カルチャードリブンな組織を貫き、創業7年で東証一部に上場。アカツキCEO塩田氏が考える売上と文化の二兎を追う経営(後編)

グロービス・キャピタル・パートナーズでは、投資先および出身企業経営陣が集まる小規模勉強会を定期的に開催しています。大規模なカンファレンスではなく、密な経営者同士でQ&Aやディスカッションを行うことが目的です。

今回は2017年10月、登壇者に代表取締役CEO 塩田元規氏を迎え「アカツキ大解剖!創業7年目で東証一部上場した創業者・社長のすべて」と題して行われた勉強会の内容をダイジェストでお届けします。

後編となる今回は、「自立型人間」を求めるアカツキの採用基準から、ポジションドリブンの考え方を排除する独自の組織設計を語っていただきました。また、上場後もカルチャー第一の経営をするためのスタンスについても言及。ステークホルダーの意向に左右されないビジョナリーな経営スタンスを語っていただきました。
前編はこちらから

(構成:オバラ ミツフミ 編集:長谷川リョー

プロフェッショナリズムを持っているかが採用基準。アカツキが求める「自立型人間」とは?

ーーアカツキの採用方針についてお伺いさせてください。契約社員や派遣社員の人数も多いみたいですが、何かポリシーがあるんですか?

塩田:正社員の採用基準を厳しくしていることもあり、全ての業務を遂行するには社員数が追いついていないというのが大きな理由の1つです。

ーー正社員にはどういった能力を求めているのでしょうか?

塩田:「専門性、オリジナリティがあるか」、「領域を選ばないベースの能力があるか」、「自分としっかり向き合って成長していけるか」の3つの要素を能力的には見ています。それ以上に大切なのは、その人の持っているスタンス・資質ですね。

私たちはそうしたスタンスがある人材像を「自立型人間」と呼んでいます。「環境に依存せず、自ら道を切り拓いていく姿勢」があるかどうかが重要です。例えば、イチローはヒットが打てない時でも、バットに文句は言わないですよね。ところが、これが仕事だと意外と環境のせいにすることがあります。一流のプロとしての姿勢を持っているかは能力と同じくらい大事にしていますね。それがあれば、どんどん成長できる能力はあとからついてきます。筆記試験も行ってますが、基礎学力があるか程度で重要視はしていません。正社員は、とくにスタンスや、シンプルに僕らが一緒に働きたいかどうかを重視して採用していますね。

 

正社員は、カルチャーやチームの雰囲気作りに責任を持っています。アルバイトの方や派遣の方に対してなぜこの仕事をやっているか説明できなければいけないですし、22、23歳の若手でも、年上でスキルを持った人たちを前に会社のカルチャーを語らなければならない。言い返されてへこむこともあるようですが、その分力もついていきますし、会社やチームを自分が背負う意識も高まります。若い社員がマネジメントへの意識が高いのは、アカツキの特徴です。

ーー組織形成において、大事にしていることは何ですか?

塩田:メンバーがアカツキのカルチャーにフィットするかどうかが大事だと考えています。アカツキでは、基本的にポジションドリブンで採用することはありません。役職は役割だという考え方で仕事をしています。なので、流動的に役割は変わっていきますね。

それによって、さまざまな現場を経験し、広い視野で仕事ができるようになりますし、他の組織に対しても愛情が持てるようになります。とはいえ、マネジメント能力が一瞬で上がるわけではないので、実際のところは、組織が円滑に回るまでは試行錯誤でした。特に組織の結節点であるリーダー層のマネジメント力が上がっていかないとなかなか大変です。皆で共通の本を読むなどして基礎から勉強していましたね。

“ポジションドリブン”の考え方を排除。人間関係を円滑にするアカツキ流組織設計

ーーメンバーの方は、何がインセンティブとなって働いているんですか?

