VCとしての新たなビジネスモデルの創造に取り組むグローバル・ブレイン 背景・その勝機に迫る –グローバル・ブレイン 立岡恵介・中川太介 × GCP渡邉佑規 対談

起業家の数が着実に増え、ベンチャーエコシステムが形成されつつある日本だが、まだまだ投資家の数が足りていないのが現状だ。VC各社が採用活動を強化しているものの、仕事の中身や魅力を業界の外にいる求職者に伝えるのは難しい。また、起業家にとって資金調達をする際、どのVCから資金調達するかは大きな判断ではあるものの、VCによって異なる特徴を、投資を受ける前から把握することは難しい。

本連載では、グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパルの渡邉佑規と日本の主要VCに在籍する投資家が対談を行い、将来のVCの成り手や起業家に、VC各社に関する適切な生の情報をお届けする。

連載2回目となる今回はグローバル・ブレインの立岡恵介氏、中川太介氏をゲストに迎え、大企業と協業して投資を行う新たな事業スタイル、チームで投資先の成長を支援する独自の運用体制、同社が考える“支援を行わない”ハンズオン施策について語っていただきました。

(構成:オバラ ミツフミ 編集:長谷川リョー

“スタートアップエコシステム”を創出する「CVC×純投資ファンド」の取り組みとは?

渡邉佑規(以下、渡邉):グローバル・ブレインは目的の異なる複数のファンドをマネージするというユニークなスタイルで、業界内での確固たるプレゼンスを築いたVCと認識しています。いわば、グローバル・ブレインの取り組みは、新たなVCのビジネスモデルを示したとも考えています。現在のファンド運用状況と共に、背景にはどのような意図があるのか教えて頂けますか?

立岡恵介氏

立岡恵介(以下、立岡):ベンチャー企業が飛躍するためのエコシステムを日本で創造するためです。そのためには、大企業のアセットとVCの知見を掛け合わせることが最適ではないかと考えました。弊社ではそのビジョンの元、現在KDDIさん、三井不動産さんとCVCファンドという形でご一緒させていただいております。また200億円の純投資ファンドも運用しております。こちらの投資判断は純粋に投資リターンが出るかという点に尽きますが、ご出資頂いているLP様の事業創造に繋がるような投資先や、投資検討先があれば積極的にご紹介や事業連携のお手伝いをさせていただいております。

KDDIさんと共同で設立した「KDDI Open Innovation Fund」であれば、KDDIさんのお力添えの下、投資先事業に徹底したハンズオンを行うことで、資金投入やGBからの支援だけでは1から5にしかならなかった事業価値を1から10へと増加させようとしています。結果的にKDDIさんにも新規事業が生まれることをイメージし、キャピタルゲインを得る以上の価値を生み出そうとしています。

渡邉:純投資ファンドとCVCでは投資意志決定が異なることも多々あると思います。運用方法の区分はどのように行っているのでしょうか?

立岡:常に念頭に置いているのは、CVCファンド、純投資ファンドを問わず出資者の方々のアセットを活用して、ベンチャーにどのような利点を生み出すことができるのかという点です。

その中で濃淡はありますが、弊社の運営しているCVCファンドは「出資者の新規事業創出」と、「投資リターンの最大化」の2つの視点を兼ね備えながら出資先を決定しています。一方で、純投資ファンドは「投資リターンの最大化」のみを追及しています。

この投資方針の下でルールを決めて、各ファンドを運用しています。例えば、CVCファンドの出資検討先も、上記の投資基準に合致しない場合は純投資ファンドからの投資検討に移ることがあります。

こうした棲み分けが出来るため、CVCと純投資ファンドの両方を持っていることがもっとも優れたビジネスモデルではないかと考えているんです。投資先がもっともグロースする形を提案できるため、双方にとって良い関係でいることが可能になります。弊社のキャピタリストは投資家であり、事業開発の視点を持ち、なおかつコンサル的な素養も求められます。オールラウンドな能力が求められる職業ですね。

渡邉佑規

渡邉:CVCファンドでの過去の成功した投資事例を具体的に教えていただけますか?

