“年100人採用”を実現した、広報戦略の全て。メドレー 執行役員 加藤恭輔

グロービス・キャピタル・パートナーズでは、投資先および出身企業経営陣が集まる小規模勉強会を定期的に開催しています。大規模なカンファレンスではなく、密な経営者同士でQ&Aやディスカッションを行うことが目的です。

今回は2018年7月に「半年で100人採用。メドレーの秘訣」と題して行われた勉強会の内容をダイジェストでお届けします。登壇者に株式会社メドレー・執行役員加藤恭輔氏を迎え、ディスカッションを行いました。

採用実務は未経験の状態で、メドレーに中途入社した加藤氏。その後は、わずか2人の採用チームで採用体制の構築をし、さらに年100人規模の採用を完遂しています。今回は、この2年半における採用広報の戦略、および施策から得られたナレッジについて語っていただきました。

(構成:梶川奈津子 編集:オバラミツフミ

会社の魅力を届けるストーリーの“4原則”。未経験から構築した採用広報戦略の全て

株式会社メドレー 執行役員 加藤恭輔氏

加藤恭輔氏(以下、加藤):メドレーは創立10年目の医療系ベンチャーです。「インターネットを通じて、医療ヘルスケア分野の課題を解決する」というビジョンのもと、医療メディアを運営するほか、オンライン診療アプリやクラウド型電子カルテなどのサービスを展開しています。従業員数は270名程度で、ボリュームゾーンは30歳前後。特に直近2年では、事業拡大のため、一気に採用を強化しました。

ーー採用を強化するにあたり、採用目標数をどのように設定したのでしょうか?

加藤:「今年は何人採用しよう!」みたいな数字から決めているわけではなく、原則として半期ごとに事業計画をアップデートして、必要な人物像と人員数を設定しています。

しかし立ち上げて間もない事業などは特に、随時状況が変わってきます。いきなりアクセルを踏んでいくという話になることもあるため、常にそういう突風が吹いてくる可能性も想定しながら動くようにしています。

ーー採用広報の戦略は、どのように考えたのでしょうか?

加藤:ポイントは、必ず「どういう人に、どういう認識をもってもらいたいか?」という広報戦略上のゴールを決めたうえで、その達成のために企画を考えること。そして、実際に試しながらPDCAサイクルをまわし続けることです。

弊社の取り組みですが、まず「会社が目指す状態」と「採用したい人材」を明確化しました。特に人材については、ペルソナ像まで落とし込むことが大事です。社内でも「この人材は、どの会社にいて、どんなポジションについていそうか?」、「社員だと誰に近いか?」と具体的なイメージを確立していました。

次に、その人物が「メドレーに入りたい」と思えるような「会社の魅力を伝えるストーリー」を設計します。私の経験上、次の4ステップで設計すると、候補者の動機付けがしやすくなります。

加藤:まず1つ目が、自社が扱う領域が「どのようなフェーズ」にあり、「なぜ今ジョインすると面白いのか」の魅力付け。2つ目が、その領域において「どのようなプレイヤーがいるのか」の説明。3つ目が、その領域において「自社にはどのような魅力・優位性があるか」の動機付け。最後に、ベンチャーに就職することに対する「心理的不安」の払しょくです。

こうして基本ストーリーを設計したうえで、具体的な広報施策に取り組むようにしました。

『PV100倍』を実現した“メディア戦略”と、ゼロから接点を生み出した“草の根戦略”

ーー入社直後、具体的に取り組んだ広報施策について、教えてください。

加藤:求職者の主な流入チャネルとなる、メディア・紹介会社・リアルイベントでの施策についてご説明します。

まずメディアに関しては、先ほどの「会社の魅力を伝えるストーリー」をもとに、コンテンツの企画を量産。メドレーに入社した人の生の声がわかる「私がメドレーに入社した理由」や毎週のメドレーの動きをまとめた「週刊メドレー」、エンジニア目線で社内外の様々なポジションの方にインタビューをしていく「メドレー平木の気になるあの人に聞いてみた」、大きな動きがあった時に、それに携わったキーパーソンがその背景などを発信する「そのテーマ、チームみんなで話しました。」などの連載を順次スタートさせていきました。

加えて、一般的にPV数が伸びにくいと言われる休日にもメドレーのことを思い出してもらえるようなタッチポイントを作れるよう、「土曜日に読むメドレー」という連載も開始し、可能な限り毎日新しい情報に触れてもらえるよう工夫をしていましたね。トピックのバラエティを増やし、毎週の医療業界における最新情報や学会発表の内容、エンジニアの勉強会の様子からオフィス移転やTシャツ制作の裏側まで幅広く記事にしています。

ーー豊富なバラエティで記事を制作するにあたり、大事にした観点をお伺いさせてください。

加藤:2つあります。1つは、メドレーという会社に親近感を持ってもらうこと。多くの方にとって、医療向けサービスは馴染みやすいものではありません。ですから採用広報におけるアイコンとして、最初のうちはサービスではなく役員や社員を掲出するようにしました。

加藤:また、自社サービスがマスメディアに露出したときには、話題性があるうちにその裏話を発信するなど、一つのネタを生かしていくつもの発信を行うことで、「キテる感」を醸成できるようにしました。

