スタートアップの捉えるべき顧客課題:非連続な成長ステージを駆け上がるスタートアップが捉える「市場機会」とは?

多くの場合単一プロダクトから始まるスタートアップにおいては、解決する顧客課題と顧客ターゲットを明確に定める必要があります。アーリーステージに到達する上でも最も重要な構成要素としてProduct Market Fit(PMF)がありますが、顧客課題・ターゲット特定はそのMarket部分の話にあたります。

非連続な成長ステージを駆け上がるスタートアップは、創業時大きく成功する可能性のある魅力的な「市場」を選定(これについては次回以降取り上げます)する一方で、そのシード期はフォーカスを定めPMF確立に全力を注ぎます。


将来的に解決したい課題・目指す姿に対して、初期の顧客ターゲットは具体的にどんなニーズをもった、どんな属性のセグメントなのかを解像度高く特定することはその後の成長のためにも極めて重要なマイルストーンになります。そのために少しでも参考になれば幸いです。

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目次:
解像度の高さの重要性
顧客の(本当の)課題を把握する
コアな顧客ターゲット(セグメント)を特定する
終わりに

“解像度の高さ”の重要性

以前の記事で整理したように、非連続的な成長ステージを駆け上がるスタートアップは「何の問題(課題/ペイン)を解決するのか?」、「顧客(ペルソナ)は誰か?」という問いに対する答えの解像度が非常に高いという特徴を持っています。

スタートアップはシード期において顧客ターゲット、その課題、それに対するソリューション/プロダクトの初期の仮説をもち検証を繰り返していきます。つまり、仮説を立て、テストをし(実際に利用してもらいフィードバックをもらう)、仮説の確からしさを検証します。

仮説が異なっていた場合には修正した上で、再度検証をし直す、というプロセスを回し続ける中で、本当にコアとなる顧客ターゲット(セグメント)とそのコアとなる課題の解像度を高め、プロダクトを改善し、PMF(≒特定のセグメントにプロダクトが熱狂的に使われている状態)を目指します。

顧客のコア課題とその対象となる顧客ターゲットに関する解像度の高さが何故重要かというと、大きく以下の3点からその後の成長のスピードが変わってくると考えています。

  • 事業戦略面:当該セグメントの深掘りや近接するセグメントへの展開を考えるにあたり、営業・マーケティング戦略や必要なオンボーディング・CSの方法が明確になり、また追加機能など開発の優先順位も定めやすくなる。

  • 組織戦略面:事業戦略に紐づき、営業・マーケ・CSなどにおける必要な人材要件や人員構成などが変わってくるため、採用や組織体制に影響を与える。

  • 資金効率面:上記が明確になると資金使途にメリハリが出て限られた資金をより有効に使えるとともに、グロースドライバー(事業をスケールさせるために最も効率的な資金の使い方。後日改めて触れたいと思います。)の特定に向けた仮説検証が進みやすくなる。

もう少し具体的には、PMFの段階で顧客及びその課題について以下のようなポイントが明らかになっていることが肝要です。

  • どのような課題をもっている、どのような属性(セグメント/サブセグメント)の顧客なのか

  • どのようなコンテクスト(文脈、背景)で使うのか(ユースケース)

  • 当社が想定している使い方をしているか、今後も使い続けてくれるのか(ユースケース)

  • なぜ当社のプロダクトを使ってくれるのか(何に価値を感じているのか)

  • お金を払ってくれるか(収益化できるか)

  • どのようなチャネルでリーチができるのか

  • どのようなメッセージに反応するのか

※これらに加えてユニットエコノミクスの観点もありますが、一旦定性面のみ記載します。

以下では、「顧客の課題」と「顧客ターゲット」についてもう少し掘り下げていきたいと思います。

顧客の(本当の)課題を把握する

まず「顧客の課題」についてですが、言うまでもなく課題(=ペイン、ニーズ)とは顧客がプロダクトを購入する動機になるものです。それは顕在(顧客が言語化できている状態)や潜在がありえますが、本質的な課題を正しく理解し、顧客にとってなくてはならない存在になることが事業の継続的な成長のために重要です。

Needs vs. Wants

少し例を使って説明すると、例えば「ECアプリを作りたいというメーカーの顧客」がいたとします。自社での開発のノウハウがないため簡単に作れるツールが欲しいということもかもしれないし、自社で開発しているが時間もコストもかかって効率が悪いためできる限り早く安く作るツールがほしいのかもしれません。

ただ何故アプリを作りたいのかという背景を考えてみると、この顧客はアプリを通じて売上を伸ばすことが本当の課題ということに行きつきます。この場合、アプリを作ることはウォンツ(wants)であり、売上を伸ばすことが本当のニーズ(needs)になります。(マーケティングで有名な「ドリルの穴理論」です。)

顧客が簡単に安く早く作りたいと表面的に言っていたとしても、裏側にあるこの本質的な課題をしっかり理解すれば、簡単・安い・早いというポイントではなく、多少コストがかかっても売上を伸ばすための機能やデザイン、ノウハウをあわせて提供することの方がより重要かもしれません。