立岡:例えばKDDIさんのCVCファンドの投資先であったLUXAやLoco PartnersはKDDIさんに買収されています。CVCファンドからの投資を起点に出資元であるKDDIさんに新たな事業が生まれた。僕たちがもっとも描きたかった絵です。そのファーストステップを自らの手で創れていることにはやりがいと嬉しさを感じています。

KDDIさんが成功している最たる要因は、常にベンチャーに対してどういう支援ができるのかを徹底的に考えていることだと思います。もちろん、協業することでKDDIの事業を拡大させることが最終的なゴールなのですが、実績も体力もKDDIと比較すると小さなベンチャーに対しては先ずは支援することから入る。まさに“ペイフォワード”を企業・組織として体現しています。結果として、投資先のベンチャーが大きく育ち、最終的にはKDDIの新規事業創出に繋がっていく流れです。大企業としてはリスクも伴う新規事業への情熱を傾ける姿勢を貫くことで、その分リターンも大きくなってくるのではないでしょうか。

渡邉:KDDIや三井不動産の方針に合わせて投資方針もリバイスされていくものなのですか?

立岡:例えば、KDDIと協業体制が始まったのは2011年頃ですが、数年間の間にKDDIさんの事業戦略も進化していくため、その度にリバイスを行ってきています。2011年当時はECやメディア等がホットトピックでしたが、現在はそれに加えて、IoTやAR/VR、AIなどの新たなテーマも次々と出てきています。

一方で純投資ファンドは全方位的に投資を行っています。バイオ領域のみ専門家がいないので現在は投資を行っていませんが、常に投資トレンドを意識しながら投資するスタイルです。

渡邉:投資の意志決定プロセスについて教えてください。他のVCとの違いとして特筆すべき点はありますか?

中川:CVCファンドの場合は、出資者とのシナジーの大きさを検討するプロセスがあります。これは投資意思決定の上での一つの重要なピースになります。

また、ファンドによらず、弊社では財務や法務などのデューデリジェンスを完全に内製化しています。私も財務のデューデリジェンスを担当することがよくあります。デューデリジェンスを通じて投資する前から、投資後のハンズオンサポートのヒントを得ることができることは弊社の強みでもあると思います。よく勘違いされるのですが、弊社のデューデリジェンスは粗探しをするのではなく、どういう点を改善していけばより強固な企業になれるのかということを見極めるために行っています。

グローバル・ブレイン流“チーム運用”が投資の成功確度をあげる

渡邉:次に、グローバル・ブレインの採用について教えてください。採用に関しても、御社はユニークですよね。

立岡:投資領域が多様化するにあたり、さまざまな領域のスペシャリストを採用しています。ファイナンスの素養は弊社の中で十分に学んでもらうことができると考えています。そのため、弊社に入ったとしても養えない、尖った経験や、技術バックグラウンドを持つ人材の採用を志向しています。

仮にキャピタリストとしてのスキルが未達の場合はサポートする人がいれば問題ありません。個人で動くというよりは、チームで案件を動かすイメージです。採用に強みを持つ人材、マーケティングに強みを持つ人材…と都度アサインする人材を変えることで成功確率を高めています。未経験者一人に全てを任せることは難しいですが、まずは投資の意思決定までのプロセスをしっかり経験してもらう。その上で不足した知識・経験を補完しあうことで組織最適な形を目指しています。

渡邉: 多様性を重視するという意味では、GCPも同じです。更に言うと、我々の場合はGCPのキャピタリストとして共通して持っていて欲しい資質と、個々人の専門性をかけあわせたT字型人材の育成を目指しています。基本的な採用・育成方針は、アソシエイト/シニア・アソシエイトとして採用し、将来的には起業家側から「ぜひこの人とやりたい!」と選ばれるキャピタリストに成長できる様、基礎から育成していきます。育成の仕方ですが、キャピタリストの仕事の多くは机上で学ぶことができないものなので、最初は先輩キャピタリストに徒弟的につきながら、投資先への効果的な支援方法を学んでいってもらいます。そうして基礎を築いた後は、ある程度一人立ちをして試行錯誤しながら自分独自のユニークさを築き上げていってもらいます。そのため、採用時には、スキル以上に「マインド」「カルチャーフィット」「経営/リーダーシップ」「好奇心」などを重視しています。一方、今後は、御社のようにスペシャリスト人材を採用、育成する必要があるようにも感じています。

ちなみに、人材の多様性を高めることのメリットは大きい一方、デメリットもあると思います。その点、どういう対応をされていますか?実際の、グローバル・ブレインの組織文化はどんな感じでしょう?