塩田:冒頭で申し上げた通り、メンバー1人1人が「なぜこの会社で働くのか?」の意味付けができている点だと思います。それは一人一人違っていいと思っています。例えば目標設定の際、メンバーが「夢」を設定するんです。「この会社で、何をやりたいのか」を定期的に自分で振り返る仕組みもあり、それが働く上で一つのインセンティブになっています。あとは、社内の人間関係が非常に良好な点ですね。好きな仲間と働くこと自体が、動機になっているようです。自分自身振り返ってみても、意義があって、自分が共感できる好きな仕事を好きなメンバーとワイワイガヤガヤ、ときにはぶつかり合いながらも進んでいくこと自体が楽しいということが一番のインセンティブだと思います。

ーーなぜ人間関係が良好なんですか?

塩田:基本的にポジションドリブンの考え方を排除しているので、メンバーの間でポジションの奪い合いが起きません。偉くなることが幸せや成功だと考えると、そこに奪い合いが発生したり、他人の足をひっぱる考え方が生まれてしまいます。それとは逆の考え方です。その結果、お互いの成功を喜び、拍手で賞賛し合える環境になっています。周りの成功が自分の幸せにもなるという文化や仕組みを作っておく必要があります。また、会社として「理解」と「同意」を分けるというルールもあります。チームの中で何か発言をした人がいた場合、すぐに意見をぶつけるのではなくて、まずはその人の考えを理解する。その上で同意するなり、「こうしたらいいんじゃない?」と意見するといったプロセスを踏むことが大事ですね。同意するかどうかの議論はありますが、理解はできるはずです。それができれば、良好な雰囲気がうまれ、より発言もしやすくなってきます。

ーー現在は組織がある程度成熟されていると思います。塩田さんが全事業を見ているわけではないですよね?

塩田そうですね。今は事業を細かくは見なくなりましたね。それも最近のことですけど(笑)。

そもそも、起業家はせっかちだし、僕もせっかちなので、何事も早くやろうとしすぎてしまうことがあります。

でも、早くやることだけが近道ではないということも最近理解しました。組織成長には時間がかかりますし、短期間でいろんなものに手を出して中途半端になることもあります。本当に自分たちが大切だと思っていること、自分たちが偉大だということにフォーカスしていくことが重要だと思います。そのためにも、メンバーに責任をしっかり委ねる必要性も感じています。一方で、経営者が変に我慢する必要もありません。せっかちなのは自分の特性ですし(笑)。

せっかちな分、昨日と今日で言っていることが変わっていることもしばしばあります。そうしたこともあらかじめ共有しておくといいと思いますよ。「目指している場所は一緒だから、気にしないでくれ」と。ビジョンに向かうために、進み方ややり方は100万通り以上あるので、それが変わることがあるのは当たり前です。目指しているビジョンがブレなければいいだけです。経営者自身のこともメンバーに理解されるように努力すると、僕らの発言を必要に応じていい意味で流してくれます(笑)

ーーぶれない組織文化を貫くためには、香田さんとの関係性も重要になりそうですね。

塩田:まぁ、もう夫婦のような関係なんですね。僕の嫁化してます(笑)。役員は入れ替え可能ですが、香田と「死んでも10年間一緒にやる」と決めて会社を創業しましたし、今まで一緒にやってきて、これからも一緒にずっと走ると決めてますので、例えちょっと会話がずれることがあっても問題ないですね。

離婚っていうオプションがない夫婦みたいなイメージでいます。いつでも離婚できると思っていると、お互い向き合わなくなってしまうので、最初からそのオプションを排除したんです。だから、何かあったら語るし、向き合います。

“察して文化”が組織をダメにする。自分のことを理解してもらうのも大切な仕事

ーー香田さんとの関係性を維持する上で、工夫してることはありますか?

