ネクストメルカリ最右翼!——“死の谷”から這い上がり、世界市場に挑むミラティブの勝算

「撤退の意思決定が早いDeNA」が、リリース直後から赤字続きだったにも関わらず、辛抱強く事業を継続し、見事にJカーブを描いたサービスがある。スマホ一つでゲーム実況ができるライブ配信アプリ、「Mirrativ」だ。現在は母体であるDeNAからMBO(事業を買収し、自身がオーナーとなって独立すること)し、2018年2月に設立された株式会社ミラティブによって運営されている。
 
“DeNAの最年少執行役員”という勲章から想起されるイメージとはかけ離れた、泥臭いカスタマーサポートによって、サービスは急成長。4月には10億円超の資金を調達し、「ポストメルカリを狙える」と期待されるまでになった。
 
そのような急成長の核となっているのは、代表・赤川隼一氏のリーンな経営哲学と、時流を読み解く深い思考力だ。複業社員の数がフルタイム社員を上回る独自の組織設計も、その鋭い思考から導き出された最適解だった。
 
赤川氏は自身のサービスを評して「10年に1度あるかないかの、グローバルでの勝算がある」と語る。リリース時の苦悩、見えて来た勝ち筋、複業人材を活かし切る組織設計の妙…。創業から現在に至るすべてを、赤裸々に語っていただいた。

(構成:オバラミツフミ 編集:小池真幸

「撤退の意思決定が早いDeNA」を説得した“Y Combinator思考”とは?

高宮慎一(以下、高宮):赤川さんから事業の話をはじめてちゃんとお伺いした際に、僕はその場で投資することを決めました。ただ、会う前は食傷気味だったんですよね(笑)。というのも、最近は“なんちゃってSHOWROOM”が多いこと、多いこと。SHOWROOMのビジネスモデルを表層的に真似ているサービスは多いものの、コミュニティ型のライブストリーミングの事業の本質をついているサービスは少ないんですよ。

赤川隼一(以下、赤川):初めてちゃんと事業の話をさせていただいたのは、昨年の11月でしたね。Mirrativ事業をDeNAから切り離すタイミングで、支援をいただく外部投資家の方を探していたところ、僕は高宮さんと一緒に進めていきたいと考えたんです。

高宮:ぜひ今日は、MBO(マネジメント・バイアウト)の話も含め、投資後から現在までの軌跡をお話しできればと思っています。DeNAといえば、事業撤退の意思決定が非常にスピーディーな印象があります。立ち上げ以降、「スモールスタート x 赤字」の状態から、綺麗なJカーブを描くまでのストーリーをお伺いできますか?

赤川:おっしゃる通り、リリースから今日この日まで順調だったかと言われたら、そんなことはありませんでした。「伸び続けなければ撤退せざるを得ない」といったプレッシャーもあったので、緊張感を持ちながら事業を育ててきましたね。
 
サービスのリリース時に、プレスリリースで「グローバルを志向する」といった旨を大々的に発表しました。しかし、PRでユーザー数がそれほど伸びたわけではありません。盛り上がりの1ヶ月後には、“死の谷”を迎えるフェーズがありました。DeNA社内でも「右肩上がりになっていないから、このまま事業を続けても意味がないのではないか?」という議論が行われていたほどです。

高宮:社内でそのような声が上がるなか、なぜ“死の谷”を迎えた事業を継続できたのでしょうか?

株式会社ミラティブ代表取締役 赤川隼一氏

赤川:谷から再度右肩上がりに強引に持っていき、事業を担当していた取締役の原田さんが、可能性を見出してくれたからです。彼は表面的なユーザー数ではなく“熱量”を追っていく、“Y Combinator(カリフォルニア州マウンテンビューに籍を置くシリコンバレー屈指のアクセラレーター)的な発想”を深く理解してくれていた。たとえば既存ユーザーが100人いて、翌週に105人に増加していたとします。その状態を、「5人しか増えていない」「105人しかいない」と考えるのか、「週次で5%伸びている」と考えるのか。原田さんは、後者の考え方を持っていました。また、ひとりあたり滞在時間の伸び方など、「熱量」に関する指標の伸びをきちんと目利きしてくれました。
 