立岡:基本思想はプロフェッショナルファームですので、自己研鑽がとても大事です。パフォーマンスに対するコミットメントと、社内からのプレッシャーはもちろんあります。ご存知の通り、ベンチャーキャピタルはファンドレイズ、ソーシング、投資検討、投資後の支援、EXITと本当に多くのスキルを磨かないといけない仕事です。その中で、多様な人材を採用しているので、やはり得意分野と不得意分野はそれぞれ出てくるのは当然です。その中で、代表の百合本を先頭に経験のあるキャピタリストが背中を見せながら引っ張っていくイメージで採用した人材を育成しています。また、組織力が強いので、例えばEXITの局面では、中川のようにEXITの部分で能力の高い方に手伝ってもらったりして相互補完しています。もちろんその過程を通じて学び、自分自身のスキルへと昇華していくのですが。

そういう形で日々仕事をしているので、困ったら助けを求める。困っている人がいたら助けてあげるという組織文化が自然と出来ていますね。

中川:多様な人材がいることで、色々と学べる機会が本当に多いです。メンバー同士は比較的フラットな関係ですので、個人間のコミュニュケーションが活発に取られていて、それぞれの知識や経験が有機的に結びついていく感覚があります。実際、立岡が言うように、お互いが助け合いながら業務を進めるという事が自然と行われていると思います。

中川太介氏

自走する組織を生み出す、「支援をしない」究極的ハンズオン

渡邉:投資先への支援方法で、御社固有の方針があれば教えてください。

立岡:まず、大前提として弊社はハンズオンVCを標榜しています。ハンズオン能力は高いと自負していますし、個人技だけではなく組織力で対応できることが多いのが特徴です。

ただ、我々は中長期目線で支援をしていくことをポリシーとしています。具体的には何でもかんでもハンズオンで支援すれば良いかといえば、そうではないと思っています。最終的なゴールは、支援をしなくとも自走できる組織をつくることです。「この会社はどうすれば自走できるか」と考え、常に逆算しながら支援を行っています。

たとえば経理などの泥臭い支援をすることもあるのですが、一度型をつくれば自分たちでできるはず。人材採用に関しても、なるべくメンバー候補を紹介しますが、その後の採用フローは自分たちで担ってもらいます。弊社のハンズオンは、向こうの社員の育成も含めて考えていますね。

渡邉:ハンズオンの押し売りはせず、臨機応変に必要に応じて支援、ということですね。

GCPとしてもハンズオンに関しては、国内で最もコミットしているVCという自負を持っています。投資先のStageによって支援することは異なりますし、担当キャピタリストによってもスタイルは様々なため、一概には言えませんが、投資先の企業価値を向上させるためのあらゆる活動を支援しています。

単なる労働力の提供はせず(それは投資先の本質的な支援にはならないため)、経営戦略支援、事業開発支援、組織開発支援、Finance(Exit含む)支援などに徹し、また、経営面の支援以外に、起業家・経営チームへのメンタリティ支援も大事な要素と認識しています。この点、各キャピタリストの人間性というか、生き様が出るところですね。

渡邉:今後の新たな取り組み、どういう投資テーマに着目しているかについて教えていただけますか?

立岡:グローバルでの出資を考えていて、北米だけではなく東南アジア、イスラエルなど、幅広く投資先を増やしていければと思っています。また、ブロックチェーンや先端技術への新たな取組みも始まっています。

更に投資後に事業をスケールさせるグロースハッカーの育成にも力を入れていきます。専任の事業部をつくる予定で、投資のスキルを磨きつつ、投資先の成長を最大限に支援できる体制を整えられればと思っています。

渡邉:最後にGCPについて、評価、改善点、要望など、お聞かせください!

立岡:日本を代表するVCとして、とても尊敬しています。昨今は発行体の増資金額も大きく上がっていますし、これからも色々とコインベストメントしながら、次世代の大企業を創出していきたいです。

中川:GCPを評価させて頂くなど畏れ多いですね(笑)。学ばせて頂くことばかりです。GCPでは、投資パフォーマンスだけではなく、イベントへの登壇や勉強会の主催など、ベンチャーのエコシステムにどれだけ貢献してるか、という点も評価されると聞いたことがありますが、そういった業界全体に貢献されようというスタンスも、GCPへの高い信頼につながっているのだなと感じております。

渡邉:グローバル・ブレインとGCPはド競合のように思われる方も多いんですが、実は競合するというより、共同投資が多いVCなんですよね(メルカリ、エブリー、クリーマ、みんれび他)。引き続き頼りにしています!


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