創設は、400億円の大型ファンド組成と“車の両輪”、ユニコーン輩出のために欠かせないピースだったのですね。GCP Xチームの中では、みなさんどのような役割を担っているのでしょうか。まずは小野さんから、教えていただけますか?

小野:僕は、Team HeadとしてGCP X全体のマネジメントを行いつつ、投資先の経営陣に組織づくりやリーダーシップについての目線を引き上げてもらうべく、定期的なメンタリングやコーチングを行なっています。

また、投資先に経営人材を紹介する際に活用するCxOプールを構築すべく、30代中心の優秀な人材とネットワーキングもしています。文句なしで優秀な30人程度を集めた、濃厚な人材プールをつくりたい。

エムレ:身内を褒めるのも変な話ですが、小野は圧倒的にすごい人間なんですよ(笑)。GCP Xの立ち上げ時には、とにかく人にこだわっていました。日本でNo.1のバリューアップチームを作るため、メンバーには絶対に妥協したくなかった。

小野:いや、そんなに持ち上げられると気持ち悪いんだけど(笑)。

ーーいったん、お話しいただきましょうか(笑)。

エムレ:手前味噌になってしまうのを承知で、これだけは語らせてください。ZOZOでグローバル展開を主導していたのはもちろん、起業経験もエグジット経験もあるので起業家と同じ目線で話せます。そして、世界的なサーチファームのエゴンゼンダーで、GAFAMや日本の大企業のプロ経営者相手に10年間もヘッドハンティングを手がけてきました。

小野は、まさにGCP Xを率いるに最適な人材だったんです。三顧の礼どころじゃないくらい、徹底してスカウトしましたね。小野がいなければ、GCP Xは立ち上げられなかったと思います。

小野:僕にとっても、すごく良い話でした。ソニーやホンダのように、日本発のグローバルカンパニーを作りたくてZOZOに入ったものの、道半ばで辞めることになってしまった。その後は独立しようと準備を進めていたのですが、20年来の仲である、GCPの代表パートナー・仮屋薗聡一に話を聞くうちに、考えが変わった。

第2、第3のメルカリとなるグローバルカンパニーを、VCとして生み出していくのもありなんじゃないかと思うようになったんです。普段はクールなのに、ものすごく青臭くて熱い想いを秘めているメンバーたちにも惹かれました。

GCP Xは、「毎月仕事が変わっていく」環境

ーー小野さんの参画がいかに熱望されていたか、よく伝わってきました。エムレさんは、どのようなロールを担っているのでしょうか?

エムレ:私は1年半ほど前から、世界の先行事例についてリサーチやヒアリングを重ね、GCP Xの立ち上げを主導してきました。現在は、キャピタリストとしての投資業務を本業としながら、GCP Xチームの体制構築や、アドバイザーの方々のスカウトや関係強化も手がけています。キャピタリストの現場に身を置いている人間として、投資先経営陣やキャピタリストが必要とするサポートをGCP Xチームにフィードバックしつつ、GCP Xの活動強化と体制拡大を目指しています。

ーー水野さんはいかがでしょう?

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ タレント・マネージャー・水野由貴
人材総合サービスを展開するエン・ジャパン株式会社にて、求人広告営業として入社。人材紹介部門の立ち上げに関わり、人材紹介営業、コンサルタントを経験し、あらゆる立場にて企業の採用を支援。同社の経営戦略、新規事業開発に携わる中、戦略的子会社の立ち上げに参画し、代表取締役社長としてビジネスパーソン向けのマインドフルネスソリューションの拡大に携わる。同事業を譲渡後、2018年10月、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。

水野由貴(以下、水野):私は、GCP Xの立ち上げに全面的にコミットしつつ、主に2つのロールを担っています。まず、投資先企業の採用支援。経営会議にも参加しながら、小野と一緒にメンタリングや組織課題のヒアリングを実施し、CxO採用をサポート。エージェントさんとの引き合わせや、採用の成果を最大化するための訴求方法についてのアドバイスを行ったり、CxOプールの構築も手伝ったりしています。

2つ目は、GCP Xのコミュニティづくり。起業家がなかなか接点を持ちづらい講師を呼んで、投資先向けの勉強会を開催するなど、キャピタリストと起業家の間で、担当の垣根を超えた横のつながりをつくるための支援をしています。

