「製造・販売のトヨタ、整備・修理のSeibii」を目指す──DX未開拓の20兆円市場「自動車アフターマーケット」を変革するSeibiiの挑戦

「MaaS」や「CASE」の台頭により、急速に変化を遂げている自動車業界。そんな激変のさなか、「車の整備」を主力事業とする、一風変わったスタートアップが生まれた。車の出張整備・修理サービス『Seibii(セイビー)』を展開する、株式会社Seibiiだ。

2021年6月、シリーズAでグロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)などから総額8.4億円を資金調達したSeibii。代表取締役の佐川悠氏は、「TESLAなど新興ブランドがマスに普及するためには、アフターサービスの拡充が必須だ」と語る。あくまで生活者にとって大事なのは、便利で快適な自動車ライフを楽しめること。サポートが不十分で、購入後に嫌な思いをするのであれば、最先端の車でも普及しないのだ。

投資担当を務めるGCPのキャピタリスト・中村達哉は、「かつて日本車の製造・販売までの王者はトヨタだった。それに対してSeibiiは、その後のアフターサービス領域で王者を目指す」と語っている。

本記事では、Seibiiの佐川氏とCOOの千村真希氏、そしてGCPの中村と代表パートナー・今野穣へのインタビューを実施。整備や修理から、車検、保険、中古車売却などを含めた「自動車アフターマーケット」と呼ばれる知られざる20兆円市場の課題を変革する、Seibiiの軌跡と展望を読み解く。

(取材・構成:石田哲大、写真:藤田 慎一郎、編集:小池真幸

問い合わせから見積もりまで半日かかるケースも。実は非効率だらけ、DX未開拓の整備・修理マーケット

──「車の出張整備・修理サービス」は一見すると労働集約的で、短期間でのスケールを目指すスタートアップの事業らしくないように思えます。どのような点が革新的なのでしょうか?

中村:これまで自動車産業では、新しい車の企画や製造、販売ばかりが注目されてきました。

しかし、いち生活者にとって「新しい車を買う」イベントは一瞬で終わるんですよね。実際は、買ったあと同じ車に5年、10年と乗りつづける時間のほうが長い。

それにもかかわらず、自動車がどんどん進化する一方で、購入後の体験を向上させるアフターサポートは、アナログで非効率なまま取り残されてきた。ここに目をつけたのが、Seibiiの革新性だと思っています。

株式会社Seibii 代表取締役CEO 佐川悠
三井物産を経て、Seibiiを創業。三井物産では10年間、地下資源・地上資源(自動車解体、スクラップ、小型家電)、自動車リビルト部品製造事業、アフリカ市場開拓に携わる。三井物産時代には南アフリカ共和国に駐在し、学生時代にはエチオピアに留学するなど、アフリカ好き。これまでサブサハラアフリカ18ヶ国に渡航経験あり。

佐川:残念ながら、現状では「車の維持コストって高いよね」「車を所有することってわずらわしいよね」と言われることが増えていると感じます。とくに車の整備・修理は、あまりにもUXが悪いんです。

一度愛車が壊れるとわかるんですが、まずインターネット上に整備・修理に関する情報が十分にない。とりあえず問い合わせ窓口に電話すると、「まずは店舗まで来てくれ」と言われる。頑張ってお店に行くと「3時間ほどお待ちくださいね」と言われ、仕方ないので時間を潰してから戻る。すると、驚くほど高い見積もりを手渡される。ここまでで半日ぐらいかかります。もちろんこれは最悪のケースで、もう少しスムーズに行くこともありますが、車の整備・修理が多くの人にとってストレスフルなプロセスであることは事実でしょう。

冷静に考えると、お店まで行く必要はあるのでしょうか? お店で待たされる理由もよく考えるとわからないですし、修理費用だって事前に決められるはず。また最初から問い合わせに整備士が出てくれれば、「あー、それはですね……」と、ある程度は原因がわかるはずなんです。

『Seibii(セイビー)』では、これまでの整備・修理の非効率な部分を徹底的に見直しました。家まで整備士が来てくれるので、店に行かなくていいし、時間が無駄にならない。価格は明朗で、問い合わせから整備士が対応してくれる。考えてみれば当たり前なことを、デジタル・ソフトウェアテクノジーを土台にして積み上げているサービスなんです。

今野:今佐川さんがお話ししていたような経験を、まさに私自身が去年の夏にしたんです(笑)。猛暑のなか3日間で200km以上走っていたら、車が止まっちゃいまして。そこからが本当に面倒くさいわけですよ。オイルが漏れてるのは素人でも分かるけど、どれくらい深刻なのかわからない。ちょっと見てもらおうにも、「外車だから調布まで来てくれ」と言われてしまって。しかも予約は1週間〜2週間後です。車のオーナーはみんな不満を感じているはずですよ。

