アンドパッド植野氏、電撃「異業種参入」までの道のり

ANDPADという、クラウド型建設プロジェクト管理アプリを提供するアンドパッド。2021年1月には元ファミリーマートマーケティング本部長/デジタル戦略部長の植野大輔氏を上級執行役員CMOとして迎え入れ、SaaS企業の枠を超えた、産業レベルでのデジタルトランスフォーメーションの実現に向けての一歩を踏み出した。

COMPASSでは度々アンドパッドについて取り上げてきたが、取材の度成長を遂げおり、今では、契約社数2,500社、利用社数60,000社を超える規模へと成長している。

植野氏の電撃「異業種参入」を導いたグロービス・キャピタル・パートナーズ、投資先支援チームGCPXのリーダー、小野壮彦との対談の中で、プロ経営者人材にとっての、スタートアップ業界でのキャリアの可能性と、産業DXを推し進める上での「マーケティング」の役割について紐解く。

商社マンから戦略コンサルタントへ。磨かれたプロフェショナリズム

株式会社アンドパッド 上級執行役員CMO・植野大輔氏
2001年 三菱商事株式会社入社。在籍中、株式会社ローソンに4年間出向、共有ポイントPontaの立ち上げやシリコンバレー企業とのアライアンスを主導。2013年 ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2017年1月 株式会社ファミリーマート入社。サークルKサンクスと経営統合したファミリーマートにて、シニアオフィサー改革推進室長、マーケティング本部長を歴任。2019年10月、デジタル戦略部長に就任し、全社デジタル変革の総責任者として、デジタル戦略の策定及びデジタル金融サービスの垂直立ち上げ、ポイントプログラムのマルチ化を主導。2021年1月 株式会社アンドパッド 上級執行役員CMO就任(現任)

小野:植野さんと最初にお会いしたの、いつでしたっけ。

植野:当時はまだ三菱商事のころです。ある戦略ファームパートナーに、「最近、商社でくすぶってまして。」という話をしたら、「俺が最強のヘッドハンターを紹介してやる」といわれました。それが、当時エゴンゼンダーにいらっしゃった小野さんでした。

小野:最強…しかし、そんなに前でしたっけ。覚えてないな(笑)

植野:初回の面談は、特に進展もなくその場は終わりました。おそらくまだ当時の自分は何も魅力がなかったんでしょう。

小野:多分そうだね(笑)

植野:その後一つ目の転機がきます。ローソンへ出向が決まり、新浪剛史さん(現・サントリーHD代表取締役社長)の薫陶を受けました。

小野:新浪さん時代のローソンはどうでした?

植野:新浪さんの強烈なリーダーシップで躍動するローソンの一端を担うのは、なかなかハードでしたが、最高の刺激と学びの日々でした。

小野:その後、三菱商事本体へ帰任されたんですよね。

植野:はい、ただ私には毎日があまりにも平穏すぎて、そんな毎日を送っていたら、強烈に焦りが出てきました。

小野:焦るんだ。平穏だなんて、結構いい待遇じゃん。

植野:新浪さんの背中を追っていた自分としては、これはまずいぞ、と。そこで小野さんにもう一度連絡をして、お会いしたんですよ。

小野:うん、その時のことは覚えてる。笑

植野:そこで意外にも、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)を勧められました。私、当時36歳間近ですよ。

「今からコンサルですか?」と聞いたのですが、「コンサルじゃない、BCG一択だ」と、ビシッと言われました。

アラフォーの商社マンでもおもしろがってくれるかもしれない、チャームなプロフェッショナル達が集うBCGに行くべきだ、という説明でした。

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、ディレクター、Head of GCP X 小野壮彦氏
アクセンチュア戦略チームを経て、プロトレードを創業。M&Aにより楽天へ事業譲渡。その後、プロ経営者として、Jリーグ、ヴィッセル神戸、家電ベンチャーアマダナの取締役を歴任。経営人材コンサルティングのエゴンゼンダーに参画し、パートナーとして経営陣へのアセスメント、コーチングおよびヘッドハンティングを実施。近年はZOZOに本部長として参画。プライベートブランド立上げ、および国際展開をリード。2019年10月、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。

小野:BCGでの日々はどうでした?

植野:ひたすら大変でしたね(笑)

商社マンは、商売の嗅覚を持てと言われて育てられます。「これはカネの臭いがするぞ」という感覚があるのですが、コンサルタントは、なぜそう判断するのかを、クライアントに向けてロジカルに言語化しないといけない。この商社時代の武器をアンラーニングするのに、なかなか苦労しました。

小野:「もう、これしかない」っていうのは見えてるのに、コンサルタントだとわざわざ3つ挙げなきゃいけないですよね。

植野:でも、パートナーの方々が持つ視座の高さ、サポート部門含め全力でクライアントに価値を作りに行くプロフェッショナリズムには感銘を受けました。

小野:BCG入る前・後でなにが違うと思いますか?

