“総合格闘技”たる創業期スタートアップで、戦略ファーム出身者が活躍できる理由とは?コンサル出身VCが語る、スタートアップのキャリアパス

戦略系コンサルティングファーム出身者がスタートアップやベンチャーキャピタルへ転職したり、自ら起業するといったキャリアパスは一般的になりつつある。しかし、そうしたキャリアについての十分な事前知識を得られる機会は、未だ多くはない。

グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)は2019年2月、戦略コンサル出身者のキャリアパスについて議論するイベント「StrategyNight ~戦略コンサルのネクストキャリア~」を開催。登壇したのは、戦略コンサルとして企業の海外進出や経営統合、新規事業開発の支援などに従事した経験を持ち、現在はGCPでキャピタリストを務める湯浅エムレ秀和と山本絢子だ。

本記事では、近年スタートアップ業界が伸びている背景から、戦略ファーム出身者が重宝される理由、優良企業を見極める方法までお届けする。

(構成:岡島たくみ 編集:小池真幸

スタートアップ業界の成長に寄与する「東証マザーズ」と「起業家コミュニティ」。巨額エグジットが成立する背景とは?

ーー最近は「国内のスタートアップが伸びている」という言説をよく目にしますが、実際のところ、本当に市場は成長しているのでしょうか?

グロービス・キャピタル・パートナーズ アソシエイト 山本絢子

山本:定量的なデータを見れば、圧倒的に成長していると分かります。まず、国内スタートアップの資金調達額は2009年から右肩上がりに伸びています。規模でいえば、2017年度には約3000億円。それに伴い、1社あたりの資金調達額も増えており、2009年時点で1社の1ラウンドあたりの平均資金調達額は約1.2億円でしたが、2018年時点では約3億円になっています。

ーー約10年間で、ものすごく伸びていますね。

山本:加えて日本は、エグジットしやすい環境が整っている点も特徴です。資金調達額が伸びているだけでなく、上場企業数もどんどん増えている。時価総額数十億円でもIPOできる、世界的に見てもかなり希少なマーケット「東証マザーズ」があることが大きいと思います。

さらに資金調達額の増加に伴い、大きなサイズでエグジットできる環境にもなってきていて。2018年6月にはメルカリが時価総額6,800億でIPOしていますし、200億円以上でエグジットする企業も珍しくなくなりました。

IPO以外にも、M&Aによるエグジット件数が増えています。たとえば、2017年8月には約300億でソラコムがKDDIによって買収されていますね。

ーーなぜスタートアップに追い風が吹き始めているのでしょうか?

山本:起業家コミュニティが拡大しているからでしょうね。起業家として一定の成功を収めた人たちがエンジェル投資家として次の世代のスタートアップに投資したり、シリアルアントレプレナーとして活躍したりしているんです。優れた起業家の数も増えてきているし、「起業」という選択肢がだんだん一般的になっている風潮があります。

創業期スタートアップは、いわば“総合格闘技”。地頭の強い戦略コンサル出身者が活躍できる

ーー過去にアメリカのスタートアップ業界で起こったことが、そのまま日本で起きているような流れなんですね。業界には、戦略コンサル出身の方は多いのでしょうか?

グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル 湯浅エムレ秀和

湯浅:かなり多いですね。僕が見ている投資先の半数以上に、戦略コンサル出身者がいます。入社のタイミングはそれぞれで、創業期に参画する人もいれば、シード、アーリーといったまだ数人の時期にジョインする人もいます。一番多いのは、もう少し組織基盤が整ってきたミドルのフェーズで参画するパターンですね。

ーー戦略コンサルとスタートアップでは組織構成も大きく異なるので、働き方にギャップを感じる人も多いのではないかと思います。

湯浅:マネジメントレイヤーとしてジョインされる方が多いですが、アーリーまでは“総合格闘技”のようなもので、肩書き関係なく、営業から広報、バックオフィスまでを一人が担うこともざらにあります。

山本:広報担当のメンバーがバックオフィスをすべて回していたり、新規事業開発担当のメンバーが既存事業の営業に行っていたりしますよね。特に創業後まもなくは指示を出してくれる人がおらず、自ら意思決定しなければいけない場面が多いため、明確な指示が欲しい人には向いていないかもしれませんね。反対に、自由に判断できる立場を楽しめる人には、良い環境だと思います。

ーー戦略コンサル出身者は、どういった活躍を期待されるのでしょうか?

