「VC」の定義を覆し、ユニコーン輩出プラットフォームをつくる──キャピタリストの“相棒”組織、GCP Xの軌跡

2020年1月、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)は、投資先企業のグロース支援に特化した新組織・GCP Xを立ち上げた。創設から半年、国内外で類を見ない「事業と組織を包括した、中長期的な経営戦略に基づいて支援する」バリューアップチームは、いかなる成果を挙げてきたのか。

本記事ではGCP XのTeam Headを務める小野壮彦、そしてGCPの代表パートナーである今野穣と高宮慎一に、GCP Xの半年間を振り返ってもらった。キャピタリストのパートナーとして、投資先の事業・組織戦略を強化し続けるGCP Xが見据える、「VCのニュースタンダード」とは?

(構成:鷲尾諒太郎、取材・編集:小池真幸

継続的にユニコーンを輩出するには、「カネの出し手」では不十分

──2020年1月のインタビューで小野さんが話していたように、GCP Xは「数多くのユニコーン企業を輩出するため、企業価値を“急激に”高めるお手伝いを行う組織」なんですよね。

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 高宮慎一
戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導した後、2008年9月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。2012年7月同社パートナー就任。2013年1月同社パートナーおよび最高戦略責任者(CSO)就任。2019年1月代表パートナー就任、現在に至る。東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、ハーバード大学経営大学院MBA修了(二年次優秀賞)。

高宮:GCPが目指しているのは、時価総額1,000億を超えるようなメガベンチャー、ひいては新しい産業を永続的に創り出し続けるプラットフォームになること。そのためには、資金だけでなく、ユニコーン企業になるためのサポートを多角的に提供する必要があります。

そうした資金面以外の支援は、これまでは個々のキャピタリストの属人性に依存する側面が大きかった。しかし、プラットフォームになるためには、再現性を持って投資先の成長を支援する仕組みを構築しなければいけません。そこで、主として組織面の戦略と実行をサポートするチームとして、GCP Xを立ち上げたんです。

今野:リードインベスターとしてハンズオン支援を提供するスタンスは、24年前に1号ファンドが設立されて以来、ずっと変わっていません。2010年代に入っても、資金面、事業戦略面のサポートはもちろん、HR(Human Resources)、PR(Public Relations)、IR(Investor Relations)、エンジニア(EngineeR)の「4R」の側面から、個々のキャピタリストがスタートアップに伴走してきました。

しかし、高宮が言った通り、さらに多くのユニコーン企業を継続的に生み出していくためには、組織として再現性を担保しなくてはなりません。そのために、これまでキャピタリスト個人が外部パートナーの力も借りながら担ってきた組織戦略面のサポートにコミットし、“成長の方程式”を生み出すためのチームが必要でした。

小野:僕がGCP Xにジョインした背景には、日本のスタートアップシーンがいよいよ本格化してきたこともあります。特にここ5年ほどで、スタートアップにも豊富な経験を持ったプロフェッショナル人材が参入し、グローバル視点でも見劣りしない経営チームを組成するようになってきました。その潮流を象徴するのがメルカリでしょう。メルカリが過去のスタートアップと「一味違うぞ」と思われていた点に、創業初期から一貫して、一国一城の主になれそうな強者たちを次々と採用していたことが挙げられます。

この流れを加速させれば、日本からもグローバル企業を生み出していける──そう感じるようになっていたとき、GCP XのTeam Head就任を打診してもらったんです。スタートアップとプロフェッショナル人材の架け橋となり、世界に通用するユニコーン企業を生み出していくために、「いまやるしかない」と思って引き受けました。

キャピタリストのパートナーとして、投資先の事業・組織戦略を強化

──立ち上げから半年が経過しましたが、手応えはいかがですか?