何もない状態から右肩上がりにサービスグロースさせるために、大きく2つの施策を打ちました。
 
まずは、配信してから視聴者に届くまでのラグを短縮すること。そして、僕がカスタマーサポートを行うようになったこと。とにかくユーザーに「運営側は、あなたの配信を見ている」ということを分かりやすく伝えていくようにしたんです。
 
誰かが配信を開始したら、僕のSackに通知が入るように設定し、即座に僕が運営として、「Mirrativ」のSNSアカウントで紹介をする。「ようこそ」というようなコメントも配信内で行っていく。ユーザーさんと仲良くなってひとりひとりから意見を吸い上げる。そうしたある意味泥臭いカスタマーサポートを朝の8時から夜の2時まで1か月ほど毎日継続した結果、ユーザーが運営を媒介に繋がりはじめ、そこから右肩上がりにグロースしました。

成功しなければ、ダサいだけ。“死の谷”を越えた、泥臭いカスタマーサポートの秘密

高宮慎一

高宮:ユーザーファーストを徹底したわけですね。現在はゲーム配信に特化していますが、当初はライブ配信のプラットフォームとして、より広いユーザーを想定して事業展開をしていたかと思います。戦略の転換は、カスタマーサポートを徹底していくなかで生まれたものなのでしょうか?

赤川:そうですね。ユーザーの動きをつぶさに追ってみると、9割はゲーム実況をしていたのです。スマホ画面を配信する汎用性から、「ゲーム実況”も”できる」、という打ち出しを当初はしていたのですが、ユーザーの直接的なニーズは、スマホ単体でゲーム実況”が”できることに集中していたんです。本来であれば、この事実にもっと早く気づくべきでした。
 
今もう一度事業を立ち上げるのなら、最初から大衆向けのプラットフォームを志向するのではなく、「マインクラフト専用」といったように、強烈な熱量のある領域をフックにすると思いますね。当時の僕にはそのような「リーンスタートアップ的な発想がなかった」と反省しています。

高宮:でも、「あるある」ですよね。事業の立ち上げ当初は、汎用的な総合型のプラットフォームを志向しがちです。でも、最終的な絵が総合的なプラットフォームであったとしても、最初は特定の領域にフォーカスしたほうが立ち上がりのスピードは出ると思います。

特にMirrativのように濃いコミュニティを形成するサービスだと、ニッチ層をターゲティングしなければ熱量が分散してしまいます。

赤川:「ゼロイチで濃いニーズを検証する」という発想がそもそもなかったんですよね。苦虫を噛んだ経験からも、Y Combinatorの考え方は正しいと感じています。大量の失敗と成功を見てきているので、ベンチャー立ち上げの集合知が集積されている。彼らの考え方を愚直に実行するだけでも、新規事業立ち上げの成功確率は格段に上がるのではないでしょうか。

高宮:定石をいかに知っているかで、ヒットの確率は変えられます。とても大事なことですよね。

赤川:社内立ち上げ事業は、全身全霊をかけて“打率1割”の世界です。そうした厳しい環境のなか、原田さんはY Combinator流の考え方を貫いてくれました。今思い返せば、大企業という組織体系の中で、彼とタッグを組めたことは、本当にありがたかったです。

高宮:DeNAの事業として運営していた時期と、独立してからで、事業に対する考え方は変化していますか?

