「375億円調達」が意味すること——日本発ユニコーンの創出に向け、GCPが6号ファンドを設立

2019年4月15日、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)が運用額375億円予定の6号ファンド設立を発表した。6号ファンドは投資戦略に“First to Last”——シード・ラウンドから時価総額1,000億円を超えるユニコーン・ラウンドまで継続的に投資支援を行う——を掲げ、1社当たり最大50億円を投資し、日本発のユニコ―ン企業創出を目指す。
 
過去、およそ30社の上場実績を持ち、ハンズオン型のVCとして有力企業を多数支援してきたGCPだが、本ファンド設立にあたり「自らをディスラプトする」気概を持って新たな挑戦を行う。
 
パートナーである高宮慎一、今野穣は「世界しか、見ていない」と口を揃える。世界と戦う道筋をつくったメルカリに継ぐユニコーン企業の輩出に挑む2人のキャピタリストに、日本のベンチャー業界を背負って立つ覚悟を聞いた。

(インタビュー:長谷川リョー 構成:オバラミツフミ 編集:小池真幸

「First to Last」——日本発ユニコーンを生み出すGCP6号ファンド、その全貌

ーー1996年に1号ファンドを設立して以来、6号ファンドは過去最大の調達額(375億円予定)となりました。改めて、この大規模調達に踏み切った背景をお伺いさせてください。

高宮慎一:戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導した後、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。主な投資先に、ミラティブ、メルカリ、ランサーズ、リブルーなど。

高宮慎一(以下、高宮):そもそも前提として、企業側には「上場までに大規模かつ柔軟性の高い資金調達を行ないたい」というニーズがあります。一方で、私たちVC(ベンチャー・キャピタル)が目指すべき新たなチャレンジとして「日本からユニコーン企業を輩出する」があります。企業と投資家、双方の視点から上場までの長い道のりを考えた結果、合計375億という金額規模に設定しました。

今野穣(以下、今野):アメリカは、時価総額ランキングのトップ5を100兆円規模のベンチャー企業が独占しています。しかし日本で、10年後に兆単位の時価総額を付けるスタートアップがいくつあるだろうと考えると…現時点でアメリカに劣っていることは明確です。
 
経済規模が半分であることを鑑みて、数十兆円規模の時価総額を目指すとしても、最低で上場時に数千億に達していないと厳しい。僕らはあくまで未公開市場が専門ですが、VCとして、新たな産業を創出する支援をしていかなければならないと考えています。

今野穣:アーサーアンダーセン(現PwC)にて、プロジェクトマネジャーとして、中期経営計画策定・PMI(Post Merger Integration)・営業オペレーション改革などのコンサルティング業務に従事。2006年、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。主な投資先に、スマートニュース、レディーフォー、オクトなど。

今野:大規模な資金調達を行ったからといって、投資先を増やそうとは考えていません。「First to Last」を掲げ、シードラウンド(サービスリリース前などの準備段階)、もしくはシリーズA(事業が軌道に乗り始め、顧客が増え始めた段階)といったアーリーステージから上場まで、1社当たり最大50億円を投資を行います。

高宮:僕たちVCの原点は、ファイナンスにあります。しかし新たな産業創出を目指すには、資金面の支援だけでは到底無理がある。日頃から掲げている「4R」をさらに派生させ、資金援助に止まらない支援を行っていきます。

※4R:グロービスが投資先に行なっている、スタートアップの成長に欠かせない「HR」「PR」「IR」「EngineeR」の支援

日本は現在マーケットが拡大していて、実際にユニコーン企業が出てきています。6号ファンドの設立は、この流れを止めず、むしろ加速させていくための決意表明です。
 
6号ファンドの設立にあたり、日本の機関投資家が軒並み参画してくれています。これまでもスタートアップへの投資が本格化する機運はありましたが、アップダウンを繰り返してきました。ここで結果を出せなければ、「日本のベンチャーはダメだ」という負の烙印を押されてしまいます。
 
ここで私たちが、日本のスタートアップ及びVCがサスティナブルに成長していて、機関投資家に意義のあるリターンを返せることを証明しなければならない。ユニコーン企業の創出は、私たちにとっての挑戦なのです。

「ユニコーン or die」——“メジャーリーグ”を目指すアントレプレナーの、意志ある挑戦に伴走する

ーー界隈では「ベンチャーバブルは崩壊している」という声も聞きます。こうした意見に対し、投資家としてどのような見解を持っているのでしょうか?

高宮:何を持って「バブル」と表現するかだとは思いますが、資金需要の質と量で考えたときに、供給側の投資需要が非常に高く、バリエーションが高騰したという意味ではバブルです。
 
しかし「鶏と卵」で、最初に卵がなければ鶏は生まれません。いわゆる「バブル」があったとはいえ、骨太なスタートアップも誕生し始めています。いわゆる“学生ノリ”でソーシャルアプリを開発し、月に数百万円の利益を上げるといった規模ではなく、本気で産業の変革を目指すプレイヤーが増えました。日本のベンチャーの裾野は広がっていると感じます。
 
今までは激しい競争がなく、成功を掴むことがイージーだった。しかし現在は、競争が激化しており、大きく成長できる環境が整ってきているのです。「金あまり」という観点ではバブルともいえますが、実態の伴わない狂乱ではないということは、覚えておくべきだと思います。

ーー「競争が正常になってきた」ということは、起業家の層が厚くなっているということでもあると思います。現役の医師がビジネス界に参入するなど新たなトレンドも出始めていますが、そうした潮流は他にもありますか?