株式会社Seibii 取締役COO 千村真希
三井物産を経て、Seibiiを創業。三井物産では8年間、アフリカ大陸内の資源案件を担当。南アフリカに2.5年間駐在経験あり。チュニジア生まれ育ちで、7歳で日本に移住。英語、フランス語、アラビア語に堪能。自動車部品商を営む父に持つ。

千村:今野さんが1週間以上も待たされたのには理由があります。ディーラーのメイン業務は、車の販売・車検・リコール対応であるため、故障対応は優先順位が低いんです。

ディーラーだけなく、メーカーも、販売後までアフターサポートしつづける仕組みに限界が来ています。最新テクノロジーを取り入れて、車が高度で複雑になるほど、不具合が増えているんです。ただでさえ忙しいのに、増えつづける不具合に対応する余裕はありません。結果的に、車が進化したのにもかかわらず、お客様満足度は下がってしまっている。

そこに対してSeibiiは、ディーラーやメーカーと提携することで、迅速に顧客対応を代行する体制を整えています。とくに外車や新興メーカーはすごく相性がいい。外車は年式が古かったり、整備・修理方法にクセがあったりするので、しっかり整備方法をインプットしてくれる業者にしか任せられません。また、ITに強い新興メーカーは、プロダクトを作って売ることに注力するので、アフターサポートは不得意なことが多いんです。

我々はそうした負を解消すべく、車の種類ごとに個別最適化されたサポート体制を目指しています。ハードだけでなく、ソフトウェアの違いにも対応し、ゆくゆくは「デジタル分野にも強い整備屋ブランド」となっていきたい。新興メーカーのアフターサポートを支援することで、そのメーカーが表現したい「近未来的なUX」などのブランドイメージを、一貫して提供できる存在になりたいと思っています。

車離れでも問題なし。市場規模20兆円、自動車アフターマーケットの可能性

── 整備・修理マーケットの負の大きさは理解できました。ただ、「若者の車離れ」が嘆かれ、シェアリングカーが台頭するなかで、自動車を保有する人は年々減少しているイメージもあります。そもそも自動車市場には将来性があるのでしょうか?

佐川:まず前提として、いま自動車の保有台数は過去最大なんです。都市部で暮らしていると車が減っているように感じるかもしれませんが、実は増え続けていて、日本全国で約8200万台を記録しているんです。ほとんど一人一台、車を持っている世界ですね。

「車が無くてもいい」というのは都会的な発想で、地方は公共交通が発達していないので、車がないと生活が成り立ちません。また東京都は総保有台数自体も全国2位なんです。実は都会でも車を持っている人は多い。

千村:もしカーシェアが発達しても、アフターサポートは必要です。個人が車を持たなくなると、車の台数自体は減るかもしれません。しかし、代わりに企業がシェア用の車を所有することになり、稼働率が上がって整備・修理する頻度は増えるはずです。じゃあ誰がその車を維持管理するのか? 企業はやりたがらない。その穴を、我々の出張対応で埋めるんです。

佐川:ここで重要なポイントは、車が短期〜中期的に売れなくなっても、我々への影響は小さいということです。なぜなら、Seibiiが向き合っているのが、自動車の製造・販売から切り離された「アフターマーケット」だからです。

この自動車アフターマーケットは、市場規模が非常に大きく、デジタル企業という文脈では、競合がほとんどいません。いまの市場規模は20兆円弱だと言われており、整備修理の領域だけでも8兆円。出張整備・修理サービスが順調に成長するだけで、数百億円規模の事業をつくれます。また、MaaS、CASEとモビリティ本体のソフトウェア化が進行するなか、その裏側を支えるアフターマーケットも、必然的にソフトウェア企業が中心に置き変わるはずです。我々Seibiiは、そのポジションを取りに行っています。

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ シニア・アソシエイト 中村達哉
AGC株式会社の電子カンパニーにて生産管理、新事業における海外営業、中国深圳駐在を経て、ボストン・コンサルティング・グループに入社。複数の国内大手企業に対し新事業策定から立上げ・実行支援、全社改革、M&A支援、中計策定等の業務を経験。2020年6月、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。一橋大学商学部経営学科卒。

中村:車のオーナーが抱えるペインは、整備や修理だけではなく、定期点検・車検・自動車保険・中古車売却まで多岐にわたります。Seibiiはこれらの分断されているマーケットを巻き込み、一気通貫したバリューチェーンの確立に挑戦しているんです。

