“優れた人材”を採用するには?―【対談】メルカリ・山田進太郎氏 × 濱田優貴氏

(編注※:当記事は2016年4月18日『The First Penguin』に掲載された、山田進太郎氏 × 濱田優貴氏による対談記事の転載です)

スタートアップに限らず、会社を経営する上で「優秀な人を採用する」は最も重要な仕事であり、最も難しい仕事でもある。特に役員ポジションの採用となるとなおさらだ。長時間かけ、やっとの思いで口説き落としてジョインしてもらっても「合わなかった」と辞めていくパターンは少なくない。

とはいえ、優秀な人を採用したい。では、どうすればいいのか。

2013年にリリースし、今年3月には約84億円の資金調達でも話題となったメルカリでは、元ミクシィCFO・小泉文明さんや、コミュニティファクトリー創業者・松本龍祐さんなど、豪華メンバーが集まっている。そのほとんどが、代表取締役社長である山田進太郎さんが直接声をかけ、ジョインに至ったという。2014年11月にメルカリへジョインし、現在は取締役を務める元サイブリッジ共同創業者・濱田優貴さんもその1人だ。

急成長し続けるスタートアップのトップは、どのような着眼点を持ち、こういったメンバーを集めているのだろうか。また、出来上がりつつある組織に途中参加となるメンバーの心境とは? 山田進太郎さんと濱田優貴さんにお話を伺った。


山田進太郎さん(写真左)、濱田優貴さん(写真右)

―濱田さんはどういった経緯でメルカリへジョインしたのでしょうか?

山田進太郎さん(以下、山田):もともと、僕は水口君(サイブリッジ社長、濱田さんとともに同社を立ち上げる)と知り合いで、彼から濱ちゃん(=濱田さん)を紹介してもらったんですよね。一緒に飲みに行ったり旅行へ行ったりするようになったのは、僕が前社ウノウをZyngaへ売却した後くらいかな。

濱田優貴さん(以下、濱田):そうですね。で、一昨年の10月末くらいに、僕がFacebookで「(サイブリッジを)退職します」と投稿したんです。実際に辞めようと思ったのは10月半ばくらいだったので、けっこう突然の報告になっていたかもしれないですね。
山田:辞めるなんて話、まったくしてなかったもんね。だから、僕も辞めると思っていなかったし「えー、マジで!?」となりましたね。とりあえず、ちょっとした「お疲れさま会」をしようと思って、投稿があった翌週の木曜か金曜あたりに、共通の友だちを呼んで飲み会をやりました。

そこでふと、そういえば濱ちゃんは昔からメルカリを使ってくれていたし、エンジニアだし、サイブリッジを起業して経営もしていたから「もしかするとメルカリに合うかもしれない」と思ったんですよね。そして飲み会の前に別途ランチに誘ったんです。「なんで辞めたの?」「次、何やるの?」といった質問も、そのランチで初めてしました。
濱田:会社が不満で辞めたわけじゃないんです。儲かっていましたし、パートナーの水口ともいい関係でした。ただ、ある程度やることが固まってきていて、大きな挑戦ができなくなったり、新規事業をやるにも温度差が生じたり、やりづらさみたいなものを多少感じるようになっていたんですよね。

山田:「何をやりたいの?」と聞いたとき、濱ちゃんは「もう一度ゼロから大きいことを自分で会社やってみたい」と話していて。でも、具体的なプランがなかったんだよね、当時。
濱田:そうなんですよね。

もしメルカリへ入社していなかったら?

山田:もともと濱ちゃんは、細かく儲けるのがすごく得意なんだよね。楽器のレンタル事業とか飲食店もやったことがあるし、それに、どれも結構うまくいってたよね?

濱田:そうですね。「オールクーポン」っていう、クーポンのまとめサイトもやっていました。これも月数百万円くらいの利益を出していましたね。ニッチなニーズをうまく見つけてクイックに儲ける。そういったやり方が得意なんです。でも、それ以上はスケールしないっていう。進太郎さん(=山田進太郎さん)みたいに「オール・イン」なカタチで飛び込めないというか(笑)。

山田:そういえば、サイブリッジを辞めた当時も何か作ってたよね? ほら、奥さんのヨガ教室のシステムみたいなやつ。それもまた細かい感じの(笑)。

濱田:ちょうどそのころ、うちの奥さんがヨガスタジオをやることになったんですけど「いい予約システムがない」と言うので(笑)。僕の方で理想のスタジオ向けの予約システムを作ってみたんです。かつ、どのスタジオでも使えるクラウドの予約システムですね。これで、サイブリッジを辞めても儲けられるなと思っていたんです。

山田:あれ、それって結局やらなかったんだっけ?

