国籍の壁を越え、外国人が健やかに暮らす環境を創出する——語学学習サービス「フラミンゴ」金村容典×GCP 今野穣 起業家×投資家対談

近頃、近所のカフェで海外の方とマンツーマンで英語を学習する人を見かけたことはないだろうか。もしかすると、彼らは外国語学習のマーケットプレイス「フラミンゴ」のユーザーかもしれない。「フラミンゴ」は、国内在住の外国人に英会話を教わることができるサービスだ。エンジェル投資家の家入一真氏や株式会社ディー・エヌ・エーから投資を受けるなど、創業間もなくから注目を集めてきた。2016年10月のリリース以降ユーザーは増加し続け、2018年1月時点で講師数は2,400人、生徒数は数万人にまで急成長している。

 

フラミンゴは、「若い起業家の成功事例を増やそう」とシード投資に参入したGCPの、シードプラグラム投資第1号だ。投資を担当した今野は「野心ある若手起業家の中でも、金村君は飛び抜けて骨太な人材だった」と語る。

 

フラミンゴの創業には、韓国人家系に生まれた原体験があるという。サービス立ち上げまでの秘話、今野が投資を決めた理由、今後の展開までお話を伺った。

(構成:オバラ ミツフミ 編集:長谷川リョー

在日外国人が健やかに暮らせるようにーーCEO金村氏が語る「フラミンゴ」開発秘話

金村容典
1993年日本生まれ。2013年〜2014年にVC、2015年春には文科省EDGEプログラムの一環でシリコンバレーを訪問し、チャットワーク株式会社でインターンを経験。2015年夏には、インターンとして株式会社ディー・エヌ・エーの新規事業である「Anyca」のマーケティングに従事した経験を持つ。立命館大学在学中にフラミンゴを創業し、現CEO。「日本に住む外国人に、少しでも幸せになってほしい」をビジョンを掲げ、外国人講師とマンツーマンで語学学習を行うマーケットプレイス「フラミンゴ」を展開中。

ーーまずは、金村さんの経歴についてお伺いさせていただけますか?

金村容典(以下、金村):フラミンゴを構想したきっかけは、ChatWorkのインターンでカリフォルニアに訪れたことにあります。現地で「Uber」に乗車すると、ドライバーがインド人の方でした。その方に、シェアリングエコノミーサービスを4つ掛け持ちして生計を立てているとお話を伺いました。息子さんを大学に入れるために、アメリカに出稼ぎにきていたんです。

海外ではこうした事例が少なくないですが、日本では外国人がお金を稼ぐのは簡単ではありません。たとえば日本語が不得意な外国人留学生は、飲食店で皿洗いをしていたり、給与のためだけに働らかざるをえない状況があります。

せっかく語学習得を目的に来日しているのに、もったいないなと感じたんです。彼らは週28時間しか就労することができません。7日間アルバイトをしたとすると1日4時間、12時間外出するとしたら1日の3分の1を無駄にしていることになります。

もし日本人とコミュニケーションを取りながらお金を稼げたら、日本語の定着も早くなるはず。大学で立ち上げていたiOSアプリを開発する団体のメンバーと、「フラミンゴ」を開発しました。

ーー起業を意識したというよりは、「フラミンゴ」を展開することを考えられていたのでしょうか?

金村:そうですね。ただ、もちろんビジネス的視点で勝算もありました。語学産業は非常にレガシーで、ソーシャルを利用したサービスが少ないんです。英会話サービスは外国人の方が日本で暮らす際の仕事になっていたので、かつては時代にフィットしていたと思います。しかし、少し時代の変化に遅れていました。そこにチャンスを感じましたね。

ーー創業時は大学在学中で、かつ休学もされていなかったそうですね。限られた時間の中で、学業とビジネスを両立させられた要因を教えていただけますか?

金村:高い熱量を保ったまま事業を継続できた理由は、僕のバックグラウンドも関係しています。国籍上は日本なのですが、僕には日本人の血が入っていません。祖父に話を聞くと、かつては在日外国人が非常に暮らしづらい環境にあったそうです。就職してもすぐに会社をクビになってしまうこともあったそうです。

自身のバックグラウンドを知ったときは戸惑いを隠せなかったという金村氏。しかし海外で暮らした際に、出身地を尋ねられることはなく「君はどんなことができるの?」と、出自に関わらず人間関係を築けたそうだ。差別のない、フラット世界観を知った瞬間である。「日本で世界中の人々をつなぐサービスを作る」ーー金村氏の原点となった。

金村:そうした背景もあり、祖父は会社を創業して家族を養っていました。また、私の父は歯科医師をしています。医者や弁護士といった仕事は国籍による差別が少ないそうで、祖父が医師になることをすすめたそうです。

同じようなバックグラウンドを持つ外国人の人たちが、少しでも健やかに暮らすことができないかーー。「フラミンゴ」を通じて収入を得る仕組みを作ることは、僕がやる意味があるのではないかと思いました。

シード投資の鉄則は、ビジネスモデルよりも人間性を見ること。今野が金村氏に投資した決定打とは?

GCPがシード投資に参入した背景の一つが、「今野が金村氏に投資をしたかったこと」だという。金村氏の原体験から生まれたハングリーさと、サービスの持つ成長性を後押ししようと投資を決めた。

ーー今野さんと金村さんとの出会いについて教えていただけますか?

