ランサーズ「最強の経営チーム」を科学する

「うまくいく会社にはよい経営チームが存在する」

投資先支援活動を行っていて実感するこの感覚を、グロービス・キャピタル・パートナーズでは、ヒューマンロジック研究所と共同して、「科学する」ことを進めています。
今回は、単なるクラウドソーシングサービスから、オープンタレントプラットフォームへ展開を進め、絶好調のランサーズの「経営チーム」を科学することを試みました。ランサーズ経営チームは、4人の役員のどのような科学で成り立っているのか、そこにどのような人が加わると更に最強になるのか。これまでの秋好社長の組織に対する苦悩も含めて、対談しました。

プロダクト開発から事業開発へ

東明宏(以下、東):日本初のクラウドソーシングを始められたわけですが、創業から今日に至るまでの事業展開の流れを教えてください。

秋好陽介(以下、秋好):私たちは、仕事を依頼したい企業と仕事を受けたい個人をインターネット上でマッチングするクラウドソーシングサービス「ランサーズ」を中心に、「個のエンパワーメント」の実現を目指した事業を展開しています。インターネットの力で個人が自分らしく稼げる社会をつくりたいという思いから、2008年に弟と2人で起業しました。日本にはまだクラウドソーシングサービスがなかったので、受け入れられるまでには時間がかかりました。

働き方の価値観を変えたのは、2011年の東日本大震災でした。東京では何百万人という帰宅難民が生まれ、どこで働くか、誰と働くかが意識されるようになりました。それに伴い、ランサーズの登録会員数も伸び始めました。さらに大きくブーストするため、グロービス・キャピタル・パートナーズさんとGMO VenturePartnersさんから3億円の資金調達を行いました。

それまではプロダクト開発の会社でしたが、資金調達後は事業開発を強化していきました。具体的には、フリーランスプラットフォームを使って企業から案件を受託する法人営業部隊を立ち上げたのです。

私たちが高品質な法人案件を多数確保することで、ランサーズの会員数は増えました。更に最近では、個人の報酬単価を上げるために、個人のスキルや実績を可視化した評価システムの構築や、オンライン上での請負契約に加えて企業への常駐を仲介する事業にも取り組んでいます。

:創業からちょうど10年ですね。これまでの歩みを成長段階で分けるとすると、何段階に分けられますか。

秋好:3段階ですね。創業してひたすらプロダクト開発に注力した時期が第1フェーズ、資金調達して事業開発を強化した時期が第2フェーズ、サービスをさらに進化させようとしている今が第3フェーズです。

「来る人拒まず」の創業期

:フェーズごとに人材に対する考え方に変化はありましたか。

秋好:第1フェーズは、採用がとにかく困難でした。ですから、どんな人材が欲しいという以前に、応募してきてくれた人を、わらをもすがる思いで採用していました。僕らのことは、よくわからないことをやっていて、怪しい会社だと思われていましたから、今考えれば当然です。ごく一部の人だけが、「すごいことをやっている会社だな」と興味を持ってくれていたと思います。そういう人の中には、大手のシステム会社や、大手のネットサービス会社から転職してきた人もいました。

:どうやって人を採用していたのですか。

秋好:まず、当時の「ランサーズ」登録会員約10万人に対して、「僕たちと一緒にこのサービスを運営しませんか」とメルマガを送りました。当時は会社が鎌倉にあり、その近辺に住む人が10人ほど応募してくれたので、そのうち何名かに仲間になってもらいました。また、「『ランサーズ』と同じビジネスモデルを立ち上げたいから話を聞かせてほしい」と競合調査にやって来た人を口説いて加わってもらったり、社員の友人を引っ張ってきたりしました。優秀な人が会社を辞めてフリーになったと聞けば、知り合いでなくても、フェイスブックで連絡を取って口説いたこともあります。こうして社員は20人くらいまで増えました。