佐川:Seibiiが目指しているのは、車を買ってからオーナーが抱える全ての面倒ごとを「とりあえずSeibiiに任せれば大丈夫」にすることです。ゆくゆくは日本全国の車8,000万台すべてがSeibiiを利用する可能性があると思っています。

なぜプラットフォームビジネスという形をとらないのか

── なぜSeibiiは、いま主流のプラットフォームビジネスにならなかったのでしょうか? たとえば、個人の知識やスキルを売買できるCtoCスキルシェアサービス「ココナラ」や、人手不足の建設現場と働きたい職人をマッチングさせる「助太刀」のように、Seibiiも「車を整備したい人」と「手の空いている整備士」のマッチングサービスとして展開する可能性もありえたはずです。

佐川:マッチングサービスの形式では、品質担保や顧客からの信頼を積み上げることが難しく、「Seibiiブランド」が構築できません。それだと車のオーナーのペインは解消できても、同時にミッションとする「整備士の幸せ」が実現できないと思ったんです。

いま日本では、整備士不足が社会課題になっています。車が大好きで自動車整備士の資格を取ったはずの人たちが、次々とこの業界を離れてしまっている。

国家資格が必要な技術職なのに、給料が安すぎるからです。いま整備士の手取りを時給換算すると、1,000円程度と言われています。「あれだけ整備・修理費用が高いのに、たったそれだけ?」と思うかもしれませんが、ディーラーや工場の事務などにも分配すると、整備士が手にするお金は微々たるものになります。

もうひとつの理由は、社会的評価の問題です。車が動かなくて困っているお客様と直接話をするのは、営業や受付の人たちです。お客様は直してくれた整備士にとても感謝しているはずですが、整備士への「ありがとう」の一言は、直接届かないことがほとんど。

整備士から見ると、せっかく勉強して国家資格を取ったはいいものの、なかなかお給料が上がらない。また自分の仕事がどう社会やお客さんに評価されてるのか分からない。そして、やりがいを見失って辞めてしまうんです。マッチングビジネスでは、既存業界で働く整備士が苦しむ構造そのものは変えられない。新しいキャリアや働き方のモデルを、Seibiiが先頭に立ってつくらなければいけないと考えました。

中村:Seibiiさんと初めて面談させていただいたとき、マッチングのビジネスなのか、お客さんから直接受注するビジネスなのかを質問したんです。そこで、「自分たちはSeibiiというブランド、すなわち暖簾を掲げる」と言い切ってくれた。自らリスクを取って業界課題に向き合う姿勢に、起業家としての覚悟を感じました。

── お客さんから直接受注する方式をとることで、Seibiiにはどのようなリスクがあるのでしょうか?

佐川:まず大前提として、車は命を預けるものなので、安心安全は絶対に担保しなければいけません。整備の品質責任はSeibiiが負うことになります。

さらに難しいのは、お客様から見て依頼する相手はSeibiiですが、現場に出張する整備士は提携している個人事業主である点です。この状態で、整備のクオリティを担保しなければいけません。現在、全国41都道府県で200人以上の整備士と提携していますが、全員が完璧に整備・修理をこなせる体制を確立しなければいけないのです。

中村:そのために重要視しているのが「整備士の心をつかむ」こと、すなわち信頼関係を構築することなんですよね?

佐川:そうなんです。Seibiiというブランドを展開するためには、整備士たちと仲間になり、二人三脚でお客様のロイヤリティを築いていくことが重要です。そのためにSeibiiは会社に「メカニックサクセス」という役職を置いたり、整備士さんたちが気軽に会社へ立ち寄って、一緒にお喋りできるような関係性をつくっています。

Seibiiでは自社で整備士を抱えているため、オフィスにはたくさんの整備用工具が用意されていた。

千村:Sebiiで働いてくれる個人事業主の整備士にも、さまざまな関わり方の人たちがいます。ディーラーで働きながら副業として働いてくれる人もいますし、フリーランスの整備士もいます。あとは自分でお店を持っていて、空いた時間に手伝いに来てくれる人もいますね。

なかには整備工場を辞めて、Seibii一本で働いてくださっている整備士の方もいます。整備士は労働環境的に、休みもロクに取りづらい人が多いんです。よく聞く話としては、「子どもの授業参観に1回も行ったことがない」「運動会に行けない」とか。Seibiiで働く人は自分で休みを選べますし、整備士にとっては難しい「自分のライフスタイルに合わせて働く」ことを実現できるんです。

佐川:私たちが日々考えているのは、整備士が幸せになるために「新しいキャリアパスを提供すること」です。既存業界は整備士から見て課題が多く、それに対して健全な危機意識を持っている人は多い。だからこそ、我々は「メカニックサクセス」を事業の中核を担う存在として置き、多様な働き方を提供している。

私たちが描くビジョンに整備士たちが共感してくれている今の状態は、ただのマッチングサービスでは実現できなかったと思います。

アフリカで感じた熱気が、アフターマーケットへの情熱を生んだ

── 自動車のアフターマーケットは、正直かなりニッチな領域だと思います。なぜこの起業テーマを選んだのでしょうか?