植野:コンサルスキルもとても強い武器になっていますが、もっと精神性の部分、三菱商事の超安定のジョブセキュリティを断ち切り、プロフェショナリズムが磨けたことですね。

BCG時代の「プロに努力賞なし」という言葉がとても印象に残っています。商社は頑張っていれば評価してもらえるのですが、プロフェッショナルファームでは何よりもクライアントに価値を出せるかが重要で、とてもいい経験でした。

再び「真剣」を手に持つ世界へ。挑んだのはファミリーマートのDX

小野:そこから大きな転換がきます。

植野:BCGに旅立つ前に話は戻りますが、三菱商事の最終日に新浪さんと話しました。

小野:怒られました?

植野:挑戦を応援してくれました。その上で「事業の世界で、真剣を持て。3年したら、戻ってこい」と言われたんです。少し大袈裟ですが、商社マン同士の約束のようなものと受けとめました。

それで、BCGで3年は働いて、その次はローソンに戻るつもりだったのですが、気づいたら新浪さんが転職(サントリー)してしまっていて、俺はどこに戻ればいいのかと(笑) 

するとすごく運命的なことに、澤田貴司さん(当時・ファミリーマート代表取締役社長)から、人を通じて「会いたい」とお声がけを頂きました。

小野:おお、男澤田さん。

植野:「コンビニはこうすべき」と、ローソンに戻ったら仕掛けようと思っていたアイデアをぶつけたら、その場で澤田さんは「全部、その通りだ!すぐやろう!」と。

小野:初対面で、「すぐやろう!」なのね(笑)

植野:すぐにもう一度、食事に誘われまして、出向いていったら、玉塚さん(当時・ローソン代表取締役社長) にレファレンスをしっかり取っていました。「来月から来れる?」と言われてびっくりしたのを覚えています。

小野:BCGからご卒業されたときに、また会いましたよね。

植野:そうですね、お会いした時にはファミリーマートに転職するのが決まっていた時でしたね。コンサルティング業界から大企業への転職における、心得を伝授してもらったのを覚えています。

小野:そんな話しましたっけ。俺大企業で働いたことないんだけどな(笑)ファミマに入ってすぐにデジタル戦略部長になったんですか?

植野:いえ、最初は改革推進室長という澤田さん直下で、全社改革を担当する執行役員(シニアオフィサー)になりました。店舗業務の抜本改善として、ファミチキを揚げる時間をストップウォッチで測ったり、かなり泥臭い活動を行っていました。

小野:チキンですか。

植野:並行して、当時は社内でマーケティングのPDCAを回す仕組みがなかったので、より計画的に施策を打てるよう、関連部署をまとめながら推進しました。LINEやGoogleとのアライアンスも進めたり。

小野:そのあたりから、ファミペイへつながった訳ですね。

植野:その前にマーケティングの本部を新規で立ち上げることになりまして、本部長に就任しました。一気に100名近い組織になり、香取慎吾君を起用したCMにクリエイティブ刷新をしたりと、忙しい日々を過ごしていました。

小野:それまではマーケティング機能が分散していたんですね。

植野:そうしたら、ある日突然、澤田さんに呼び出され、社長室に入ると、ボードメンバーがずらりと座っていました。「ファミペイを八か月後にローンチせよ」というオーダーがあったんですよね。

小野:おお

植野:役員がざっと並んでいる前で、「やるのか、やらないのか、どっちだ」なんていきなり言われ、こっちが答える前に、「よし、植野で決まりだな」となるわけです(笑)

小野:しびれますね。澤田さんらしい。

植野:そこからは、デジタル変革推進の総責任者として、すさまじいスピードでファミペイによるデジタル変革を進めていきました。同時に、デジタル組織の立ち上げもして、デジタル時代のファミリーマートの柱を作ったのです。

小野:キャリアに平時・戦時という区分があるとすると、ファミマではずっと戦時を駆け抜けていたイメージですね。

植野:そうですね、巡航速度はなかったです(笑)

小野:澤田さんとそこまで近くで働いて気づいたことは?

植野:何より現場に着火し続ける澤田さんの経営手腕は、新たな学びでした。同時に、澤田経営を経験したからこそ、かつての新浪経営の凄みもまた、より深く理解できました。どちらのリーダーシップも経験できたのは経営リーダーを志す者として、本当に貴重な機会です。

小野:そしてまた、ファミリーマート卒業の時にお会いしました。

植野:そうですね。ファミマを卒業してからの進路を決めておらず、小野さんは三つのオプションがあるとお話ししていただきました。「①BCGに戻る、②スタートアップのCxO、③自分で起業。このいずれかだ」と。

他にも何人かの方に相談する中で、組織ではなく、一度は自分で勝負するべきだと覚悟が決まり、自分のファーム、DX JAPANを立ち上げました。

小野:独立しちゃいましたよねー。ある意味予想通りではありました。

植野:予想通りだったんですか?(笑)。DX JAPANでは、やはり小売系の企業クライアントが多いんですが、DX戦略の経営トップ向けのアドバイザリーをやっていまして、コンビニ以外の小売世界が、とても新鮮でした。改めて、小売業界の中でコンビニが、大きく進んでいる部分も再認識できました。

後編に続く:アンドパッド植野氏・GCPX小野が紐解く産業DXを推進する人物像