:その頃、経営チームという意識はありましたか。

秋好:なかったですね。役員は僕1人でした。第1フェーズの終わり頃、懇意にしていたエージェントを通してY(役員)が入社してきました。Yは、以前お子さんが病気だった時に遠隔で仕事をする経験があり、僕たちの目指す「働き方改革」に共感してくれました。今や「ランサーズ」は彼のライフワークになっています。

:第2フェーズでは、どのように人を増やしていったのでしょうか。

秋好:いわゆる一般的な採用活動を進めていきました。媒体への出稿やセミナー、転職エージェント、ビジネスSNSなども使いながら採用を進めていきました。一気に100人くらいまで増えました。ただ、30人くらいの時に壁にぶつかって大変でした。

:どんな壁があったのですか。

秋好:社員が辞めていきました。それまでは僕のビジョンに共感する人たちが集まってきて、「全員が僕のファン(笑)」と言ってもいい状態でしたが、異質のタイプも増えることになりました。

組織マネジメントの難しさに直面する

:秋好さんのビジョンに共感して入社したのでなければ、その人たちはなぜ入社してきたのでしょう。

秋好:ビジョンへの興味もあったと思いますが、事業への興味が強かったと思います。当時、営業部隊を立ち上げるにあたり、その役割を任せられる人をスキルや経験重視で採用しました。また、クラウドソーシングが世の中でニュースになり、話題性が人を引き付けた面も大きいと思います。

それまでは20人くらいの技術者集団だったので、僕が全員とコミュニケーションを取りながらマネジメントしていました。僕も元々はエンジニアなので、僕が「いくぞー!」と言えば、みんながついて来るような組織だったのです。エンジニア以外の組織を作り任せていく中で、今までと同じようなコミュニケーションを継続してしまった結果、コミュニケーションの質が社員数の拡大とともにあたりまえですが薄くなり、方針が見えにくくなり、誤解を生み自分が採用した人たちが、会社のことを良く思わない状態で離れていくのは衝撃でした。ただ、その状況を生み出したのは間違いなく僕です。チームリーダーを結節点にして組織全体をマネジメントするという認識が当時の僕にはありませんでした。密にコミュニケーションを取り、事業のことだけでなく、組織マネジメントや感情レベルまでもすり合わせておくべきだったと思います。

:その直後くらいですね、事業担当役員Xさん(役員)が入ってきたのは。Xさんは小さい事業者さんをエンパワーメントすることに強い関心を持っていたので、秋好さんとはすぐ波長があったように見えました。

秋好:はい。彼に会った瞬間、マインドややりたいことがぴったり合ったので、この人だという確信がありました。Xに法人営業部隊を任せて、Yと一緒に役員になってもらいました。Xもランサーズにすごくコミットしてくれて、知人らを何人も連れてきてくれました。Z(役員)もそのうちの1人です。

:僕が秋好さんに出会って4年ほどですが、以前に比べて人により興味を持つようになった印象です。以前は、人よりもプロダクトに意識があった気がして、僕も秋好さんに「採用にちゃんと時間を使っていますか?」とよく言っていた記憶があります。人を重視するようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

秋好:そうですね。僕は今まで、いいプロダクトを作れば業績が伸びると思っていました。でも、それだけじゃないんですね。優秀でカルチャーが一致する人が入ることで事業が成長していく。これを体感したことが大きかったと思います。

経営チームの人間関係を可視化する

:これで秋好さん、Xさん、Yさん、Zさんの役員4人がすべて出揃いました。ここで蒋野さんに、今の経営チームの状態をFFS理論の観点から解説していただけますか。

蒋野かおり(以下、蒋野):わかりました。FFS理論は、人の思考行動の特性を客観的に分析する理論です。これを使って人間関係を可視化することができます。FFS理論について簡単に説明すると、FFS理論では人の思考行動の特性を次の5因子で計ります。「凝縮性」=固めようとする力、「受容性」=無条件に受け入れる力、「弁別性」=白と黒の2つに分ける力、「拡散性」=飛び出していこうとする力、「保全性」=維持しながら積み上げる力、の5つです。