佐川:私と千村の二人が、たまたまこの領域に思い入れがあったんです。私は前職で三井物産に勤めていたのですが、まさにアフターマーケットに関わる仕事をしていました。だから、もともと業界の負の側面も知っていたんです。また、千村も同じ三井物産で働いていたのですが、彼の場合は父親がアフターマーケットで事業を営んでいます。

そんな私たちが事業を立ち上げる話になったとき、自然とアフターマーケットがテーマに決まりました。社会的なインパクトの大きさも後押しになりましたね。整備業は調べれば調べるほど社会にとって不可欠にもかかわらず、時代が追いついていない。今後、MaaSやCASEなどモビリティに大きな変化がやってくるし、明らかにチャンスだ。私たちがやらなければ誰がやるのか。そう考えました。

── 佐川様、千村様はおふたりとも、三井物産時代にアフリカに駐在していたとお聞きしました。この経験は起業テーマに影響していますか?

佐川:大きく影響しています(笑)。アフリカでは、信じられないくらいアフターマーケットの熱量がすごいんです。

アフリカでは、もう廃車になったボロボロの日本車が船で運ばれてきて、修理されてそこら中を走り回っています。経済成長に伴って車の需要が伸びているのですが、新車を買う余裕はないので、中古車が流通するんですよ。でも、本当に古い車なので当然あちこち壊れてます。だから、みんなが修理やメンテナンスをしたがるんです。

その際に必要になってくるのが、整備・修理用の部品です。アフリカの都市部には、自動車の中古部品ばかりが売っている市場があります。あえて日本でたとえるなら、上野のアメ横みたいな場所です。市場にはものすごい人が集まっていて、問屋さんがいっぱい並んで、部品を買い付ける業者がたくさん来ている。買い付けの風景は、まるでマグロの競りみたいです。熱気が本当にすごいんです。

千村:実は私はチュニジア人とのハーフなんですが、母親が再婚していて、再婚相手がウガンダ人なんですね。そのウガンダ人の父親が、日本で修理用部品を調達して、アフリカに輸出する仕事をしているんです。

一念発起でお金持ちになりたいアフリカ人は、日本まで来て、質のいい部品を買い付けて売るのがポピュラーなんです。私の父親もそんな感じで、けっこう稼いでいました。

── そこから現在の事業を立ち上げていったと思うのですが、創業にあたってなにか乗り越えた壁はありましたか?

千村:実は出張整備の事業をはじめる前の話があります。実は私たちが最初にはじめたのが、まさに日本の中古部品をアフリカや南米に売る越境EC・オークションだったんです。プロダクトを開発して、試しに販売するところまで進んでいました。

でも、やってみると原価が高すぎて「これはうまくいかないな」というのが判明した。ちょうど2019年2月が終わる頃でしたね「これはピボットしないとまずいぞ」と、焦りはじめたんです。

佐川:まずは冷静になってアフターマーケット全体を俯瞰し、フィールドインタビューやデスクリサーチを繰り返しました。今のモデルの原型に辿り着き、ピボットを決意したのが4月。そこから思い出に残る「平成から令和に変わるゴールデンウィークの10連休」が始まりました(笑)。毎日ずっと会議室に缶詰になって、なんとか連休最後に初期のサービスリリースまでこぎつけたんです。「やり方がよく分からない」とか言いながら小さく広告も出してみて、反応を見ていましたね。

千村:初めてお客さんから依頼が来たときのことは、今でも鮮明に覚えています。皇居の前で自転車を漕いでいたら、私のスマホに着信が来たんです。あの時は感動しましたね。そこから少しずつ引き合いが増えていき、全員ユーザーヒアリングにも行きました。明らかにお客さんからの反応が良くて、いけそうだなというのが見えてきたんです。

佐川:あと、最初は顧客理解のためにふたりで整備や修理をやっていました。バッテリー上がり救命とかも自分たちでやってましたね。そうやって地道に改善をつづけるうちに、2020年の夏頃からユーザー数が着々と増えてきたんです。