2つ目は、クリエイターへのブランディング。エンジニア持ち回りのTech BlogやCTOの平山によるメドレーの開発思想を伝えるブログで背骨の部分を伝えると共に、エンジニアデザイナー同士が開発の裏側を語る対談や、エンジニアが社内・社外で注目する人物にインタビューする企画などを出して、人の雰囲気も感じてもらえるようにしました。

結果的に、例えばWantedlyでの発信などは、元々の記事が1本約100PV前後だったところ、打ち出し方を整理してからブログを出すようにしたところ、1万~6万PVで推移するようになりました。今でも、1年半前に出した入社理由ブログ記事をきっかけに応募してくださる方もいます。

次に、紹介会社さんとのコミュニケーションです。メドレーでは、エージェントさんが候補者の方にメドレーのことを紹介しやすくするため、メドレーの採用についてまとめたプレゼン資料を作成しています。ここで一般的な事業概要に留まらず、メドレーの将来展望の説明や、その中でなぜこういう人が必要なのか、という求人の背景となる課題やストーリーについても言及しています。会社概要をそのまま使いまわすのではなく、採用に特化した資料を作ることで、採用に賭ける本気度を伝える効果もありました。ちなみに、この資料を社内のメンバーにも展開できるよう内容を少しカスタマイズすることで、リファラル採用を行う際に有用な資料としても展開していきました。

リアルイベントの成功例は、採用の母集団形成を目的に実施した「医師とのミートアップ」ですね。医師はそもそも転職を検討する機会が少ないため、私たちにとって「彼らと接点がない」ことが課題でした。

そこで、社内の医師メンバーを中心に知人を通じ草の根で声を掛けたり、Wantedlyで募集をかけて交流会を開催したり、医療業界で権威ある先生をお呼びして勉強会を開催するなどしました。そうした結果、継続的な接点を持てるようになり、そこから医師の方の採用につながるケースも出てきました。

同様のことをエンジニアやデザイナーの採用活動においても実施しており、こちらも継続的な接点の確保や中長期的な採用につながっています。最初のミートアップに来ていただいてから、1年以上経過してから採用につながったケースもありました。

大事なことは、予算をかけなくていいので、まずは簡易的にやってみること。広報は、リアルイベント向けのSNS(Wantedly、connpass)でイベントぺージを作ったり、Facebookや広告で告知できます。場所はスペースマーケットで借りたり、無料で貸してくれるスペースもあるはずですから。もちろん社内で開催しても良いと思います。

最良の広報施策とは、社員のエンゲージメントを高めること

ーー採用広報を強化した結果、どのような変化がありましたか?

加藤:当時はメドレーという会社そのものが知られておらず、認知が少ない状態だったので、世の中の注目を集められるようなコンテンツを意識していました。そのため、経歴が特徴的なメンバーを多く取り上げていたんですね。その結果として認知率も向上し、応募数も飛躍的に増えていったのですが、その一方で「経歴が特徴的じゃないとメドレーには入れないんじゃないか?」と言われてしまうようになりました。

そこで現在では、より社内のことを正しく理解いただけるよう、なるべく部署や属性の偏りがないようバランスを意識した露出を心がけています。

さらに応募者の傾向を見たり、直接ヒアリングを行うなどをして反応を見るなかで、各事業の打ち出し方に注意をするようになりました。というのも、特定の事業を広報すればするほど、その他の事業の採用が難しくなるんです。たとえば弊社は、4つの事業があります。事業によって求める人材像は異なりますし、それぞれ打ち出し方が異なるので、発信の仕方によっては採用に強い事業とそうではない事業に差が出てしまいます。

職種についても、例えばセールスメンバーの採用のことだけを考えた広報強化をしすぎると、プロダクト開発のメンバーが採用しづらくなってしまうんですよね。そのことは念頭に置く必要があります。

ーートライアンドエラーの結果、自社に最適化した採用広報の仕組みもできたのではないでしょうか?

加藤:職種ごとに有効なチャネルが明確化されましたね。プロダクト開発職の場合、リファラル採用と特定の紹介会社さんによる採用がほとんどです。一方、ビジネス職の場合は、ジュニア層は媒体や紹介会社さん経由がメイン。それ以上のミドル層は採用広報や媒体経由で採用しています。情報感度が高い層なので採用広報が効きやすいですし、紹介会社さんよりもビズリーチさんやWantedlyさんなどの媒体の方がコストパフォーマンスが良いんです。一方でジュニア層は、エン転職さんやDODAさんといった媒体との相性が良いです。

ーー初期に注力した社員紹介による採用は、効果的だったのでしょうか?

加藤:社員紹介については、社員数が100名以上の企業規模になると、少し伸び悩むことが分かりました。原因は、大規模化するほど、社員のエンゲージメントが希薄化する傾向にあるからです。この場合は単純に紹介料を高く引き上げるというよりも、シンプルに「社員に心から会社を好きになってもらう」ためにどうすればいいかを考えることが大事だと思います。

そのための手段は色々あると思いますが、どの会社でも一律に有効な手段というのもないと思っています。手段だけに気をとられると、メンバーと心の距離が離れていくケースが往々にしてあります。目的のもとに手段を考えなければ、かえってスピード感が落ちてしまうので「目的から手段を考える」という順序を常に留意することが大切だと思います。

参考記事

医療×インターネットの未来予測–豊田剛一郎(メドレー)× 高宮慎一