エムレ:他にも、キャピタリストの採用もリードしてくれたり、毎月仕事が変わっていますよね(笑)。

水野に声をかけたのは、人材エージェントとしてのバックグランドに加え、経営経験があり経営陣と同じ目線で議論ができそうだと思ったのが大きいです。また、GCP X立ち上げ期のカオス環境を楽しんでもらえそうな性格だった(笑)。もともとスタートアップ界隈の人たちと仲が良く、仕事関係なく人と人をつなぐことが好きなタイプに見えたのも、コミュニティづくりのうえで欠かせないと思いました。

水野:飲み会をセッティングするのが趣味なので(笑)。私にとっても、GCP Xの立ち上げは願ってもないチャンスでした。まず、自分が会社経営をしていたときに、相談できるアドバイザーの方々が多くいたわけではなかったので、大変だった経験があります。だからこそ、「GCP Xのような組織があれば、どれだけありがたいだろう」と思い、ジョインする事を決断しました。もともとスタートアップが好きで、もっとエコシステムが発展してほしいとも思っていましたしね。

“ブーストをかけるブースター”であり続けるために

ーー最後に、GCP Xが大きなインパクトを残していくために、今後取り組んでいくテーマを教えてください。

小野:投資先企業への「問いかけ」ですね。僕たちは、“ブーストをかけるブースター”でありたいと思っています。世界には、想像もつかないようなスピードで成長し、半年や1年で全く違う事業規模に到達するスタートアップが存在します。日本にいると、そうしたクレイジーな成長からは縁遠くなってしまうので、目線を高く持つための問いかけを行なっているんです。もっと貪欲に、ワクワク感を持って進んでいくために、「中長期的にどうなりたいか?」を問いかけています。

エムレ:日本のスタートアップエコシステムは、いま変曲点を迎えています–––世界を代表するユニコーン企業をコンスタントに出していけるか、それとも一過性のブームで終わってしまうのか。もちろん、僕らは「出していける」と思っているので、400億円の6号ファンドやGCP Xをはじめ、チャレンジを続けているんです。

まずはGCP Xを通じて、目に見える変化を作っていきたい。投資先をブーストすることで、従来5年かかっていたものを3年に短縮したり、従来だったら100億円の売上だったものを200億円にしたり。高い精度でPDCAを回し続けていくために、質の高い人材を妥協せずに集め、強いチームをつくっていきたいです。

水野:GCP Xのチームづくりには、かなり力を入れています。ポテンシャルあふれる起業家と対峙し、グロースのための手立てを思案していけるのはすごく魅力的だと思うので、一緒に取り組んでいけるメンバーをもっと増やしたいです。GCP Xを、日本を牽引する存在にしていきたいし、そのための仲間も積極的に採用したいです。

ーー採用に力を入れていくということですが、どんな人にGCP Xの門を叩いてほしいか、人材像を教えていただけますか?

水野:採用チームは、スタートアップに愛を持ち、成長を支援したいと思っている方に来てほしいです。スタートアップ経営者のエネルギーを間近で感じながら、組織課題を解くための、オペレーション支援や、キーパーソンの採用やコミュニティ支援コミットしてみたい人は、ぜひご連絡ください。

小野:オペレーションチームは、将来的に経営者になりたいと思っている人にとって、キャリアの“中継地点”になるでしょう。スタートアップの魅力を体感できますし、独立したプロフェッショナルとしてさまざまなプロジェクトを手がけるなかで、たくさんの経験や出会いが積み上がりますから。

エムレ:2018年に「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家」に選ばれたGCPの代表パートナー・高宮慎一のように、GCP Xメンバーからも、個が立っているスタープレイヤーを生み出していきたい。将来的には、「小野さんと水野さんをはじめとするGCP Xにサポートしてほしいから、GCPから投資を受けたい」と希望する起業家が現れるレベルまで持っていきたいです。

アメリカのVCのバリューアップチームが集まるカンファレンスに参加したときに体感したのが、VCのバリューアップチームは、世界でもまだまだ未完成のモデルだということ。近い将来、日本からバリューアップチームのベストプラクティスを世界に発信していけるはずですし、そのくらいの気概を持った方と一緒に挑戦していきたいです。

GCP Xで共に働くメンバーを募集します

写真左:代表パートナー・高宮慎一
写真中央上:代表パートナー・今野穣
写真中央下:Head of Value up Team・小野壮彦
写真右:代表パートナー・仮屋薗聡一

グロービス・キャピタル・パートナーズのバリューアップチームである、GCPXにご興味ある方を募集します。

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