長期投資 × スペシャリスト採用で社会的インパクトを創造する–DBJキャピタル内山春彦・永原健太郎×GCP渡邉佑規 VC対談

起業家の数が着実に増え、ベンチャーエコシステムが形成されつつある日本だが、まだまだ投資家の数が足りていないのが現状だ。VC各社が採用活動を強化しているものの、仕事の中身や魅力を業界の外にいる求職者に伝えるのは難しい。また、起業家にとって資金調達をする際、どのVCから資金調達するかは大きな判断ではあるものの、VCによって異なる特徴を、投資を受ける前から把握することは難しい。

本連載では、グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパルの渡邉佑規と日本の主要VCに在籍する投資家が対談を行い、将来のVCの成り手や起業家に、VC各社に関する適切な生の情報をお届けする。

連載3回目となる今回は、DBJキャピタルの内山春彦氏、永原健太郎氏を迎え、投資期限を持たないDBJ流のベンチャー投資論、投資セクターを拡張するスペシャリスト採用、DBJ本体とシームレスにつながる構想について伺った。

(構成:オバラ ミツフミ 編集:長谷川リョー

社会的インパクトを狙うDBJ流 “4つのDNA”

渡邉佑規(以下、渡邉):まずは、DBJキャピタルの特徴をお伺いしてもよろしいでしょうか?


内山春彦氏

内山春彦(以下、内山):「長期性・中立性・パブリックマインド・信頼性」という4つのDNAを持つVCです。DBJキャピタルはバイオ系やテクノロジー系のベンチャー企業に投資を行うケースが多いため、結果が出るまでに時間を要するケースが多々あり、10年を越える長い期間でお付き合いをする企業も少なくありません。中長期的に成長可能性があるベンチャー企業に対してファンド期限が理由で短期的なイグジットを求めることがないように、グループのDNAがぶれない仕組みをあらかじめつくっています。投資される側の立場に立ち、長期的・俯瞰的な目線でファンドを運用しています。革新的な技術を生み出し、ベンチャーキャピタル業務を通じて世の中の為になる活動をしていきたいと意識しています。

渡邉:『長期性』というのはユニークで、他のVCの追随や模倣に限界がある、DBJキャピタルにとっての差別化ポイントですね。特に足の長い、バイオ、ハイテク、モノづくり系への投資に関してはインパクトが大きいと思います。

内山:もちろん、そもそもイグジット計画がない企業に投資はできません。しかし、時間がかかっても会社を成長させ続ける意思があり、なおかつIPOまでの道筋が描けるのであれば投資を行っています。ダラダラと株を持ち続けることはしませんが、短期的なExit期限は設けていません。

永原健太郎(以下、永原):VCにとって、ファンド期限には抗えないので、投資テーマは良くても拾いきれないスタートアップがままあると思います。そうしたところをDBJキャピタルが拾っていければ、最終的に大きなリターンを得られるのではないかと考えています。また、長期的な視点で投資を行うことは、起業家にも業界にも価値のあることではないかと考えています。

投資セクターの幅を広げる“スペシャリスト採用”とは?

渡邉:投資セクターの守備範囲の広さも特徴の一つと認識しています。TMT(Technology/Media/Telecom)、バイオ、ハイテク、メーカー、一般サービス業と、幅広いセクターに投資をされてますよね。セクター毎の専門性を上げるためにどのような工夫がなされていますか?

内山:金融業界未経験でも、事業の専門性を持った人材を採用することでセクター分散を実現しています。同席している永原も事業サイド(インターネット畑)の人間です。

永原:私は新卒でサイバーエージェントに入社し、VC、SEOの営業・コンサル、メディアのマーケティング等の業務を10年程経験した後、2017年3月よりDBJキャピタルにてキャピタリストとしてのキャリアを改めて歩み始めています。事業会社から金融系VCに行くことは非常に珍しがられますが、私自身事業サイドの知識・経験だけではなく金融知識を身に着け掛け合わせることでより多様なバリューを経営者の方に提供できるようになるのではないかと考えております。

内山:金融にまつわる知識は教えてあげられるので、金融以外の得意分野を持っている人を積極的に募集しています。現在の組織構成は、金融畑出身者と事業畑出身者の比率が半々くらいになりました。

