スタートアップのCFOに求められる、財務知識以上のスキルセットとは?スタートアップCFO×キャピタリスト鼎談

大企業に所属する人材が、スタートアップのボードメンバーに転身したり、自ら起業するといったキャリアパスが一般的になりつつある。“起業後進国”といわれる日本でも、ビジネスノウハウを持った人材がチャレンジングなキャリアを選択することで、少しずつスタートアップ・エコシステムが整ってきた。しかし、中でもCFO(Cheif Financial Officer)人材の不足が業界課題となっている。

 

グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)は2019年8月、優れたCFO人材の輩出とスタートアップ業界の理解を目的とするイベント「スタートアップのCFOを目指すには -CFO経験者が語る-」を開催した。

 

イベントに登壇したのは、モルガン・スタンレー証券の投資銀行部門やクレジットリスク部門に勤務後、マイネットのCFOや副社長として東証一部上場に貢献した嶺井政人氏と、大和証券の投資銀行部門でメルカリやラクスルのIPO業務に従事し、現在はアトラエのCFOを務める鈴木秀和氏。モデレーターを務めたのは、GCPディレクターの渡邉佑規だ。

 

優れたCFOの定義や大企業からスタートアップへの転職で注意すべき点、活躍するためのマインドセットなど、イベントで語られた濃密なトークをダイジェスト形式でお届けする。

(構成:オバラミツフミ

最高財務責任者に求めるのは、ファイナンスの知識より「仲間を率いるリーダーシップ」

イベントの冒頭に、嶺井氏は「CFOに求められるのは、財務知識よりもリーダーシップだ」と語った。その意見に、鈴木氏と渡邉は大きく頷く。

嶺井政人 早稲田大学在学中にマーケティングソリューションを提供する株式会社セールスサポートを創業し軌道に乗せた後、株式会社ネオマーケティングへ売却。2009年4月、モルガン・スタンレー証券に入社し、投資銀行部門およびクレジットリスク管理部門で主にテクノロジー企業の資金調達や格付業務に従事。2013年3月、マイネットに転進し、CFOならびに副社長としてファイナンスやマーケティング分野を中心に事業の成長に尽力。同社の東証マザーズ、その後の東証一部上場を実現する。2019年4月、グロース・キャピタル株式会社を設立し、代表取締役に就任。

嶺井:「CFO」というワードから連想される役割はファイナンスですが、企業のフェーズによって、求められる役割は多岐に渡り、経営者の1人としてリーダーシップをとりながら会社の成長に必要なことは全て行う、むしろ「ファイナンスは最低限できる」くらいの認識が正しいと思います。

渡邉佑規 三井住友銀行にて上場企業を含む中堅企業への融資および金融商品販売業務に従事した後、大和SMBCキャピタル(現・大和企業投資)およびSMBCベンチャーキャピタルに出向し、一貫してベンチャー投資に携わる。その後、SMBC日興証券の投資銀行部を経て、2015年7月にグロービス・キャピタル・パートナーズ入社、現在に至る。

渡邉:嶺井さんのご意見は、本質を突いていると思います。日々さまざまな企業のCFOとコミュニケーションを取るなかで、優秀だと感じるCFO陣は、すべからく“経営者である”ということです。つまりCFOは、単に「ファイナンスのプロフェッショナル」なだけで務まるポジションではない。経営者としての能力や気概が備わっていなければ、物足りなさを感じてしまいます。

実際、「経営陣のなかで、最もファイナンスに詳しい人材がCFOを担当している」ケースは、資金調達を成功させ、事業も伸びている印象がありますね。

スタートアップにとって、資金調達は経営を推進する生命線。ファイナンスを預かるCFOには、ボードメンバーのなかでも、CEOと変わらない目線と立場で経営を預かる責任が求められる。

彼らの話からCFOの職務について思いを巡らすと、ともすれば「荷が重い」と感じてしまうかもしれない。しかし、嶺井氏は「全てダイレクトに会社の成長に反映される『やりがい』あふれた役割であり、不思議と苦痛を感じることはなかった」と語る。

嶺井:求められる責任は重く、日々の業務も多いですが「管掌領域の権限が全て自分にある」という点において、いわゆる“やらされ仕事”とは異なります。課題設定を自ら行い、リソースの獲得からプロジェクトの実行まで、それぞれ自分で意思決定することができる。大変ではありますが、成果がダイレクトに会社の成長として返ってくるので、充実した日々でした。

強烈なCEOに伴走する力こそ、活躍するCFOの真髄

話題は変わり、CFOポジションに至るキャリアパスについて、渡邉から質問が挙がった。CFOとして転職する際に注意すべきポイントとは、どのような点なのだろうか。鈴木氏は「CEOや経営陣、社内のメンバーとの関係性を重視すべき」と話を切り出す。