赤川:根幹にある部分は変わっていませんが、二つの変化がありました。まず一つが、「もっと自分をさらけ出してもいいんだ」と気づけたことです。僕のキャラクターが変化したわけではありませんが、以前は、「上場企業の中の人間だから」「執行役員らしくふるまおう」ということで、自分の発信に知らず知らずのうちにブレーキをかけていたような気がします。エモーショナルでストレートなメッセージを発信するようになり、ユーザーや仲間、色んな人に共感をしてもらいやすくなったなと感じています。
 
また、自分をさらけ出すことによって、助けてくれる人が増えたんです。DeNAでの立ち上げ当初は「最年少執行役員が立ち上げた新規事業だと思われているから、失敗なんてできない」と高いプライドを持っていました。「どうせなら、カッコよくロケットスタートしたい」と(笑)。そうした本質ではない部分に意識を引っ張られてしまう側面があったんです。しかし今では、プライドマネジメントをしていません。

高宮:「事業を成長させていくことだけがゴール」だと気づけたということですよね。「執行役員」という勲章が、剥がれていったと。

赤川:おっしゃる通りです。「本質的には事業で成功しないと、どう見た目を取り繕ってもダサいだけ」という、恐ろしい事態が見えました。自分をさらけ出すことで、事業をより早いスピードで推進できるようになりましたね。
 
二つめが、時代の空気をダイレクトに反映した制度設計ができるようになったことです。具体例を挙げると、複業として参画してくれているメンバーが非常に多い。面接をして「一緒に働きたいな」と感じたら、そのまま社内でSlackに招待し、その日からコーディングを手伝ってもらうこともあります。
 
一般的には、一緒に働くまでに、どうしても入社ステップを踏まなければいけませんし、入社までは数か月かかるのが普通です。でも、事業を立ち上げることが目的なら、それくらいのスピード感を持ったほうがよいはずです。
 
弊社は複業として参画してくれているメンバーが、正社員の2倍程度います。それは、事業を立ち上げるのに最もふさわしい組織形態を追求した結果です。そうしたスピーディーな意思決定が可能になったのは、独立したことの強みだと思っています。

「フルタイムであること」が本質ではない。複業人材を活かし切る組織設計の最新事例

高宮:最近複業を活用する企業が多いですが、その中でもミラティブは特に使いこなし方がうまいと思います。従来当たり前とされてきた組織設計と比較すると、随分革新的だと思います。どういった理由から複業人材を集めたのでしょうか?

赤川:ベースにあるのは「いいサービスをつくるために必要な機能に対して、最も知見のある人は誰なのか」と考える思考です。その「最も知見のある人」を採用できればベストですが、フルタイムで採用するには退職交渉をする必要がありますし、半年間も待たなければいけないということもザラです。
 
しかし、複業であればすぐにでもジョインしてもらえるかもしれません。日本一ではない人にフルタイムで入社してもらうよりも、日本一の人に複業でサポートしてもらうほうが、よっぽど価値が出るような仕事もありますから。

高宮:非常に優秀な複業メンバーと、手を動かすメンバーに分け、前者に後者がキラーパスを出すような組織設計がベストかもしれませんね。

赤川:どちらかが良くて、どちらかが悪いということはないんです。最強の思考や経験・知見を持ったプロフェッショナル人材と、手を動かしながらスポンジのように学んでいける成長フェーズのメンバーを、いかにWin-Winの関係で組み合わせられるかを意識しています。

高宮:いわゆる日本企業だと、在籍している人をベースにポストを作るのが慣例ですが、それは本質的ではありません。まずは備えるべき機能を設計し、それに即した人材を採用するのが、あるべき論としては正しいと思います。今後ミラティブが成長し、ミドルステージに突入するにあたり、複業人材をどう活かしていくか構想はありますか?

赤川:採用基準は絶対に下げずにほしい人材をリクルーティングしようと考えています。信頼ができ、極力マネジメントしなくてもいい複業メンバーを採用することが大前提です。また、スタートアップは採用の失敗が入社後に発覚すると受けるダメージが大きいので、お互いの相性の見極めとしても複業期間を活用するのが合理的だと思っています。1年間で確立したスタイルをフェーズにあわせて応用していきます。

アジア発、グローバル行き。ミラティブが確信する、凄まじいほどの可能性

高宮:“死の谷”を越え、時代の空気をダイレクトに反映した制度設計によって、ミラティブは急成長を遂げています。改めて赤川さんから、現状について語っていただけますでしょうか。

