アントレプレナーシップを育む“胆力”と“幸せの絶対軸”とは? アラン・プロダクツ花房弘也×グロービス高宮慎一 スペシャル対談

横浜国立大学経営学部の教養科目「ベンチャーから学ぶマネジメント」にて、株式会社アラン・プロダクツ代表取締役CEOの花房弘也氏とグロービス・キャピタル・パートナーズ 高宮慎一の対談が行われた。

講義のテーマは「アントレプレナーシップ」。“大企業に就職すれば一生安泰”といった価値観はとうの昔に過去のものになり、変化を待つのではなく、自ら変化を起こす能力の必要性が問われている。単純労働がテクノロジーに置き換わる昨今、たとえ起業家ではなくとも、リスクを取り未知の領域に立ち向かう“起業家精神”を持たなくてはならない。

同講義では、花房氏が同校3年次にゴロー株式会社を起業し、ユナイテッド株式会社に買収されるまでのストーリーを高宮が紐解いていく。花房氏がサイバーエージェントから2千万円を調達し、起業するまでの至り、高宮が考えるアントレプレナーが持つ“胆力”や“幸せの絶対軸”、未来ある若者たちへのメッセージなどが語られた。

(構成:オバラ ミツフミ 編集:長谷川リョー

花房弘也(以下、花房)氏は横浜国立大学2年次から写真・イラスト・映像素材のマーケットプレイス「PIXTA」を運営するピクスタ株式会社でインターンを開始。翌3年次に休学し、現在代表を務めるアラン・プロダクツの前身となるゴロー株式会社を創業した。

インターンに没頭する過程でピクスタの代表取締役社長 古俣大介氏に「君は絶対に成功する」と背中を押され、同社でのインターンを卒業しゴロー社を立ち上げる。

創業後は倒産危機を迎えるも、薄毛の情報サイト「ヘアラボ(旧名:ハゲラボ)をリリースし急成長。昨年ゴロー社をユナイテッド株式会社に13.5億円で売却した。現在、花房氏はユナイテッド社の執行役員に就任。若手起業家のなかで最も注目を集める一人だ。

しかし花房氏は、当時の自分を「何者でもない、普通の大学生だった」と振り返る。

花房:インターンをする前はサークルを掛け持ちし、アルバイトをこなしながら授業もそれなり参加する、みなさんと変わらない大学生でした。

花房氏が起業家になるルーツは大学1年次に遡る。大学入学後、いわゆる普通のキャンパスライフを1年間を過ごした頃に「これでいいんだっけ?」と自分の生活に疑問を持つようになったそうだ。

花房:田舎生まれであることがコンプレックスで、「都会に行き視野を広げ、社会で活躍できる人間になりたい」と考え地元を出たのにも関わらず、何一つ成長している実感を得られなかった。

明確な夢があったわけではありませんが、経営者の父に憧れていたので、まずは経営者の方に直接連絡をしてお話を聞きにいっていました。こうしてアクションを起こし始めたのが大学2年生のときです。

しかしアクションを起こした矢先、花房氏をアクシデントが襲う。お金を騙し取られてしまったのだ。まっとうな方法で失敗を取り返そうと、ピクスタでインターンをすることにし、高宮と出会うことになる。高宮はピクスタに投資を行っており、時折オフィスを訪ねていた。

高宮:当時の花房くんは…いつもヨレヨレのロンTを着ていました(笑)。本当にそこそこの大学生だったのにも関わらず、自分の想いを追求した結果、現在は若手起業家のホープです。

高宮は、出会った当時から現在に至るまでの花房氏の変化を間近で見てきた一人。「彼が成功した理由は、逃げなかったからだ」と語る。

高宮と花房氏が未来ある学生たちに伝えたい「アントレプレナーシップを持つことの重要性」とは、一体どのようなことなのだろうか。思い描く夢を現実にするためには、どうしたらいいのだろうかーー。“そこそこの大学生”だった花房氏が、起業家のキャリアを踏み出した4年前の出来事から二人の対談が始まる。