高宮:経験を積んだ起業家が「2周目」に入り、資本力にレバレッジをかけて大振りしたり、大企業にイグジットした起業家が経営組織体を学んでから再挑戦したり、そうした“メジャーリーグ”的な戦い方をするシリアルアントレプレナーが目に見えて増えています。
 
アントレプレナーの戦いも、そうした世界に突入しているのです。日本でも未上場のうちに100億円を調達できることをメルカリが実証し、世界で戦うスタートアップの勝ち筋を見出しました。これからは、“ユニコーン or die”の世界観が確実にやってくると思います。

今野:6号ファンドではシードやアーリーステージの企業に投資を行う予定ですが、出口の大きさは今まで以上に気にかけることになるでしょう。もちろん骨太なシリアルアントレプレナーが増えたからといって、彼らだけが投資対象になるわけではありません。
 
確実に言えることは、「時価総額100億円までは見えるが、その先は分からない」企業と「時価総額1,000億を目指せる」企業があれば、僕らの投資対象は後者になるということです。

世界しか、見ていない。GCPが見据える、エコシステムとしての6号ファンド

ーー出口の大きさを判断する上で、投資家として、どのような観点で起業家や企業を評価しているのでしょうか?

今野:「マーケットのサイズ」を見るのはもちろんのこと、「経営者の目線」「プロダクト/サービスへの強さ/共感」もあわせた3つが判断軸になると思います。経営者の目線でいうと、「彼は何人ものメンバーのトップに立てるのか」という、感覚値的な部分も大きいです。

高宮:この判断軸は、今までと大きく変わるものではありません。あえて何が違うのかといえば、メルカリの誕生によって、私たちのマインドが大きく変わっていることです。
 
これまでは、日本では未上場の企業が100億円を調達するのが容易ではありませんでした。なので、未上場で時価総額1,000億円を超えるポテンシャルがあっても、「マザーズに200億円で上場しよう」と可能性に蓋をしてしまうことがありました。しかしもう、そうした考えを捨てたのです。

ーー3つの判断軸のうち、1つが欠けていたとしても、VCが補填するケースもあり得る?

今野:もちろんあります。「4R」を仕組み化し、私たちが持つアドバイザーのネットワークを必要に応じて提供していくつもりです。GCPが持つアセットをプラットフォーム化し、全面的に支援していきます。
 
たとえば採用支援でいうと、弊社とエージェントのやり取りを開放(オープン化)していくことも考えています。あとは、投資先企業群のコミュニティ化。閉じた学びの場を提供し、さらに深め、ファイナンス以外のバリューアップにも本腰を入れていきます。

高宮:ファンドの規模感が大きくても、リターンを出さなければ持続性がないので、結局一発屋で終わってしまうケースもあります。しかしリターンを出す前提でファンド規模を大きくする限りにおいては、投資先へのバリューアップ支援もより強化できる。
 
6号ファンドの組成は、新しいVCのビジネスモデルへの挑戦です。これまで、ファイナンス面で支援し、投資先の戦略構築や経営者の壁打ち相手になることが中心でしたが、6号ファンドでは、企業が成長するために必要なクリティカルなファンクションを余すところなく提供していきます。

ーー近隣国・中国では、TikTokを展開するByteDanceが時価総額5兆円を超えるなど、目ざましい躍進を見せる企業が増えています。今後は、そうした世界的ユニコーンと戦える企業を生み出していくと。

高宮:もちろんです。世界を目指す上で、彼らとの戦いは避けることができません。とはいえ日本企業の勝ちパターンは、今のところ製造業以外では確立できていない。そうした事実を考えれば、先手先手で動いていく必要があると思っています。

今野:プロダクトの機能を磨き込み、完成度が高くなることは、つまり日本の商習慣にどっぷり浸かっていることにつながってしまいます。つまり、日本で覇権を握ることはできても、世界では勝てない。6号ファンドでは、企業の二の矢、三の矢をグローバル単位でつくることにも挑戦していくつもりです。

ーー最後になりますが、世界を見据えた挑戦を考える若いアントレプレナーたちに、メッセージをお願いします。

高宮:VCだからとって、「投資家」として振る舞うつもりは全くありません。私たちも、かつてスタートアップとして始まったVCを、サステイナブルな組織・事業に成長させようとしています。ただ大企業的に振る舞うのではなく、挑戦をしながら、アントレプレナーに伴走していきます。
 
アメリカでは、セコイア・キャピタルとクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズなどトップティアファンドが圧倒的な存在感を示していました。その盤石と思えたトップティアの中でも、Y Combinatorやアンドリーセン・ホロウィッツといった新出のファンドの台頭で、相対的にポジションが悪くなったところもありました。つまり、VCもあぐらをかいているだけでは、脱落してしまうのです。
 
僕たちも、外部からディスラプトされるのではなく、自らをディスラプトするくらいの気概を持ち、意思を持って未来をつくる覚悟があります。

今野:日本もアメリカも、業界として明らかに風向きが変わってきている。メディアに向けに綺麗事を口にするのは簡単ですが、体制を整えながら、新しいミッションやバリューを制定する動きに取り組んでいます。一言で言うのなら、「本気です」。

高宮:結果的にユニコーンに届かなくても、ナイストライ。ただ、本気でユニコーンを目指す高い視座を持ったアントレプレナーに、ぜひ門を叩いてほしいです。


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