マルチサービスで勝つには?UNITED 金子社長に聞く「新規事業に強い組織づくり」

グロービス・キャピタル・パートナーズでは、投資先および出身企業経営陣が集まる小規模勉強会を定期的に開催しています。大規模なカンファレンスではなく、密な経営者同士でQ&Aやディスカッションを行うことが目的です。

今回は2017年7月に「新規事業のつくり方・育て方。適切なタイミング・リソース配分とは」と題して行われた勉強会の内容をダイジェストでお届けします。登壇者にUNITED・代表取締役社長COOの金子陽三氏を迎え、Viibar・代表取締役上坂優太氏がディスカッションのモデレーションを行いました。

モーションビートとスパイアが合併し、UNITEDに社名変更してから4年、新規事業に弱かったUNITEDがいかにして複数事業で利益をあげるまでに至ったのか、新規事業のつくり方、新規事業を創出する理想のタイミングについて語っていただきました。

(構成:オバラミツフミ、編集:長谷川リョー

[金子陽三]
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、リーマン・ブラザーズ証券会社投資銀行本部にて金融機関の資金調達や事業法人のM&Aに従事。その後、米国シリコンバレーのVCドレーパー・フィッシャー・ジャーベットソンを経て、2002年、インキュベーション・オフィスを運営する株式会社アップステアーズを設立し代表取締役に就任。 2004年に同社をネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社(現ユナイテッド株式会社)へ売却。2007年、モーションビート株式会社(現ユナイテッド株式会社)取締役兼執行役COO兼投資事業本部長に就任。2009年2月より当社代表執行役社長を経て、2012年12月、スパイアと合併し、ユナイテッド株式会社代表取締役社長COOに就任。

もともとUNITEDは新規事業に強くなかった

上坂優太(以下、上坂):本日のテーマ「新規事業のつくり方・育て方。適切なタイミング・リソース配分とは」に沿って話を進めていければと思います。UNITEDは様々な事業を持つ企業だと認識しておりますが、まずは簡単にご紹介をしていただけますでしょうか。

金子陽三(以下、金子):僕が社長に就任したのが2009年で、UNITEDに社名を変更したのが2012年です。就任当時から様々な事業を持つ会社でしたが、そのなかでも特にスマートフォンのアプリの開発・運営を行うスマホコンテンツ事業とアドテク事業に力を入れていました。現在でも注力事業となっています。他にもベンチャーキャピタル事業に着手していたり、グループ会社の事業も合わせると様々な事業を保有しています。

そもそもUNITEDという社名を冠しているぐらいですので、複数事業の集合体であることを目指し、なおかつそれぞれの事業領域でナンバーワンになることで「日本を代表するインターネット企業になる」というビジョンを実現しようと奮闘しています。

上坂:新規事業をつくることで領域を拡大し、その領域でナンバーワンを獲得することを繰り返していくわけですね。それが「日本を代表するインターネット企業」の証明になると。

金子:おっしゃる通りで、新規事業創出は「日本を代表するインターネット企業」になるための手段です。加えて、経営的な観点からみても一つの事業に固執することはリスクが非常に高い。上場企業は継続的な成長を求められるため、仮に収益の出ない事業があったとしても別事業で利益をあげる必要があります。

UNITEDは様々な事業の合計値としてスケールすることを目指しており、既存の事業をさらに伸ばすことと、スマホコンテンツ事業とアドテク事業に変わる第三、第四の柱をつくることに注力しています。

上坂:UNITEDに社名変更をしてから複数事業の展開を意識されたそうですが、金子さんの思想が実現するまでのプロセスを具体的に教えていただけますか?

金子:社長に就任した当時はまだ売上も小さく、すぐさま新規事業に着手できるような状況ではありませんでした。最初の3年はスマホコンテンツ事業とアドテク事業に注力し、一旦経営を安定させることに主眼を置いていました。

結果的に最適化した組織になり、安定した収益を出せるようにはなりましたが、「新しいことに挑戦する」社風を失いかけていました。このままではビジョンの実現が不可能だということで、新規事業立案を積極的に打ち出しました。

とはいえ一度できてしまった社風を壊すのは非常に難しい。「変化を起こそう」と声を上げたところで、変化を起こせる人材がいないのです。そうした雰囲気すら感じられない。社員研修の一環で新規事業立案を行いましたが、出てくる案は事業化できる水準のものではありませんでした。

新規事業に強い“UNITEDらしさ”をつくる取り組み

上坂:組織風土を改革するために、どのような対策をされたのでしょうか?