サイバーエージェントから2千万円を調達。“そこそこの大学生・花房弘也”が起業家になるまで


アラン・プロダクツ 代表取締役CEO 花房弘也氏

花房:忘れもしません。大学3年生の夏の暑い日、当時インターンをしていたピクスタの古俣社長に「花房くんのように行動力がある人は、経営者として成功する」とおっしゃっていただき、起業を決意しました。

その日から3ヶ月後にサイバーエージェントの藤田晋社長から2千万円を投資していただき、ゴロー株式会社を創業。Amazonや楽天など、さまざまなECサイトの商品を一つのアプリで検索できるサービス「melo」をリリースしました。

事業立ち上げ時は順調でしたが徐々に状況は悪化し、結果的に1年で倒産の危機を迎えてしまったんです。当時はよく高宮さんに相談をしていました。

高宮:そもそも大学生ほどの年齢で大志を抱き、世の中に価値を生み出そうと行動を起こせる人はそういません。一起業家として、彼のような人材を応援してあげたい。彼の話を真摯に聞き、ダメ出しをするだけでなく、どうすれば事業が上向きになるのかアドバイスをできればと思って会っていましたね。

花房:ユーザーにサービスのコンセプトをうまく伝えられなかった結果、事業はどんどん衰退し、経営状況はみるみる悪化。2千万円あった資金は瞬く間に減っていき、メンバーも次々に辞めていきました。残り数百万円程度の資金と、たった3人のメンバーで「この先どうしようか」といつも下を向く毎日。結局「melo」は市場から撤退し、サービスを閉じています。

ーーどん底の状況から、どのようにしてゴローを復活させたのでしょうか?

花房:事業が軌道に乗らずストレスフルな毎日を過ごしていたとき、当時付き合っていた彼女に「髪の毛、結構来てるんじゃない?」と言われたんです。よくよく鏡を見てみると、確かに髪の毛が減っているんですよ。相当ショックでしたね。

しかし、彼女のその一言が現在展開するサービス「ヘアラボ」を立ち上げるきっかけになりました。インターネットで頭皮トラブルについて検索しても、なんだか怪しいサイトしかないんです。自分と同じように悩みを抱えている人は多いはずなのに、それを解決してくれるウェブサイトはどこにもない。この領域に本気で取り組めば、チャンスがあると感じました。サービスを立ち上げる原体験と、市場のニーズが一致していたんです。いわゆるマーケットドリブンというものです。

立ち上げ当初は数千円の売上しかありませんでしたが、2ヶ月目に5万円、3ヶ月目に20万円…と順調に成長していきました。仮説が当たっていたんです。5ヶ月目には500万円を超える売上を叩き出しました。下を向いていたメンバーが上を向き「楽しいですね」と言ってくれたときに、「諦めなくてよかったな」と思ったことを鮮明に覚えています。

“幸せの絶対軸”を持っている人間は逃げない。失敗から学ぶアントレプレナーシップを持て

高宮:彼が素晴らしいのは、とにかくめげずに最後までやり抜いたところです。新たな事業案を構想している最中に相談にきてくれましたが、そのときもかなり厳しい意見を伝えました。

そこで感じの悪い印象を持ってもおかしくないのに、彼は何度も僕のところに相談にきてくれました。起業家には、途中で心が折れてしまう人も少なくない。しかし彼は、諦めなかった。失敗しても逃げなかったんです。

花房:今でこそ、こうしてお褒めの言葉をいただいていますが、当時は本当にボロカス言われていたんですよ(笑)。

高宮:少し僕の学生時代の話ももさせてください。今でこそベンチャー・キャピタリストとしてスタートアップ企業と多くの接点を持っていますが、当時はベンチャー業界に興味がありながら挑戦することができなかった一人です。経営に関心があったのですが、日和ってしまい、外資系コンサル企業に就職しました。