渡邉:GCPのキャピタリストの採用についても多様性を意識し、コンサルバックグラウンド、金融バックグラウンド(投資銀行、VC、公開引受)、事業会社バックグラウンドと多彩になっています。一方、テクノロジーバックグラウンドの方の採用・育成については、課題と認識していているため、御社を始めとする他のVCのみなさんから学びたい部分です。

内山:投資のデューデリジェンスにおいて外部の専門家に頼ることはできますが、投資後のハンズオンに外部の専門家を頼っているようではスピードが遅すぎます。専門性を求められるセクターにおいても、的確にスピーディーなアドバイスができるよう、業界のプロフェッショナルを採用しているところです。


渡邉佑規

渡邉:セクター分散のアロケーションはどのようになっていますか?

内山:およそIT系が4割位、バイオ系が3割、残りはものづくり産業などさまざまです。時代によって起こる分野の流行り廃りにパフォーマンスが左右されることがないよう、分散をかけています。

なお、IT系とライフサイエンス系があくまでコアセクターにはなりますが、最近はその中間にある産業にも注目して投資をしています。IT産業から滲み出したライフサイエンス系企業や、バイオ領域発のIT系ベンチャーなどです。

シード投資は、シリーズA以降の追加投資の布石

渡邉:年間でどのくらいの金額を投資されていますか?

内山:10億から15億円程度はコンスタントに投資しています。ファンド規模は80億円で、3年毎に中期計画をリバイスし、DBJの承認を受けながら運用している形になります。IPO等市場環境如何にかかわらず、一定額コンスタントに投資し続けることが大切だと、過去の反省からも身にしみて感じています。

シード期も含んだ全ステージが対象です。また、投資額の半分程度を追加投資が占めています。各ラウンド、リスクリターンが合致するなら、積極的に追加投資を行う方針です。

渡邉:あまり一般的には知られていないかもしれませんが、DBJキャピタルは、わりとまとまった金額のシード投資をすることがありますよね。実は、GCPもシード投資を積極的に取り組むため、新しい枠組みをスタートしたところです。あくまで、GCPの強みや役割を認識した上で、シリーズAファイナンスまでの助走期間を伴奏し、早い段階から先々を見据えたサポートをしたいと考えています。DBJキャピタルがシード投資に取り組む際のポイントを教えて頂けますか?

内山:DBJキャピタルでも、2017年4月からシード投資に関する制度ができました。以前までは投資委員会での審査を経なければ投資ができない仕組みになっており、シード期の企業はどうしても選考を通過しづらいという状況でした。

しかし現在は年間2億円の予算を当て、時価総額3億円以下の企業に限定し、一社当たり3千万円以下の投資を代表権限で行っています。ローンチ前のベータ版でも構わないので、すでにプロダクトを持っていて、市場の反応を確かめられる段階の企業に投資をしています。

シード投資は、シリーズA以降の追加投資の布石として位置付けています。シード期からお付き合いがあるのとないのでは、情報量が全く違います。情報量及び信頼というアドバンテージを得て、長い期間を前提に追加投資ができればと考えています。

渡邉:ソーシングにおいては、各キャピタリストが個人の投資テーマを持って、個別に動く感じですか?それとも、会社として投資戦略をある程度定めて組織アプローチで動いていますか?ちなみに、GCPではキャピタリスト個人の興味関心を尊重しつつ、俯瞰的、概括的にマーケットやテクノロジーの潮流を組織で議論することで、投資テーマの機を逃さないよう努力しています。

内山:これまでは個別案件ごとに善し悪しをジャッジするだけでした。一方、それだけでは戦略性がないと考え、まさに2017年の夏頃から投資セクターの研究を行っております。まずはそれぞれのキャピタリストが関心を寄せる領域を研究し、毎週担当者一名が自ら選んだテーマに関するレポートを持ち寄って議論する形です。

冒頭でも申し上げましたが、既存産業とITを掛け合わせた事業なども注目産業なので、そうした時代背景も意識していますね。


永原健太郎氏

永原:基本的には個人の興味関心を最大限尊重してくれる組織風土です。その上で私含めて個々人の専門性をぶつけ合うことで掛け算的な視点を持って事業を捉えられるのではないかと考えています。バイオに関しては現在3名体制で組織化しておりますが、その他はVR/ARに関心を持つものもいれば、量子コンピューター、AIなどの勉強会に参加し将来的なビジネスを思考するなど、それぞれの得意領域を伸ばしながら意見を出し合い喧々諤々議論をしております。