人間の関係性には、互いに似ている「同質の関係」と、互いに似ていない「異質な関係」があります。異質な関係にも、相互に補える「補完関係」と、異質なだけで「補い合えない関係」があります。生産性の観点から言うと、「同質の関係」は短期のプロジェクトに向きます。一方、長期広範囲な課題に対応する時に望ましいのは、「異質だけれども補完する関係」です。

まず、経営チームの関係性を、互いに似ているか似ていないかの観点で見てみます。5因子の順番やバランスが近い場合、「似ている」と判断します。結論から言うと、誰一人、似ていません(図1:同質型の図)。経営チームは異質性があり、似ていないから、互いのことがわかりづらいとも言えます。互いに補い合えるとか、うまくいくという感覚がつかめるまでに時間がかかる。ですから、異質性があるチームの場合、メンバーが辞めてしまうケースがあります。


図1:同質型の図(今の経営陣)

秋好陽介(以下、秋好):確かに……。何度かそういう危機はありました(笑)。

蒋野:それぞれの個性を見ていくと、秋好さんとXさんの個性は対立軸になりやすいことがわかります。秋好さん、Xさんは、二人とも拡散性が高いので、興味があるやりたいことにわき目も振らず集中していきます。スピード感も合うので、秋好さんもおっしゃっていたように、最初は意気投合します。ですが、凝縮性も高いXさんは、価値観が明確で正しいと思うことを強力に推し進めていきます。よってぶつかることも多そうですが、いかがでしょうか?(笑)

異質だが補い合えるチームをつくるには

秋好:僕とXは、最初の頃はよく対立しました。(笑)でも、Xは、僕らがビジョンを実現するためにはなくてはならない人です。前回の経験から学んだのは、自分自身は変えられるということ。ビジョン実現のためには、自分が変わることで相手に影響を与え、状況をコントロールしていこうと考え方を変えました。

蒋野:次に、経営チームの補完関係を見てみます。図2からは、異質でありながら、部分的に補完していることがわかります。特に、青色で結ばれているXさんとYさんは、強相関といって、強い補完関係が成り立っています。Xさんが先頭に立ち、方向を指し示す役割を担い、Zさんが細かなところをフォローし、まとめていくというような役割が自然と生まれる関係です。秋好さんとZさんも、秋好さんが色々なアイデアを出すと、Zさんがまとめてくれるという補完関係が成り立っています。 これを更に補完関係の強いチームにするには、もう1人欲しいところです。欲をいえば、階段状に折り重なるような形でメンバーを補強すると、チームとしてまとまりが増し、強化されます。問題解決能力が高まると言ってもよいです。


図2:■水平補完型(フラットな関係で心理的に補完する)

秋好:今の話を聞いていると、それぞれの個性や関係性は僕らが感じていた通りなので驚いています。では、もう1人加えるとしたら、どんな個性の人が望ましいのでしょうか。

蒋野:Yさんと似た個性の人、つまり受容性と弁別性が高い人が望ましいでしょう。図3は、今の経営チームにAさんを加えた場合の補完関係を示しています。Aさんは受容性と弁別性が高く、秋好さんとの補完関係が成り立ちます。秋好さんとAさん、XさんとYさんの2つのグループをZさんがまとめていく形にすれば、チームとしてのまとまりは悪くありません。


図3:■水平補完型(Aさんが入ると)

経営チームがカルチャー形成にコミットする

:今後はどのような事業展開を考えていますか。また、それに伴い、経営チームをどのようにしていきたいと考えていますか。

秋好:中核サービスである「ランサーズ」を軸に、周辺事業を新規に広げていきたいと考えています。そのためには今の経営チームの人数では圧倒的に足りないので、メンバーを増やそうと決めています。また、現状では4人の役員の関係がフラットなため、意思決定機構がわかりにくいことも課題でした。今後は、意思決定する体制に変えていこうとしています。