山本:戦略コンサルで働けるような地頭の強い人なら、どんな役割であっても活躍できると思います。スタートアップは高い給料を支払うのが難しいため、特定領域のスペシャリストを採ることが難しい。したがって頭の回転が早く、自分で考えて動けるジェネラリスト的な人材は、重宝されると思います。

湯浅:未経験の領域であっても、課題を見つけ出し、オペレーションを自ら考え、解決に向けて実行していく力は重要ですね。たとえば組織の営業力が課題だったとして、「どのような営業組織をつくり、どうやって売上を伸ばしていくのが自分たちの事業にとってベストなのか」をイチから考える必要があります。そういった判断を丸投げできるような人であれば、スタートアップで活躍していけるはずです。

ーーなるほど。では反対に、アンラーンすべき点は?

山本:「ちゃんとする」ことですね。完璧なスライドをつくってメールで誤字なく報告するのではなく、多少ラフでもとりあえず作成し、SlackやFacebookメッセンジャーですぐに連携できることが大切です。戦略コンサルで働いていたときよりも仕事のスピード感が速く、無駄な時間を極力削ることが求められます。

湯浅:その場の思いつきで生まれた案を、すべてロジックで判断しようとする癖はアンラーンすべきかもしれません。戦略コンサルが1→10の仕事を手がけるのに対し、スタートアップは0→1です。イチを生むためには、「とりあえずやってみよう」と言えるフットワークの軽さが大切だと思います。

また事業提携や資金調達の際、目の前の人を口説き落とすためには、ロジックだけでなくパッションや魅力も必要です。人としての面白さで話が決まることも珍しくない世界ですからね。

頭の良さだけでは創業CEOは務まらない。求められる「鈍感力」とは

ーー1→10の仕事を手がけてきており、左脳的思考が身についている戦略コンサル出身者は、CEOではなく、COOとして“右腕”のように働くケースの方が多いのでしょうか?

湯浅:後からジョインする場合だとCOO的なポジションが圧倒的に多いですが、戦略コンサル出身の創業者もよくいます。

ーーその適性はどのように分かれるのでしょうか?

山本:まず創業者になる人は、頭の良さだけではなく、ストレスに対する「鈍感力」も必要だと思います。従業員の退職やプライベートな時間とのバランスなど、立場上抱えなければいけない膨大なストレスに耐えるためには、時に「この問題はどうでもいいや」「この人には嫌われてもいいや」と割り切れる人でないと厳しい場面もある。

湯浅:良い意味で「頭のネジが飛んでる」人とも言えますね。創業者には、ある領域の課題を解決することへの強い想いを持ち、そのためのプロダクトづくりに捨て身で臨める人が多いです。それも、その領域について誰よりも詳しいくらいに調べ尽くしていて、寝ても覚めても事業のことしか考えられないくらいに。一方、さまざまな領域に興味を持っており、守備範囲が広いようなタイプは、COOのポジションが向いているかもしれません。

山本:とはいえ、結局のところナンバー2であっても、ナンバー1と同じようなスキルセットは求められると思っています。誰もが同じ強さの想いを持っていないといけないし、そうでないとやっていけないでしょう。

ーー能力だけでなく、関心領域やメンタリティによっても適性が分かれるのですね。少し話は変わりますが、スタートアップへ転職される方たちは、どのように企業情報を調べていくのでしょうか?ある程度の有名企業であればともかく、自分に合ったスタートアップの情報をゼロから見つけるのは難しいように感じます。

湯浅:僕もかつて転職活動をしていたときに、スタートアップがたくさんあり過ぎてどこから見ていけば分からなかった経験があるので、気持ちは分かります(笑)。最近ではスタートアップ業界に特化した転職エージェントも登場しているので、そういった人たちに相談するのも一つの手でしょう。もしくは、信頼できるVCのポートフォリオから探してみるのも良いかもしれません。

山本:投資元は、「そのスタートアップが良い会社なのかどうか」を判断するひとつの材料になると思います。たとえ多額の資金調達をしていたとしても、その企業の成功確度が必ず高いとは言えません。

前編では、戦略ファーム出身者のキャリアパスについて、起業やスタートアップへのジョインを目指す観点から議論を行った。続く後編

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