鈴木秀和 2005年、大和証券SMBC株式会社(現 大和証券株式会社)入社。入社以来一貫して、投資銀行部門で数多くの企業のIPOを含む資金調達のアドバイザリー業務に従事。直近では、日本初ユニコーンであるメルカリのグローバルIPOやラクスルIPO、役職を撤廃したフラットな組織であるアトラエのIPOと東証一部上場を主幹事証券のディールヘッドとして実現。

鈴木:CFOのパフォーマンスに最も影響を与えるのは、「CEOとの関係性」です。CEOに近いポジションだからこそ、「CEOが何を目指していて、CFOに何を期待しているのか」の認識のすり合わせが必要です。もし認識に齟齬があると、やはり結果を出し辛い。

たとえばエージェントを経由した転職は、入社前にコミュニケーションを取る機会が少ないですよね。もし転職の機会があったら、積極的に相手のことを知る時間を取るべきだと思います。

嶺井:鈴木さんのおっしゃる通りだと思います。知人のCFOの悩みの9割が「CEOとの関係」です。「事業が伸びない」とか「資金調達ができない」といったことではない。だからこそ転職の可能性があるのであれば、一定期間週末に業務を手伝うなどして、相性をチェックするのがお勧めです。

鈴木:前職の経験から、多くの創業社長に会ってきましたが、本当に強烈なんです。本気で世の中を変えようと思っていて、実現のために動き続ける。10年…場合によっては100年スパンで物事を考えているので、彼らにしか見えていない世界があり、時には合理性が無いとも思える突拍子もないことを言い出します。

CFOには、その思想の理解者になったり、時には制したり、伴走し続ける体力と知力が求められる。その覚悟がなければ、お互いに不幸になってしまいます。

会社を潰さない覚悟と推進力が「優秀さ」のモノサシ

続いて渡邉は、“優れたCFO”について、その定義を尋ねた。スタートアップ企業をIPOに導いた経験を持つ百戦錬磨の二人は、どのような見解を示すのか。嶺井氏は、「スタートアップのCFOであれば、会社を絶対に潰さない、自分が最後にケツを持つというマインドセットの有無が、優秀か否かを分ける」と語る。

嶺井:会社のステージによって注力すべき事は変化するものの、一言で表現するなら、「会社を潰さない」ことが、アップダウンの激しいスタートアップにおいてCFOの絶対条件だと思います。つまり“ケツを持てるか”です。その上で、会社を成長させるために必要な役割を担う。この二点をクリアできていることが、自分のイメージする“優れたCFO”です。

“財務”とは必要なときに必要な資金を調達してくることです。最高財務責任者を名乗りながら、会社が資金を調達して来なければならない最大のピンチのときに、会社の存続をCEOに委ねているようでは、財務の責任を負っているとは言えません。スタートアップにおいては「何があっても、この会社を潰さない。そして自分の力で成長させる」というマインドセットがCFOの優劣を分けると思います。

鈴木:僕も嶺井さんと同意見です。冒頭に嶺井さんが話していたことの繰り返しですが、結局は“人間力”と“リーダーシップ”が大事。ファイナンスについては学び続けるという姿勢を貫けることのほうが、よっぽど重要だと思います。

10年選手、ダブルメジャー。業界のロールモデルに続け

スタートアップ業界はこれまで、優秀なCFOが少ないことが課題とされていた。しかし渡邉は、少しずつではあるが、着実に増加していくロールモデルたちを例に挙げ、今後の業界の発展にも希望を見つけているそうだ。

渡邉:まだまだロールモデルは少ないですが、10年選手として起業家を支え続けるプレイヤーも増えてきました。たとえば株式会社ZOZOの取締役副社長兼CFO・栁澤孝旨氏や、GMO INTERNET GROUPでグループCFOを務める安田昌史氏です。

株式会社ユーグレナの取締役副社長・永田暁彦氏は、CFOとCOOを兼任しています。つまりCFOを務めながら、実質的に同社のほぼ全ての事業を管轄している。

鈴木:そうですね。肩書きとしてのCFOではなく、本物のCFOが、少しずつ増えている。ただ日本のスタートアップ業界では、未上場段階で上場後を見据えたIR戦略を構築したり、上場前と上場後のファイナンスまでをシームレスにできるプレイヤーはまだ少ない。

上場後のファイナンスとスタートアップのファイナンスは別物なので、大企業から転職し、チャレンジングな経験をすることは、非常に面白いキャリアになるのではないかと思います。


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