“ただのレンタル屋”では終わらない。人びとの消費行動を一変させるレンティオの展望

日本のシェアリングエコノミー市場は拡大を続け、2020年には1,000億円を突破するとする推測もある。その潮流に乗り、2015年9月にレンタル事業を創業して以来、順調にサービス規模を拡大し、2016年からの累計レンタル注文数が14万件を突破したサービスがある。カメラや家電を簡単に借りることができるサービス「Rentio」だ。
 
創業者の三輪謙二朗氏は、楽天株式会社に新卒入社し、モバイル版楽天市場に携わりECコンサルタントとしても活動。その後EC事業を展開するベンチャー企業で勤務したのち、レンティオを起業した。
 
本記事では、同社へ投資を実行したW ventures代表パートナーの新和博氏と、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)プリンシパルの渡邉佑規を交えてインタビュー。ゲームのチュートリアルのように簡単なUX設計から、レンタル事業の普及によって悪質な商品が駆逐される理由、人びとの消費行動そのものを変える展望までが明かされた。

(構成:川尻疾風 編集:岡島たくみ

「まるで、ゲームのチュートリアル」。利用者数を伸ばす、巧みなUX設計とは

ーーまず、サービスの全体像についてお聞かせ願えますか?

レンティオ株式会社 代表取締役 三輪謙二朗氏

三輪謙二朗(以下、三輪):「Rentio」は、「購入するほどではないけれど、レンタルできるなら使いたい」商品を、スマホやPCを経由した簡単な操作で借りられるサービスです。旅行時にしか使わないカメラや半年〜1年ごとに代替えの必要があるベビーベッドなど、買っても頻繁に使わない商品を借りたり、購入を躊躇してしまいがちな高価な家電の使い勝手を試したりなど、さまざまなレンタル需要に応えています。

20〜40代の方々によく借りられていて、特に「インスタ映え」のために女性がカメラを借りられるケースが多いですね。最近だと、アクションカメラの『GoPro』がよく借りられています。元々はアウトドアでの探検のためにつくられたカメラですが、広角レンズが使われているので顔が小さく映り、背景の描写もとても綺麗なため、「インスタ映え」しやすい。購入すると5万円程度するGoProですが、Rentioを利用すれば5,000円ほどの値段で利用できるため、人気を博していますね。

W ventures株式会社 代表パートナー 新 和博氏

新和博(以下、新):僕も以前、Rentioを使ってトレーニングギアの『SIXPAD』をレンタルしたことがあります。まるでスマホゲームのチュートリアルを進めているような簡単さで、あっという間に商品を借りることができ、驚きました。商品と一緒に、返送用のダンボールも送られてきて、返却作業が大変分かりやすく設計されており、ひとりの利用者として素直に感動しましたね。

GCP プリンシパル 渡邉佑規

渡邉佑規(以下、渡邉):レンタルサービスが頻繁に利用されている印象はそこまでありませんが、よくよく考えてみると、購入するよりもレンタルしたほうが良い商品って、たくさんあります。しかし、多くの人が以前の僕のように、レンタルサービスを利用する発想を持っていない。今後、レンタルサービスを利用してもらうための認知を広めていきたいと思っています。

投資家が「ピンと来ない」からこそ、レンタル事業はブルーオーシャン

ーーお二人はどういった点が決め手になり、レンティオに投資を実行されたのでしょうか?

新:2つ挙げられますね。ひとつは、三輪さんの人としての魅力です。これまでの経験から、BtoCビジネスでプロダクトマーケットフィットを達成するためには、経営のトップがユーザーと直に向き合うことが大切だと思っているんです。その点、創業から長らく、自らカスタマーサポートを手がけてこられた三輪さんの姿勢に惹かれました。

そして、もうひとつは、事業やマーケットに可能性を感じたことです。肌感ではありますが、30〜40代男性が多数を占める投資家の人たちは、実際にあまり使わないけれど、所有欲にしたがってガジェットを集めていることが多い印象でした。それゆえ、レンタルサービスの需要に気づいている人はまだ少なく、「ブルーオーシャンなのではないか」と思ったんです。

三輪:昔は「所有することがかっこいい」という風潮がありましたが、今の若者から所有欲は感じられません。カメラを利用したい若者は多いけど、所有したい若者は少ないため、レンタルが消費形態の主流である世の中のほうが適していると感じています。

ユーザーとの向き合い方でいえば、Twitterを中心にSNSでの反響をエゴサしていて、ほぼすべての投稿に目を通していますね。困っている人がいれば声をかけますし、「Rentioに神対応された」といった投稿があればすぐに反応してしまう。自分たちがRentioというサービスをつくったことで誰かに幸せを与えられることが本当に嬉しいんですよ。