赤川:スマホゲームを実況するサービスとしては、国内市場ではぶっちぎりで一番のポジションを獲得できています。「荒野行動」や「PUBG MOBILE」など、メガヒット級のゲームでMirrativとの連携ができているんです。ここは特にお金を払うこともなく進められているので、一年後にはAppStoreのどのゲームを見てもMirrativと連携している状態にしていきたいですね。
 
ゲーム実況市場は、中国から去年時価総額1兆円の事業も出た領域です。中国のケースでは、自撮り型の配信サービスは停滞してゲーム実況のみ伸び続けている。そうした大きなトレンドがあるなかで、さらにVTuber(バーチャルユーチューバー)という大波がやってきました。現在は、先日リリースしたスマホ一台でVTuberになれる機能「エモモ」によってその領域に挑戦している段階で、スマホを介して自分をバーチャル化することで人の可能性を解放する世界の実現を見据えています。
 
このように、伸びるゲーム実況市場で独自のトップポジションを獲得できているだけでなく、トレンドを違和感なく融合させながらさまざまな拡張性を持たせていけることがMirrativのツボです。

高宮:VTuber系の事業の立ち上げ一つとっても、赤川さんの本質的な思考が伺えます。VTuberの波が押し寄せるなか、赤川さんはVTuberの表面だけを見て「バーチャルグラフィック化されたユーチューバー」と捉えるのではなく、「それぞれの人格に身体・見た目を付与する“アバター”として機能する」という本質を見抜いている。
 
そして、トレンドだからといって安易に乗っかっているのではなく、「Mirrativ」の提供価値の本質である「ゲーム実況時の人とのつながり」から軸足をぶらさず、それに合ったかたちでVTuber領域に踏み込んでいます。

赤川:そういった視点を持つために、自分の脳内だけでなくプロダクトを自分の手で触り、ユーザーの動向を追いながら思考するのは大事にしています。僕自身が単に好きということもありますが、人の根源的な部分について思考を巡らせています。
 
現代は、思想や哲学を反映させたサービスが受容されやすい世の中になってきています。そういった時勢のなかで、ただのサブカル大学生だった頃の経験が活きているんだと捉えています。ただ配信することにバリューを見いだすのではなく、人とのつながりこそが本質だと考えているのも、かつて自身が熱中したテレホーダイ時代のチャットルーム経験があってこそでしょう。当時のADSL回線のチャットルームを現代化するようなイメージなんです。

高宮:アバターのような日本のオタク文脈から派生したサービスは、現地にカルチャライズせずとも本来の日本らしさで押し切れうる点でも優位ですね。韓国発の「カカオトーク」、中国発の「musical.ly」や「TikTok」などのグローバル進出が好例ですが、アジア独特のコミュニケーション文化はそのまま押し切ったほうがプラスになる傾向がある。今度こそ、From Japanのメガサービスが世界を席巻することができるのではないかと、可能性を感じています。

赤川:「エモモ」には、僕自身、凄まじい可能性を感じています。かつて僕は、ソシャゲのグローバル展開の責任者をしていたのですが、最終的に中国勢・海外勢にすべてを持っていかれた悔しさを忘れていません。しかし今回のアバター領域は、日本発で日本らしい文化特性が活かせる市場ですから、少なくとも先行優位がある状態です。
 
誰もが変身願望を持っていて、同時にライブストリーミング市場もゲーム実況市場も非常にホット。ですから、先発優位を殺さず、この状況から高速でグローバルで勝ち切ることが本当に重要だと思います。
 
狙っているのは、VRがマジョリティに浸透しはじめるタイミングで、Mirrativがブームの先頭に立っていること。「ARが来るぞ」と長らく言われていた中で結果的には『Pokémon GO』『SNOW』が最初に大ヒットしたように、新しいテクノロジーは誰もが持っているスマホから広がっていくはず。そういった文脈から、アジア流コミュニケーションの最新型として、Mirrativで世界市場を席巻したいと思っています。

ミラティブではメンバーを募集中です
https://www.mirrativ.co.jp/recruit/

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