金子:新規事業創出のための一環として買収を行いつつ、社内からも新規事業が生まれるための雰囲気づくりに着手しました。最初に行った具体的な取り組みが、新規事業創出イベント「マサSEEK」です。いきなり新規事業を考えるのは難しいので、既存のサービスの中から優れたサービスを見つけてプレゼンをしてもらいました。

その後は実際に企画書を作成したり、合宿を通じてビジネスプランをブラッシュアップするプロジェクトを企画しました。新規事業をつくることに徐々に慣れ、感覚を身につけてもらうことに注力していましたね。

上坂:まずは慣れることから始めたのですね。

金子:しかし、いつまでもそのままではいけません。実際に事業が動き出さなければ、社員からの不満も出てきます。そこで、新規事業案の中から最低でも必ず一つを事業化する「スタートUアップ」を開始しました。

「新規事業開発部はつくらない」UNITEDが持つ新規事業の勝ちパターン

上坂:新規事業を積極的につくるために、専任の人材を置いているのでしょうか?

金子:原則、UNITEDでは新規事業をつくるための人材も部署も用意していません。なぜなら、結局役員からGOサインが出る事業案をつくることに目的がすり替わってしまうからです。部署をつくってしまったがために本末転倒になるケースが非常に多いと感じています。

もちろん「新規事業をやりたい」という想いで入社してくれる社員もいるのですが、普段経営を行うなかで「こういう事業が必要だ」と思えたときにだけ例外的に部署をつくっています。その際は適切な人材を経営陣で見極め、配属します。事業化できそうであれば、事業部として明確に名前をつける。もしくは別会社を用意するのが通例です。なので、いわゆる新規事業開発部が常にある状態はないようにしています。

上坂:金子さんが考える新規事業立案に向いている人材の共通項はありますか?

金子:「変わっていける人」ではないでしょうか。そもそも新規事業はそう簡単に上手くいくものではないので、失敗経験を次の機会に活かせる人間は強いと思います。

上坂:では、失敗したとしても人を変えることはあまりないと?

金子:向いていないと判断した場合は責任者を交替するケースもありますが、基本的にはもう一度新規事業に取り組んでもらうことが多いです。僕たちが新規事業をやるにあたり最も恐れていることは、新規事業が立ち上がらないことではありません。新規事業に従事した人材が、上手くいかなかったばかりに退職してしまうことです。意欲があり、経験やノウハウを持つ人物が会社を去ることがもっとも痛手です。

また、そうしたケースが続くと「新規事業をやりたい」という人が出てこなくなります。積み上げてきた文化が崩れてしまうんです。なので、既存事業に復帰する場合の戻らせ方などは配慮しています。組織的に新規事業に対してネガティブになることが一番避けたいことですね。

上坂:UNITEDに社名変更後に何社か買収されていますが、買収後に人材が流失してしまうことも少なくないかと思います。ポスト・マージャー・インテグレーションにも配慮していらっしゃいますか?

金子:もちろんです。買収先の企業にはなるべく口出しをせず、あくまで自主性を重んじることを意識しています。僕の言うことを聞くのではなく、社長として会社の事業や組織を伸ばしてほしいので、それぞれの社長の判断を尊重するようにしていますね。

金子氏が考える、適切な新規事業創出のタイミング

上坂:組織として新規事業が生まれやすい文化をつくっていると思いますが、経営陣が新規事業開発に取り組むケースはありますか?

金子:ありますよ。経営陣、もしくは部署単位や社員単位であったり、様々なレベル感で新規事業が立ち上がっています。本来経営陣がやるべき仕事のひとつが新規事業が生み出される文化づくりであり、担当者が伸びる環境設計だと思っています。

上坂:一定以上の規模がある会社からアントレプレナーシップは生まれるのでしょうか?

金子:難しい質問ですね。UNITEDはかなり文化を変えているつもりですが、まだまだだとは思っています。ただ、やり続けてみないと分からないことが多いのも事実。すぐに結果が出ないからといって諦めることはないです。

上坂:新規事業をはじめるタイミングは明確化していますか?

金子:明確化していませんが、理想的なのはベース事業で売上が立ってからではないでしょうか。

今後みなさんの会社も上場するタイミングがあると思いますが、上場後も伸びる事業を持っていることは非常に重要です。上場のエクイティストーリーが新規事業でも構いませんが、上場後が大変。会社の半分程度はやや無理やり利益を出して上場しているイメージがありますが、上場する二期くらい前からしっかりと利益が出始めたところで、組織的に新規事業に取り組むのが望ましいと思います。

ただ、ベース事業に注力しても売上がスケールしないようであれば早々に新規事業をやらなくてはいけない。ベースの事業にどれくらいのポテンシャルがあるか見極めるのは、経営者の重要な仕事だと思います。

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