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ Head of GCP X 小野壮彦
アクセンチュア戦略チームを経て、プロトレード を創業。M&Aにより楽天へ事業譲渡。その後、プロ経営者として、Jリーグ、ヴィッセル神戸、家電ベンチャー アマダナの取締役を歴任。経営人材コンサルティングのエゴンゼンダーに参画し、パートナーとして経営陣へのアセスメント、コーチングおよびヘッドハンティングを実施。近年はZOZOに本部長として参画。プライベートブランド立上げ、および国際展開をリード。2019年10月当社入社。早稲田大学商学部卒、ミラノ・ボッコーニ大学MBA。

小野:まず驚いたのは、思っていた以上に、キャピタリストが愛情を持ってGCP Xチームに接してくれたことです。今野が話していたように、GCPには、投資判断から投資後のハンズオン支援まで、個人として一気通貫でサポートができるキャピタリストが揃っている。だからこそ、「自分でできるからサポートはいらない」という反応が来ることを懸念していました。

しかし、それは杞憂に終わりました。立ち上げ当初から、僕たちをクライアントとの重要なミーティングに連れて行ってくれて、「自由に話していいよ」と全面的に支援を任せてくれた。GCP Xというチームを尊重し、下請け組織ではなく対等なパートナーとして接してくれたんです。

そして、プロフェッショナルファームとしては珍しいと思うのですが、GCPは本当にみんな仲がいい。新参者である僕に、できるだけ早く溶け込めるように気を配ってくれました。これは嬉しいサプライズでしたね。

今野:キャピタリストとGCP Xでは、役割も強みも全く違います。だからこそ、対等な立場で密接な協力関係を築くことが重要だと思っているんです。

──キャピタリストとGCP Xは、補完関係にあるのですね。

小野:両者の役割が溶け合い、渾然一体となって投資先に伴走できている感覚が、徐々に持てるようになりつつあります。

たとえば、キャピタリストが支援している事業戦略面と、GCP Xがサポートしている組織戦略面を連動させられるようになった。事業戦略と組織戦略は、それぞれ独立したものではなく、密接に絡み合っている。企業が成長していくためには、両者がしっかりと噛み合わなければなりません。キャピタリストは、事業面を主戦場にしながら、組織戦略にも携わる。GCP Xは、組織戦略を主に支援しながら、事業戦略の立案にも貢献していく──そうした相互作用のサイクルが築けたことが、この半年の最大の収穫ですね。

そして、こうした手応えを感じられているのは、ひとえに優秀なメンバーを集められたことが大きいです。たとえば、マッキンゼーとスタートアップ経営を経て、GCP Xにジョインしてくれた堀江隆介。コンサルティングファームで身につけた課題解決力、スタートアップの経営を通して学んだ組織運営の知見を活かして、事業戦略と組織戦略と連動させる動きを加速してくれています。

また、立ち上げからGCP Xに参画している水野由貴が、クライアントの採用に伴走する役割を担ってくれているのも心強いです。彼女のおかげで、単に人を紹介するだけではなく、人を引き付ける力や評価する力といった投資先の採用力そのものを強化しながら、組織戦略の実行支援に取り組めています。

全員に「経営」経験があるから、上流から下流まで支援できる

──パートナーの二人は、この半年のGCP Xの動きをどのように見ていますか?

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 今野穣
経営コンサルティング会社(アーサーアンダーセン、現PwC)にて、プロジェクトマネジャーとして、中期経営計画策定・PMI(Post Merger Integration)・営業オペレーション改革などのコンサルティング業務を経て、2006年7月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。2012年7月同社パートナー就任。2013年1月同社パートナーおよび最高執行責任者(COO)就任。2019年1月同社代表パートナー就任、現在に至る。東京大学法学部卒。

今野:GCPが24年間蓄積してきた、組織運営に関する知見が体系化されつつあると感じています。

たとえば、ストックオプション制度をはじめ、評価制度や報酬制度は設計ロジックがブラックボックス化しがちです。キャピタリストが投資先にアドバイスする際も、個々の経験や知っている事例にもとづく、属人的なものになってしまうことがほとんど。しかし、GCP Xのおかげでその知見が体系化され、より多くの投資先に、再現性を持って価値を提供できるようになってきました。

高宮:GCPのケイパビリティを、より強固なものにしてくれましたよね。我々キャピタリストの投資先支援は、事業側の戦略の立案から実行までのサポートと、組織に関する上流部分、すなわち戦略の部分がメインだった。理想の組織をつくり出すための施策の実行までは、手厚くはサポートしてきれていませんでした。