新:僕が代表パートナーを務めるW venturesは、シード/アーリーステージのBtoC事業に投資するベンチャーキャピタルです。既存のベンチャーキャピタルは、ファンドのステージが上がるごとにどんどん巨大化する傾向にあり、一社当たり2〜3,000万円の投資をするのはとても効率が悪いため、どうしても一社あたりの投資金額が大きくなります。また、全般的な傾向としても、安定した売上を積み重ねやすいBtoB SaaS事業に投資資金が流れ込みやすい現状があります。

その結果、シード/アーリーステージのBtoC事業にまとまったお金を出すファンドは減ってきているんです。

その潮流のなか、僕たちはあえてリスクが高い領域にフォーカスし、「こんなサービスがあったの!?」と世の中を驚かせるようなサービスを生み出したいと考えていて、Rentioもそのひとつであると思っています。

三輪:新さんには、渡邉さんを含めこれまで多くの人たちを紹介してもらいました。日々カオスな状況で事業に向き合うなか、課題解決のサポートをしてくれるスペシャリストを紹介していただき、とても助けられています。新さんや渡邉さんのように事業理解が深い投資家の方々に伴走していただけることは、とても心強いです。

渡邉:最初に新さんからレンティオのことを紹介していただいたときは、「事業の着眼点は悪くないけど、正直スケーラビリティがピンと来ない」印象で、あまり期待していませんでした(笑)。ところが、ユニットエコノミクスやCVRなどの数値を見せてもらうと、予想をかなり上回る水準に達成しており、とても順調に伸びているサービスだと分かったんです。そして、実際に三輪さんのお話しを聞く中で、実はスケーラビリティもかなりありそうだとすぐに気づきました(笑)。

また、サービスを拡大していくために必要な要素をすベて備えていたことも大きな魅力でした。ビジネスモデルについてお聞きしたとき、サービスを成長させるためには「メーカーとのつながり」、「優れた業務オペレーション」、「集客力」の3点を抑える必要があると感じました。レンティオはいずれの要素も有しており、明確な勝ち筋がある企業だと分かったんです。

加えて、ファイナンスバックグラウンドを持つ僕がサポートをすることで、勝算が高められると思ったのも投資した理由のひとつです。

ということで、お会いしたその日に「ぜひ投資させてほしい」とお伝えしました。

三輪:10万円程度で仕入れた商品を1万円程度で貸し出すレンティオのビジネスモデルは、キャッシュフローのコントロールを誤ると黒字倒産してしまう危険もあり、EC事業のノウハウに加え、高いファイナンスの知見が求められます。

渡邉さんとお会いしたその日に、これまで僕たちが感覚にしたがってやっていたオペレーションを体系化したエクセルを送ってきてくださって、「まさに僕たちが求めていた方だ」と思いました。ぜひ、渡邉さんのお力をお借りしたいと思いました。

新:もともと渡邉さんを紹介したのも、レンティオが成長するためには、デットとエクイティ両方の知見をもったキャピタリストの支援が必要だと感じていたからです。大本命だった渡邉さんのお力を借りることができ、本当に幸運だと思っています。

「3万円の獅子舞を借りて満足」し、レンタルサービスの需要に気づいた

ーー先ほど渡邉さんが「メーカーとのつながり」、「優れた業務オペレーション」、「集客力」のすべてを抑えられているとご指摘されていました。それぞれについて、詳しくお聞きしたいです。

三輪:まず、新卒入社した楽天ではEC事業に従事し、転職後も家電のEC事業を展開するベンチャーに勤めていたため、メーカーの方たちとは元からつながりを持っていたんです。業務オペレーションについては、商品貸し出しのステータスや在庫を管理する強固な自社システムを構築しており、事業を安定的に運用できる仕組みを整えています。

レンタル事業に取り組むうえで参考にできるサービスはほとんどなく、最初は「ルンバのお手入れの仕方」すら分からなくて困惑することもありました(笑)。他にも創業して間もない頃、僕と共同創業者の所有物であるAppleWatch2本を出品した際、そのまま返ってこなくなったことから、盗品対策の仕組みをつくったり。新しい課題に直面するたび、すべて一から勉強し、仕組みを改善してきました。

集客に関しては、自社メディア「Rentio PRESS」がユーザーとの接点になっていますね。カメラ撮影の仕方やベビーカーの収納方法など、現物に触れたからこそ分かる商品のレビュー記事をまとめており、現在は1,000記事以上が掲載されています。今でも毎日、数記事ずつ発信し続けており、検索エンジンでも上位に表示されるんです。

ーー商品のレビュー記事があれば、ユーザーからのヘルプ対応にも役立ちそうですね。

三輪:まさに、おっしゃる通りです。たとえば、「商品の使い方が分からない」とユーザーの方からご連絡いただくことが多いです。しかし電話で一から説明するよりも、商品の使い方が書かれた記事のリンクを送付したほうが、相互に説明する手間が減って合理的です。最初はサービスを知ってもらうためのオウンドメディアとして運用していましたが、今ではユーザー満足度の上昇に一役買っていますね。

ーーそもそも三輪さんがレンティオを創業されたのは、なぜなのでしょうか?