濱田:ええっとですね。完成して実際に妻のスタジオは使っています。ですが、そのころにはもうメルカリに行くことが決まっていたので「ごめんなさい、終了します」とさせてもらいました。もしメルカリに決まらなければ、自分でこつこつとオペレーションや導入支援をして、決済代金の数パーセントとかにして。それを基本収入にしようと思っていました。

山田:その考え方が、なかなかベンチャー的じゃないよね(笑)。

濱田:そうなんですよ。このシステムの話を進太郎さんにしたら、たぶんうまくいくって言ってもらえたんです。でも…。

山田:そうそう。「濱ちゃんなら、新しく会社を作っても上場できると思う。でも、すごいメガベンチャーにはならないんじゃない?」という話をしました。

そこで、実際にメルカリの数字を見せたり、「あんなこともできるよね」「こんなこともできるよね」と話したりして。ちょうどメルカリのUS版を出したタイミングだったんです。US版に注力するとなると、日本版を見てくれる人がいなくなってしまう。日本のメルカリも、まだまだやりたいことがたくさんある、という話をした覚えがあります。

濱田:僕がヨガスタジオの予約システムを作って、これからマネタイズをしていこうと思った矢先ですよ。半ば放置で。

山田:たしか11月の終わりとかだったよね。けっこう急展開だったよね。

機能への質問から、会社の歴史を紐解く

濱田:僕、そもそも他の会社に入ること自体が初めてだったんですよね。だから、本当に右も左もわからない状態でメルカリに入ったというか。なんて言ったらいいんだろう…。

山田:転校生的な?(笑)

濱田:ああ、それですね(笑)。さらに言うと、当時は進太郎さんや主要メンバーもすぐアメリカへ行っちゃいましたし。必要な情報は自分で取りに行く必要があったんですよね。情報もきちんと整理されているわけではなかったので、redmine(プロジェクト管理ソフト)の過去のチケットを読み漁ったり、自分でデータベースから数値をとってきて分析したりして、なんとなく会社のペースや温度感を掴んでいきました。

山田:当時のメルカリは、そこまできっちりとした受け入れ体制や仕組みがなくて、各自で開発環境を作ってコミットする感じでした。よかったのは、濱ちゃんに「自分で情報を取りに行く姿勢」があることでしたね。

濱田:データも、ある程度の検討はつけていましたし、実際にメルカリを使っていたので「この数字を見たい」とかもありました。情報があまり整備されていなかったので、サーバの接続情報とかもよくわからなくて「こんな感じで接続していいですか?」と周りのエンジニアに聞いていました。なんていうか、必死でしたね(笑)。

山田:転校生だからね。クラスに慣れようとね(笑)。

濱田:やはり途中から入ったわけなので、これまでの「メルカリの歴史」を僕は知りません。それに、すべてを把握できる状況でもなかった。だから、わざと「この機能はこう直したほうがいいよね」と言いながら、そうなった経緯を聞き、歴史を紐解いていました。

山田:濱ちゃんが「こうしたいんですけど」と言ってくれても、「うちではそういうのをやらないから」みたいに返してしまったこともあったよね。

濱田:ああ、ありましたね!

山田:近くにいれば話し合って解決できたんだけれど。僕も、プロダクトを担当していた富島(メルカリ共同創業者)もアメリカへ行っていたし。Skype越しというか、オンライン上で「ちょっとそれは…」みたいな感じで話を止めてしまったことも多かったんです。でも、これってよくなかったなぁと思っていて。

濱ちゃんのことと、人が増え始めてきたこともあって「さすがにちゃんとしないとね」と、各自が自立して動けるチーム体制を始めました。おかげで以前よりは組織らしくなりましたが、昨年の冬から夏くらいが一番、成長痛のようなものがあった気がしますね。

役職ありきがいいフェーズ、ないほうがいいフェーズ

―濱田さんは出来上がりつつある組織へ途中からジョインしたわけですが、そこに不安などはありましたか?