── GCPのおふたりはどのようにお知り合いになられたのでしょうか? 投資を決断するに至った経緯を教えてください。

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 今野穣
経営コンサルティング会社(アーサーアンダーセン、現PwC)にて、プロジェクトマネジャーとして、中期経営計画策定・PMI(Post Merger Integration)・営業オペレーション改革などのコンサルティング業務を経て、2006年7月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。2012年7月同社パートナー就任。2013年1月同社パートナーおよび最高執行責任者(COO)就任。2019年1月同社代表パートナー就任、現在に至る。 東京大学法学部卒。

今野:2020年の10月にとある投資家の方の紹介で知り合ったんです。会って話を聞いて、直感的にいいねと思いました。あとからデューデリジェンスなどで問題ないことは確認するプロセスはあったのですが、気持ちとしてはすぐに「投資したい!」と思いましたね。

理由は、まず大きな市場で取り組んでいることと、明確なユーザーのペインを確実に解決するサービスであること。そして何より、ファウンダー・マーケットフィットしていると感じたことです。

「商社出身のエリートが頭で考えて作った」といった感じのビジネスではなくて、地を這って体温を感じながらビジネスしている。すごくピュアな情熱がある。このテーマに取り組むのに、日本で一番ふさわしいと言える情熱とご経験と実績があると思っています。

中村:初めてお話を聞いたときに、素人には全くわからない複雑な業界の負を感じたんです。その業界で明確にインサイダーであり、なおかつ業界の負を解決するために、お客様と整備士の両方にとっての価値を真剣に考えていらっしゃる。私も話を聞いてすぐ、投資を前向きに進めようと思いました。

アフターマーケットで、トヨタを超える存在を目指す

── いまは出張整備事業に集中されていますが、今後はアフターマーケット全体を担うところまでを視野に入れられています。中長期的な構想を教えていただけますか?

佐川:目指しているのは、前述したように「自動車のことはSeibiiに頼める」状態にしていくことです。いま積み上げている整備・修理のデータから、ソフトウェアを中心とした事業として顧客体験を向上できるサービスをつくり上げていきたいと考えています。

今野:たとえば車検証などは、いま紙で扱われていますが、車歴がデータ化できれば貴重な情報になります。車の一生を追うことができるからです。適正価格での2次・3次流通だけでなく、故障が発生する前に事前予防や点検サービスをレコメンドすることもできます。

佐川:それだけでなく、より深い業界課題の解決も試みています。たとえば、いま全国で整備工場は9万軒もあり、明らかに多すぎる状態です。しかも、車の部品はメーカーから1次卸、2次卸、3次卸と、複雑な流通網を経て各整備工場に届きます。こうした非効率で過剰な整備の仕組みを、Seibiiがワンストップで対応できる体制に変えようとしています。

── Seibiiで働く魅力は何だと思いますか? また、今後どのような人と一緒に働きたいかも教えてください。

千村:大きな産業で、かつ社会のインフラになる、みんなに認知されるブランドをつくっていけることがやりがいですね。今後は市場そのものに働きかける段階なので、自ら仕事をつくり、動かせる人であれば、どんどん自分の思い通りにできると思います。
いま欲しい人材としては、BizDevを含めたオペレーションをつくれる人と、開発とマーケティングです。とくにBizDev人材は、裏側の部品流通網の設計をしたり、整備士やお客さんと向き合ったりするので、重要な役割です。いろいろできてガッツのある人が欲しいですね。

── 最後にGCPのお二人からメッセージをお願いします。

中村:車の製造・販売だと、日本発で世界に名を轟かせるトヨタがあるじゃないですか。じゃあ、アフターマーケットでは誰がそのポジションを担うのか?。Seibiiにはアフターマーケット領域でトヨタを上回る存在になってほしいと思います。

オフラインとオンラインの垣根がなくなっていく流れのなかで、きちんと現実の課題に向き合いながらデジタル化していくSeibiiの試みは、非常に産業に与えるインパクトが大きいと思っています。国内はもとより、海外も含めてアフターマーケットを取りに行く。我々もそこにご一緒できると嬉しいですね。

今野:中村さん良いこと言いましたね(笑)。トヨタを超える、それ以上のことはないんじゃないでしょうか。

でも本当に、車の製造・販売と同じかそれ以上に、2次・3次流通の重要度は増してくるはずです。何年後かには、Seibiiは産業のリーダーになれるはずだと期待しています。そして、「車が好き」「デジタル化が好き」の人は、とりあえずSeibiiに集まったらいいと思いますよ。他に似たような企業はほとんどないですし、「好きこそものの上手なれ」と言いますからね。

(了)