今野穣(以下、今野):昨年度のIVS(Infinity Ventures Summit:インターネット業界の経営者や経営幹部が業界の展望や経営について語るイベント)に参加したのが初めての出会いです。その頃はちょうどシード期にあるベンチャー企業への投資を考えているところでした。

GCPがシード投資に参入した背景の一つが、「今野が金村氏に投資をしたかったこと」だという。金村氏の原体験から生まれたハングリーさと、サービスの持つ成長性を後押ししようと投資を決めた。

今野:シード期の投資は、ビジネスモデル云々よりも起業家の人間性に懸けるのが鉄則です。また、個人的には伸びしろのある若い人材を応援したいと思っていました。

金村さんは、若いながら非常にしっかりしていたんです。昨今の風潮では、それ自体が悪いことでは決してなく生き方や我々の事業との相性の問題ですが、自ら立ち上げた事業を早期に売却し、投資家になることを目指す起業家も少なくありません。ですが、僕は事業売却を目的とせず、より大きな世界観を持った人と仕事がしたかった。まさに金村くんは僕が描く理想の起業家だったんです。

ーー事業計画の良し悪しよりも、金村さんの人間性で判断したと。

今野:ステージが早い段階では、あまり細かいところまで立ち入らない方がいいと考えています。というのも、まだどういった方向に、どのように伸びていくかが分からないからです。大きな道筋や考え方、成長モデルを示すことは大切にしていますが、細かい数字を指摘したりするのは早いだろうと思っています。

金村さんが「フラミンゴ」を立ち上げた深い動機は、先ほど話していた「外国人の暮らしを良くしたい」という想いです。そこには彼が持つ固有の原体験があります。強い想いを持った人間であり、その原体験は強みになると思ったんです。

ーー事業初めて出会ってから投資をするまでに、どのようなやり取りがあったのでしょうか?

今野:一度の面談を経て投資を決めたのですが、その際に「3つのメッセージ」を伝えました。

一つが、「CtoCサービスにこだわりすぎるな」ということ。サービスのスタートは「フラミンゴ」ですが、必ずしもそれだけでマネタイズをする必要はありません。日本で一番外国人のIDを持っている会社になれば、そこからいくらでもサービスを広げていくことがでいます。大きな視点を持って事業を展開して欲しいと伝えました。

二つ目が、「自分より優秀な人材を採用しなさい」ということ。金村さんは学生の中では飛び抜けて優秀ですが、世の中には優れた人材がたくさんいます。良い組織を作る上で、その視点を忘れないで欲しかったのです。

そして最後に、「八方美人にならなくて良い」と伝えました。GCPが投資をする以前から多くのVCや投資家から資金を集めていたので、すべてのステークホルダーからのアドバイスをそのまま聞いていたら、身動きが取れなくなるのではないかと思ったんです。一方では賞賛されることも、他方では否定されてしまうかもしれません。それでは、組織のモチベーションが下がってしまいます。これは会議体の設計やコミュニケーションプランを整備することが重要です。

金村:現在も、取締役会や株主総会以外でも月に一回お話をする機会を設けていただいています。リアルタイムで連絡を取り、アドバイスをいただいているので、高い視座を維持できていると思いますね。

語学サービスだけで終わるつもりはない。外国人の暮らしを最優先に考え、事業拡大を見据える

ーー普段の密なやり取り以外で、事業を運営することへの好影響はありますか?

金村:GCPさんが主催する勉強会に参加させていただいたけるのはとても感謝しています。今野さんにおっしゃっていただいたことですが、採用を非常に悩んでいたんです。その際に一つ質問をしたところ、アカツキの塩田さんに「君は会社員をなめすぎている」とアドバイスをいただいたことがあります。

(※関連記事:カルチャードリブンな組織を貫き、創業7年で東証一部に上場。アカツキCEO塩田氏が考える売上と文化の二兎を追う経営

「一番苦しいときを支え合った創業メンバーで頑張っていきたい」と相談すると、「それは単純すぎる」と教わりました。「金村くんと違い、会社員として働いた経験のある人間は凄まじく優秀だ。だから君はその人の3倍努力しないといけない」と言ってくださったんです。

自分には見えていない驕りに気づける機会はそう多くないので、こうしたアドバイスをいただける場はとても重要だと思っています。

ーーGCPとしては、今後どのようなアドバイスをされていく予定でしょうか?

今野:次のステージを視野に入れつつ、弊社を含め次の投資家たちに事業の拡張性があると思ってもらえるようなKPIや、次の調達ラウンドのマイルストーンを特定し、再現性のある仕組み作りをお手伝いしたいですね。。また、勉強会も好評なので、先輩起業家たちとディスカッションできる機会も継続して提供できればと思っています。

ーー最後に、フラミンゴの展望についてお伺いさせてください。

金村:今野さんと初めてお会いした際に「大きな視点を持って事業を展開して欲しい」とアドバイスをいただき、以来僕たちが「フラミンゴ」を展開する理由をずっと考えてきました。改めて思うことは、外国人の方々を最優先に考えられることが、僕らが独立している意義だということです。

仮にどこかの企業にM&Aされたとすると、もしかするとそのビジョンが実現できないかもしれません。僕たちがやる意味を言語化することができたので、まずはフラミンゴを成長させ、今後事業を広げていけたらいいなと思っています。


関連記事