塩田:毎週一度、必ず1on1の時間を取るようにしています。それでも根っこの深い部分までは踏み込めないんですよね。だから、夜たまに飲みにいったり、役員で定期的にオフサイトの合宿をやったりして、日常の業務的な話だけじゃなく、思想や文化など、それぞれが思っていることを語る場所と機会を作っています。

僕と香田の関係に限らず、日本人って「空気で察しろ」という考え方があるじゃないですか。あれはダメですね。お互いそんなに察せないので、自分の考えていることを相手にしっかりと理解してもらうことは大事な責任です。

距離が近い人ほど、意外と理解し合う努力をしないものなので、飲みに行ったり語ったりする機会をとにかく作ることが大切です。なんとなく関係が微妙だなと思った時こそ、向き合える時間を作りましょう。それで解決します。また、今野(今野穣)さんに取締役を一人紹介していただいたのも大きかったかもしれません。

今野:意思決定において、奇数であることは非常に重要です。特に「3」はマジックナンバー。満場一致になるケースもありますが、意見が割れても2対1で進められるので、ブレイクすることがないんです。

奇数という意味では「5」も考えられますが、5人が納得する解は少なく、意思決定が丸くなる。「2」だと割れたら収拾が付かない。「4」は二つに割れたら身動きが取れない。「3」が経営においてベストな数字です。

上場後も“カルチャードリブン”を貫く理由

ーー上場し、社外にステークホルダーが増えると、カルチャーを貫くのが難しくなると思います。何か独自の対応があるのでしょうか?

塩田:上場すると、目に見える数字により意識がいきがちです。しかも、四半期での決算を意識すると、経営者の目線も短期になりがちです。そもそも何か事業をスタートして、3ヶ月で結果が目に見えることなんてありません。僕は上場した最初の株主総会で「アカツキはカルチャーを大切にする会社です。企業価値を上げたいのであり、短期的に株価を上げたいわけではありません」と宣言しました。企業価値を上げれば結果株価もあがってきます。ビジョナリーカンパニーで株主と株式売買者は違うという話がありますが、僕らも自分たちは短期の株価変動を重視するのではなく、長期的に企業価値を上げていくことを重要視しています。もちろん、最初から僕らの考え方がすべて理解されるわけではないと思いますが、ブレずに同じことを繰り返していくことが大切だと思っていますし、それが納得感を生むと思います。ここはもう経営者の覚悟ですね。

上場を目前に控えた頃、一度は上場しない方がいいのではないかと考えたこともありました。資本市場に晒されることで、短期視点になりすぎたり、挑戦しにくくなるのではないかと思ったんです。でも本来は、上場したからこそできることや挑戦することが増えるはず。むしろ上場後に挑戦しないことの方がダメですよね。だから、上場したからこそ長期的にちゃんと成長できたと言われるように、信念をもって経営していこうと決意を固めました。これまで以上に責任も増えますが、目線もあがりましたし、よかったと思っています。

ーー主力事業であるゲーム領域以外にも事業を展開する理由も、ビジョンを実現するためですか?

塩田:おっしゃる通りです。僕たちはアカツキをゲーム会社と定義したことはありません。すべての人生をカラフルに彩り、ワクワクするものに変えていく会社です。その中でゲームも非常に重要なものの一つです。しかし、人生のあらゆるシーンをワクワクに変えていくためには、ゲーム以外にも事業を作っていくべきだと考えており、新規事業に投資すると決めてます。

結局全てビジョンに紐づいてきます。経営者は自分たちが掲げているビジョンに沿っているかで判断していくべきだし、何より経営者自身がワクワクしてないとダメだと思います。経営者の熱量が組織に伝搬するんですから。経営者は自分の心の声を常に聴きながら経営するべきだと思います。

意義のあるビジョンを達成するために事業に邁進することは、自分の幸せと同義であり、同時に社会にも価値を生み出す。だからこそ、経営者も自分の幸せを追求してもいいんです。経営者が自己犠牲だけではなく、幸せに会社経営することで、結果素晴らしい会社が出来上がるのじゃないかなと思います。


【過去のGCP勉強会記事】

急拡大組織の束ね方とは?モチベーションを高める仕掛けづくり– メルカリ 取締役社長・小泉文明氏

急拡大組織の共通点とは?成長を加速させるブレない“軸”の作り方– ビズリーチ 代表取締役社長・南壮一郎氏

マルチサービスで勝つには?UNITED 金子社長に聞く「新規事業に強い組織づくり」

スタートアップのマスマーケティングの鍵とは?「定量×定性」の二軸で考えるマーケティングの基礎–トランスコスモス・真嶋良和氏×博報堂・野田耕平氏