DBJキャピタルが考える銀行系VCとしての存在意義

渡邉:DBJ本体との連携について教えてください。記憶に新しいところでは、メルカリ、ラクスル、スマートニュースへのDBJ本体からの大型投資はとてもインパクトがありました。

内山:シリーズAやシリーズBはDBJキャピタルで担当し、グロースするフェーズでDBJ本体にバトンを渡すのが理想的な形です。メルカリやスマートニュースは初回から大型投資なので本体のアカウントで対応していますが、ベンチャーやセクターに関する知見はDBJキャピタルに溜まっているため、DBJ本体とDBJキャピタルが協働して案件を検討しています。

渡邉:箱は違えど、DBJキャピタルとDBJ本体がシームレスに繋がっていくイメージですね。

内山:DBJキャピタルは1〜2億円程度の投資が中心になりますが、DBJ本体は10〜20億円規模の投資を行います。一方、両社の投資金額に乖離があるため、その差を埋めるような投資ができればと思っているところです。

永原:そうですね。現在は50〜200億円のバリュエーションの投資案件が手つかずになっている現状があるので、GCPを始め他のVCの方々とも協調しながら企業の成長を支援しDBJ本体の投資に繋げていく、などの連携ができればいいなと思っています。DBJ本体の投資チームには私も所属しているので、何かあればお声がけ下さい。

内山:融資やM&Aなども含めて、金融ソリューションについては何でも揃っているところがDBJグループの売りなので、企業側へのベストなソリューションとなるよう、さまざまなパターンを検討し、事例を増やしていきたいと思っています。

渡邉:GCPとしては、シード投資にも積極的に手を伸ばす一方、大型のPre IPO投資にも、マーケットのニーズがあると認識していまして、今後捕捉していきたいと考えています。例えば、成り行きでいっても上場は可能なもののSmall Cap IPO(小さい時価総額での上場)となってしまう可能性が高いPre IPO企業に対し、我々の投資(グロースのためのまとまった資金)とハンズオンで事業を更にドライブさせ、より大きな時価総額(及び上場時の調達額を引き上げること)を狙い上場に導くイメージです。

個社によってそれぞれBestな上場タイミングは異なりますし、軽々に上場時期を後ろにずらすのはリスクが高いです。また、東証マザーズという、世界的にも稀有な開かれた市場を活用しない手はありません。一方で、上場後にある程度の時価総額を維持できないようでは、上場後の資本政策、適切な株価形成、資金調達手段のフレキシビリティ確保などの観点から、意図せずとも俗に言う「IPOゴール」のような苦境に立たされる可能性もあります。

起業家の方々にとって、IPOはゴールではなく資本市場へのデビューなわけで、中長期的観点から上場後のスケールも考えれば、GCPがPre IPO投資を行う意義が見出せると考えています。当然、GCPのファンドだけでは賄いきれないことも想像できるため、ぜひDBJグループとの連携を増やしていきたいです。最後になりますが、GCPに対して何か一言頂ければと思います。

内山:セクターに関する深い知見を持ち、出されたビジネスプランを評価するというより、GCPが出来ることを含め、どうしたら実現できるかを起業家と一緒に考えるというような起業家の立場に立った投資スタイルに、温かさを感じます。なおかつ結果を出すシャープさにも感心しており、見習わせていただきたいVCの一つです。

永原:ファンドのテーマがある程度絞られていても、キャピタリスト個人が際立っているところが素晴らしいと思います。GCPとしての組織の看板ありきではなく、個々人がキャピタリストとして何をすべきかを常に考え成長していくことでGCP自体が常に進化し続けている組織だなと感じており、是非DBJキャピタルもそうありたいと話しています。

渡邉:誤解されることも多いのですが(笑)、GCPは、DBJキャピタルをはじめとする金融系VCの方々との共同投資が増えてきています。金融系のみなさんの業種・業態をまたがるネットワークは、投資先の支援に大きく寄与しますし、また最近は投資先のDebt(借入)ニーズでお世話になるケースも増えてきました。お互いの強み・弱みを補完しあえる関係にあると思いますので、ますますの連携をお願いします!


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