しかし、GCP Xの登場によって、事業と組織を戦略面で連動させながら、戦略立案から実行まで一貫して伴走できる体制が整ったんです。今後のGCPにとって、これは大きな武器になると思っています。GCP全体の特徴でもあるのですが、キャピタリストとGCP Xのメンバーは、全員が経営目線を持っています。そして、GCP Xのメンバーは、組織面で戦略を実行に移した経験も持っている。組織を率いた経験があり、論理だけではなく人間の情理を理解しているメンバーが揃っているからこそ、組織づくりの上流から下流まで一貫してサポートできるんです。

今野:具体例でお話しすると、海外進出も進めながら、大きく成長している我々の投資先企業があります。組織が大きくなると、マネジメント層の誰もが経験したことのない、新たな組織課題がどんどん発生していく。そこで、小野がその企業の経営層全員に、1on1でメンタリングやコーチングを行っています。過去にはエグゼクティブサーチのトップファーム・エゴンゼンダーで経営陣コーチングを実践し、ZOZOでプライベートブランド事業部門の本部長として、大きな組織を率いた経験も持つ小野だからこそ提供できる価値ですよね。

またGCP Xは、単なるエージェント機能に止まらず、次世代の経営層候補となるマネジメント人材のヘッドハンティングも手がけています。経営層へのアドバイスから実際の採用活動に至るまで、広範に支援できるチームは、他にはないと思いますよ。

VCのニュースタンダードをつくり出す

──今後のGCP Xの展望を教えてください。

小野:VCの「当たり前」を書き換えていきたいです。採用の候補者を送ったり、人事制度の構築を支援したりするだけではなく、上流の組織戦略からアプローチしていくバリューアップチームは、グローバルで見ても稀だと思っています。世界中から注目が集まるようなチームになって、「VCならここまでやらなくてはいけない」と業界の常識をアップデートしていきたい。

今野:これまでVC業界は、資金力がものを言う世界でした。もちろん、巨額の投資を受けたことで成功を収められたスタートアップも存在しますし、多額の資金を投下すること自体が悪いわけではありません。

しかし、一方で弊害も起こっています。莫大な資金の使い方を誤り、失速してしまった例は枚挙に暇がありません。採用に力を入れるだけではなく、育成の制度を整える。マーケティングに費用を投下するだけでなく、盤石な組織体制を構築する──VCとしてユニコーン企業を生み出し続けるためには、お金ではない部分の支援にも力を入れることが必要だと思っています。

高宮:VCのモデルそのものが、大きく変わるタイミングが訪れています。そして、我々が新しいモデルを描いていく役割を果たしていきたい。「これまでのGCPを倒すのは、これからのGCPだ」という気概で、過去の自分たちを否定し、これまでのやり方をアンラーニングしていかなければいけないと思っています。

──VCの新しいモデルを築き上げるために、現在はどんな課題に取り組んでいますか?

小野:組織戦略の“形式知化”です。「組織がこんなフェーズに来たら、こんなことに取り組まなければならない」といった“型”を、もっとつくり出していかなければいけません。

社内のエンジニア比率は適切か。比率が低い場合、どんなスキルを持った人を採用すべきか。既存事業と新規事業、それぞれどのくらいのリソースを投下すべきか──投資先がこうした課題に直面したとき、最適解を提示できるチームをつくり上げたい。そのために、過去の事例を体系化していきます。

今野:似たフェーズの企業は、抱える課題も近しくなりがちです。アーリー期からレイター期まで、幅広いフェーズの企業を近くで見ているGCPだからこそ、課題解決の法則を導き出せると思っています。GCPのメンバーの知見をフル稼働させて、経営を科学していきます。

小野:そのために、GCP Xの人員拡大も進めなければいけません。もちろん、メンバー選びは絶対に妥協したくない。ハードルは高いですが、そのハードル超えた先には、とてもエキサイティングな仕事が待っています。「我こそは」という人に出会いたいですね。

高宮:GCP Xは、今がとても面白いフェーズ。スタートアップにたとえると、シード期の産みの苦しみを乗り越え、PMFが見えてきた、シリーズAくらいのフェーズまで来ました。VCというモデルを根底から変えるチャレンジの、本当の勝負はこれからです。

(了)

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※新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、インタビューはオンラインで実施、写真は過去に撮影したものを使用しました。