三輪:きっかけは、友達の結婚式の出し物としてとある芸人さんのモノマネをするために、獅子舞とふんどしとサングラスをレンタルしたこと(笑)。一度しか使わないだろうし購入するほどではありませんでしたが、他に出し物の案も浮かばない。どうしようか悩んでいたとき、獅子舞セットが3万円で借りられるサイトを見つけ、「高いけど、買うよりはマシ」と考えてレンタルしたんです。

すると結婚式では出し物がしっかりウケて、払った3万円に見合う体験をすることができ、「一度の体験のためにお金を払う人はいるから、レンタルサービスは大きな需要があるんじゃないか」と思うようになりました。

事業として成立させられるか調べていくと、レンタル事業を展開する企業は数あるものの、提供されているサービスはどれも使いにくいものばかりだった。「顧客視点で圧倒的に利用しやすいレンタルサービスをつくれば、勝機がある」と思い、前職の企業がなくなりそうなタイミングで共同創業者に話を持ちかけ、起業しました。

ーー創業後は、どのような道のりを歩んでこられたのでしょうか?

三輪:最初はスタートアップというよりも、零細企業や中小企業を経営している感覚でしたね。上場や売却を目指すわけでもなく、自分たちの手が届く範囲で、できることを堅実に実行していこうと思っていました。しかし、事業が成長して軌道に乗ってきたタイミングでVCの佐俣アンリさんから声をかけてもらったことが転機になりました。

思い描くサービスを実現するために最善手が取れているのか常に自問するようになり、次第に「投資を受け、より早く事業を拡大させたい」と考えるようになったんです。「投資を受けたら、気軽に休んだりはできなくなる(笑)」不安もあり、共同創業者としっかり相談したうえで、やりたいことを実現するために投資を受けました。それから来る日も来る日も仕事に向き合い続け、事業を伸ばしてきました。

悪質な商品を駆逐し、本当に良い商品だけが出回る世界をつくる

ーー今後の展望についてお聞かせいただけますか?

三輪:目下の課題としては、商品の購入を考えている人に向けて「購入前のレンタル」を普及していくことですね。僕は「商品を購入するためのベストな選択肢がない」現状にもどかしさを感じています。というのも、たとえば家電を量販店で探すには、店員さんのセールストークを受けることが多く、話しかけられるのが苦手な人はお店に行きづらい。

一方、ECサイトで家電を探そうとすると、実物に触れられないため記載された価格やスペックでしか比較できず、レビューに頼らざるを得なくなってしまう。しかしレンタルサービスを使えば、ECサイトで購入するとしても、実物に触れたうえで選べるようになります。もちろんレンタルのみで終わる消費の仕方があってもまったく問題ないと思っています。多くの選択肢を提供することが理想なんです。

新:レンタルが普及すると、「商品を購入する人が減り、メーカーにとってはマイナス」だと思われがちですが、実はそんなことはありません。たとえば、消費者が低いハードルで商品に触れられる仕組みをレンティオがつくることで、メーカーも商品に対するフィードバックを受けやすくなり、商品の改善点が見つけやすくなりますよね。

三輪:メーカーは、「商品を買ってもらえればそれでよし」ではありませんからね。ユーザーがスペックや価格を判断基準にして製品を購入した結果、本当に求めていたものと違った場合、低評価のレビューをされてしまうかもしれません。しかしレンタルサービスがあれば、購入前に製品との相性を確かめることができ、「不幸なマッチング」を減らせます。レンタル後に商品を購入するカルチャーが浸透すれば、マーケティングが上手いだけの商品や安かろう悪かろうの悪質な商品は流通しづらくなり、本当に良い商品が世に出回りやすくなるはずです。

現在は、カメラや家電、ベビー用品を中心に扱っておりますが、取り扱いジャンルを増やし、サービスを横展開させていきたいと考えています。しかし、扱う商品の幅を広げるとなると、新たな物流網を開拓したり、新しい商品に対応したオペレーションをつくり直したりする必要があり、困難な道のりになるはずです。新たに優秀な人材を増やしてカバーしつつ、サービスを拡大していければと思います。

新:もしかしたら、将来はプライベートブランドを立ち上げ、シェアする前提の商品を自分たちでつくってもいいかもしれません。シェアリングエコノミーの浸透に伴い、事業会社の打ち手も変化してきており、海外の自動車メーカーのなかには、カーシェアを前提に製品をつくる会社も登場していますしね。

渡邉:レンティオはただの“レンタル屋”にとどまらず、人びとの消費行動を一変させるポテンシャルを持った企業だと認識しています。ファイナンス面の支援はもちろん、GCPとしてますます注力していくPR・IR・HR領域のアドバイザーネットワークによる支援も含め、僕たちにできることは何でもやり、ビッグチャンスをものにしたいです。


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