6年間勤め、大企業の運命を左右するような仕事をしていたのですが、結局自分が何をやりたいかは見えてきませんでした。振り返れば、これこそが最大の悲劇。結果主義の世界なので、結果を出せば出すだけ給与も上がり、昇進もできます。そうした世界で頑張っていたのですが、幸せの絶対軸はそこになく、結局幸せを感じることができませんでした。

受験勉強と同じです。「偏差値が高ければ幸せなのか?」そうではないですよね。自分のやりたいこと、自分にとって価値あることを突き詰めることが大切なのだと後になって気づいたのです。

ーーとはいえ、未知の領域に挑戦するには不安がつきまとうのではないでしょうか?

高宮:今だからこそ言えることかもしれませんが、やりたいことがあるのならとにかく前に進んでみたらいいと思うんです。起業を例に挙げると、多くの人が、もし倒産してしまうとそこで人生が終わるかのように感じているかもしれません。

しかし、そんなことは全くありません。失敗した経験から何かを学んでいるのであれば、失敗経験は武器になります。その経験を糧にもう一度やり直せばいいだけです。むしろ、そういった人材の方が成功確率が高い。

現代ででは、かつて栄華を極めた大企業でさえ経営危機を迎えるケースも少なくありません。年功序列で給料が上がり続ける時代はとうの昔。そうした情勢の中で求められているのは、どんな状況下でも自ら事業を興すことのできるアントレプレナーです。

至らなさを埋める成長意欲が、アントレプレナーシップを生む

ーー現在はゴローをユナイテッドに売却されています。その経緯を教えていただけますか?

花房:ゴローは順調に成長していましたが、当時僕は23歳で、メンバーも学生インターンばかり。事業を拡大し、より多くの人に価値を届けたいと思いつつ、僕たちだけの力ではそれが叶わないと判断し売却に至りました。

メンバーのほとんどは年下だったので、自分よりも経営に知見を持つ方の力が必要だったんです。そこで、上場企業の中でもリスクを取って事業を拡大している企業に直接買収のオファーを持ちかけました。そのうちの一社がユナイテッドです。

高宮:買収先を探しているときも相談に来てくれました。一度組織を崩壊させた経験を持っているなど、花房さん自身、経営者として悩んでいて、学びたいという成長意欲が高かったんです。

会社が買収されれば一度に大量の資金を得ることができますが、彼は自社をもっと成長させたかった。そのためにはどうすればいいのか本気で考えていて、健全な悩み方をしていましたね。自分の成し遂げたい事業で世の中を変える、そんな視点を持っていたと思います。

花房:高宮さんに相談をした理由は、起業家と経営者にはマインドセットに違いがあると感じたからです。起業家はゼロからイチを生み出しますが、経営者は1を10に、10を100に成長させるスキルが求められます。

このままずっとヘアラボを展開していても、今のままでは0から1を生み出すことしかできないリーダーになってしまう気がしましたました。最終的には13.5億円で会社を売却することができましたが、その後も苦労は絶えなかったです。でも、その苦しい環境から逃げずに向き合ったことを評価され、ユナイテッドの執行役員にも抜擢されました。

高宮:起業家の大事な要素の1つが、貪欲なまでの自己成長欲です。花房さんが、ご自身では“そこそこの大学生”と言いますが、その素質を持っていたと思います。ただ逆を言えば、成長意欲さえあれば花房さんのようになれる可能性があるのです。

花房:絶対なれると思います。繰り返しになりますが、僕もみなさんと同じように授業を受けていた一人です。僕が特別な存在だということはありません。大前提として、僕はまだ横浜国立大学の在学生です。たまたまきっかけがあり、今はこうして会社を経営することができています。

高宮さんがおっしゃったように、失敗してもいいんです。今日の話を聞いて「何事も逃げずにやり抜けば、大抵のことはうまくいくんだ」と思ってくれれば幸いです。


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