そのうえで、経営チームが織りなす「カルチャー」をもっと意識して、それにコミットしていきたいですね。これまでもミッションやビジョンはあったのですが、それらに向かっていくためのカルチャーは曖昧でした。特に経営チームはそれぞれの個が強すぎて、みんな言うことがバラバラに見えていました。自分たちの言動の積み重ねが組織のカルチャーを作っていくことを強く意識して、カルチャーにコミットしていくのが次のフェーズだろうと思っています。

:ランサーズには、「ランサーズway」という行動指針がありますが、カルチャーはそれとは別物と捉えているのでしょうか。

秋好:今の「ランサーズway」は、個人の行動指針が書かれています。カルチャーは、どちらかというと組織が織りなす空気感のことかもしれません。その辺を言語化して、「ランサーズway」をバージョンアップしていくつもりです。

カルチャーを社員に伝えていくためのカルチャー実行委員会も発足させました。例えば、Xは合宿や社員イベントを通じてカルチャーを体現する「祭り担当委員」、Zはセミナーを通じてカルチャーを伝えていく「セミナー担当委員」という具合に、役員全員が役割分担して進めていこうと考えています。

「拡散」人材を加えて事業スピードを加速させる

:蒋野さんに伺います。今の秋好さんの話を受けて、ランサーズが今後、経営チームのメンバーを増やしていくにあたり、どのような個性の人を加えていくとよいのでしょうか。アドバイスはありますか。

蒋野:新規事業にチャレンジしていくなら、飛び出していこうとする力の強い拡散性因子の高い人を1人加えたいところです。拡散性因子の高い人を加えることで、秋好さんと同じように未知のことを楽しむ人材、アイデアを出す人材が増え、新規事業の立ち上げのスピードが上がるでしょう。

秋好:僕みたいな拡散性因子の突出した人を増やすイメージでしょうか。

蒋野:弁別性因子もある程度高い人が適していると思います。というのも、秋好さんのような拡散性因子が突出した人は、自分の興味に集中するあまり、人よりも前に走り過ぎてしまって、後ろを振り返ったら誰もいないという状況に陥りやすいんです。組織があることを忘れてしまうぐらいです。規模がある程度大きくなってきたら、現実的な側面からも判断できる人材が望ましいと思います。拡散性、弁別性、受容性因子の3因子が高い人なら、その辺のバランスはいいと思います。

:そのような個性の人を採用する場合、どこで見つけられますか。

蒋野:今はフリーで動いているかもしれません。弁別性は情報を重視する因子ですから、企業や組織を経験して、それらの情報を得ておこうという考えを持ちやすいので、1~2社はキャリアアップのために大企業で働いた経験があるかもしれません。ただ、拡散性も高いので、大企業で働き続けるよりは、飛び出すことでより自己成長や自分が望む方向に進めることができそうだと思えば、ベンチャー系企業に転出しているかもしれません。いずれにしても人とは違うことをやろうとしている指向がありますので、そういう場所にいる可能性が高いですね。

秋好:経営チームは何人まで増やすのがいいでしょうか。

蒋野:チームとして生産性があがる人数は、組織論的には、6~8人がいいとされています。今の規模なら6人ぐらいがベストではないでしょうか。

秋好:ありがとうございます。ぜひ今後の参考にしていきたいです。

対談を終えて(ヒューマンロジック研究所:シニアコンサルタント:蒋野かおり) 飛び出していこうとする力の拡散性の高い秋好さんの原動力は、フリーランスの世界を変えたい、実現したいという思いの強さにあると思います。試行錯誤する中、仲間を集い、ここまで事業を成長させてきた。秋好さんの夢は、広大ですから、更にその実現に向かって、未知への挑戦が続きますね。まさに拡散性の強みを活かす生き方そのものと思います。

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