山田:濱ちゃんがメルカリにフィットするかどうか、そんなに心配しなかったですね。概ね、想像通りにバシッとハマってくれた感じがあります。でも、これは今いる役員みんながそうなんですよね。富島をはじめ、石塚亮(メルカリ取締役)、小泉文明(メルカリ取締役)も、みんな僕が誘いましたが「あれ、全然違うな」ということはなかったですね。

濱田:僕の場合、入ったタイミングではまだ「役員」じゃなかったのがよかったかもしれないですね。それどころか、僕がジョインしたという社内周知とかもなかったですし。そもそも、僕がどういうポジションだとかも、別になかったんですよね。おかげで、フラットにメンバーと話したり議論したりできたかなと思っています。

山田:濱ちゃんには「富島くんを補佐するプロデューサー」みたいな感じで入ってもらったんだよね。良し悪しはあるけど、あらかじめ「こうなっていく予定の人です」といったタイトル(=役職)をつけていないほうがやりやすいというか。

濱田:そうですね。

山田:まぁ、それは人やタイミング、場所によりけりだと思いますけどね。

濱田:スタートアップで、まだエンジニアも10人くらいしかいないフェーズでは、ディティールが大事かもしれないですね。大きなことを言えても、実際に動く手がないと意味がないわけで。

山田:今のメルカリのフェーズだと、ある程度のタイトルを付けて入ってもらったほうがやりやすい。たとえば「この人にUK版を任せます!」みたいな。以前に比べて、仕事の幅も規模にも広がっているので、「誰が何の責任者なのか」がわかっているほうが、今はやりやすいし動きやすいと思いますね。

採用では、結局のところ「その人がいかにできる・できないを見極める」が重要になりますよね。これに関しては、昔からさんざんやってきているので、よい人を採用できているんじゃないかと思っています。

できる人って、自分の仕事にこだわりすぎない。なんというか、5人いれば5人で分担して何かできる雰囲気になるというか。

濱田:自分でやるんだ!とこだわる人もいますもんね。

山田:あと、経営経験がある人はいいなと思いますね。見る目もあるし。

経営は、必要なことは何でもやらなくちゃいけない。なので、専門外のことでも学ぼうとするし、失敗経験も豊富なので「ここが悪いんじゃないか」にも早急に気づけます。経営経験があり、失敗に向き合ってきた人=いい仕事ができる人、の可能性は高いと感じています。

合致しなければ、無理に誘うことはない

―濱田さんをメルカリに誘うとき、どのように声をかけたのですか?

山田:濱ちゃんは「自分で会社をやりたい」と言っていたので、「自分でやるのもいいかもしれないけど、一緒にやったほうがもっと大きなことができるかもしれないよ」という話をしたんですよね。僕つながりでメルカリへジョインした役員はみんな、こういった誘い方をしています。

たとえば小泉も、「mixi以上になる大きなサービスを作りたい」みたいな話をしていたんです。そのときも僕は「だったら、メルカリにはその可能性があるよ」と話しました。あと、石塚も似たような感じだったんですよね。彼の場合は「アメリカで起業したい」と言っていたんです。なので「僕もアメリカでしたいと思っているけど、とりあえず日本で作ってから持って行こうよ」と話しました。そしてメルカリにジョインし、今ではアメリカでCEOをやっています。

こういった話をしていて、合致しなければ別に誘うことはないと思っているんですよね。

濱田:メルカリはCtoCなので、すごくインターネット的だと思っています。僕、インターネットが好きなんですよね。でも、メルカリのようなサービスは、自分では作れない。どうしてもニッチに逃げちゃうので(笑)。だからこそ、関われることだけでも相当いいなと思ったんですよね。ましてや、グローバルに行くなんて、超面白そうだと思いましたし。

山田:特にメルカリの場合、会社や事業ビジョンとしてすごく長期的に考えています。無理して「一緒にやろうよ!」と口説くより、「こういうことをやりたいと思っていて。ぴったりだと思うんだけど?」と話してみて、「それやりたい」と思ってくれたらジョインしてもらうというスタンスですね。だから本人が「やっぱり違った」と言って辞めることもない。その辺の握りは、重視しています。

僕の場合、幸運なことにこれまで「途中で幹部が辞めちゃった」がありませんでした。それは、やっぱり方向性が合っている人と一緒にやるのが一番いいんじゃないかと思っているからなんですよね。

山田進太郎(写真左)
Shintaro Yamada

株式会社メルカリ、代表取締役社長。大学卒業後、ウノウを設立し「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのサービスを立ち上げる。2012年退社後、世界一周を経た後、翌年2月にメルカリを創業する。

濱田優貴(写真右)
Yuki Hamada

株式会社メルカリ、取締役。東京理科大学工学部在学中に株式会社サイブリッジを創業、取締役副社長に就任する。2014年10月に同社退社後、株式会社メルカリにジョイン。2016年3月に取締役に就任する。