Must Have vs. Nice to Have

上記の例をそのまま使うと、アプリを作るツールで留まってしまうと他により便利なツールが出てきたときにリプレイスされるかもしれませんが、既存の業務システムとも連携することで業務プロセスの中に入り込みそこでデータが蓄積されたり、売上が劇的に伸びたりしていれば、それは容易に変えることができないものになります。

つまり、より本質的な課題にアプローチし、より深く業務プロセスに入り込めば、なくてはならない存在(Must Have)になります。

顧客が求めるものは様々で、機能、価格、利便性、UX/UI、信頼性、セキュリティなどありますが、顧客の課題をしっかり理解することで正しく訴求ができ、より価値を感じてもらえれば多くの対価を払ってもらえることになります。

また、当社が提供したい(又はしていると信じている)価値と顧客のニーズがずれている場合には、もしかすると(少なくとも今は)ターゲットすべき顧客ではないという結論になるかもしれません。

コアな顧客ターゲット(セグメント)を特定する

次に「顧客ターゲット(セグメント)」についてですが、シードステージにおいては、仮説をもって(本)リリースしたプロダクトの初期トラクションを検証しながら、「特定のセグメント」における「熱狂」を作りにいきます。

もちろん初期トラクションの中には様々な課題/ニーズをもった様々な属性の顧客が混じっており、完全に単一のセグメントであることはないと思います。

先ほどの例で見ても「売上を伸ばす」という課題が共通していたとしても、既存ロイヤルカスタマーとの接点を増やしたい顧客と新規ユーザーの獲得を目指す顧客では重視するKPIが異なりますし、低単価/低LTVの商材を扱う顧客と高単価/高LTVの商材を扱う顧客ではコストに対する感応度が、人材が豊富でデザインやカスタマイズが自前でできる顧客と全く人材がいない顧客では求める機能やCSが異なるなど、セグメントを細分化して見てみると顧客の課題には濃淡があることがわかります。

従って本当にコアとなる顧客の、コアとなる課題を特定することは、セールス/マーケティングや開発の戦略的なフォーカスが定めやすくなり、リソースの効率的な集中投下が可能になります。そしてそうすることでスタートアップの成長速度を速めることに繋がります。

逆に「ニーズは様々で、(老若男女、又は規模の大小、業種問わず)幅広い顧客に使ってもらっている」状態で特定しきれない場合、(本当に万人受けするプロダクトであれば別ですが)誰に対してどう訴求するのか、どこに重点的にリソースを投下するのかが曖昧になってしまいます。

Targeting(ターゲティング)

では、自社にとってコアなセグメントはどのように特定すべき(優先順位をつけるべき)でしょうか。以下に3つの観点を列挙していますが、要するに初期のトラクションから外部要因・内部要因踏まえつつ現時点の自社にとって魅力的、かつ勝てるセグメントを特定する(Targeting)ことになります。

  • 顧客の観点
    ・当該(サブ)セグメントの市場規模や成長性はどの程度か
    ・収益性は確保できるか
    ・拡張性(近接するセグメントへの横展開可能性)はあるか
  • 競合の観点
    ・当該セグメントに存在する競合(競合が解決できていない課題は何か)
    ・当社の競争優位性(競合に対して勝っていけるか)
  • 自社の観点
    ・当該セグメントに対する、自社戦略や経営資源との整合性はあるか
    ・プロダクトの開発実現性やターゲットへのリーチ可能性はどうか

Segmentation(セグメンテーション)

また、セグメントの切り方ですが、これは事業/プロダクトによって大きく差異があるため一概には言えませんが、顧客の「ニーズ」に着目し、不特定多数の個人/法人を同質のニーズを持つ塊(セグメント)に細分化します。

このとき単に市場を細かく切ればよいというものではなく、意味のある切り口を発見することがポイントになります。よくある切り口としては以下のようなものがあります。

(個人顧客の場合)

  • 人口動態変数(デモグラフィック):
    性別、年齢、所得、職業、学歴、地域、家族構成(結婚、子供等)
  • 社会心理学的変数(サイコグラフィック):
    価値観、信念、趣味趣向、購買動機や商品の使用頻度等
  • 行動的変数(ビヘイビオラル):
    購買履歴、利用頻度、求めるベネフィット、購買パターン等
  • 地理的変数(ジオグラフィック):
    地方、気候、人口密度、都市化の進展度、政府による規制、文化等

(法人顧客の場合)
組織単位になり、法人の属性や行動特性などを切り口にすることになります。
例えば:

  • 業種/業界、事業内容、ビジネスモデル、顧客(エンドユーザー)、地域
  • 規模(業績、組織、予算等)
  • 職種(ファンクション、部門)
  • 取引実績・見込み、意思決定の仕方等

アーリーの時点では、上記の結果たどり着いたコアなターゲットセグメントにおけるトラクションを見ながらPMFの観点から答え合わせをすることになります。つまり、狙ったセグメントを狙ったように獲得でき、想定通りにしっかり使ってもらえるようになっていればPMFと言えると思います。

終わりに

今回は市場機会を測る上でも、またPMFのためにも重要である、解決する課題と顧客ターゲットについてまとめてみました。非連続な成長ステージを駆け上がるスタートアップは大きく成功する可能性のある「市場」を選定する必要がある一方で、初期の顧客ターゲット(セグメント)とその課題の解像度をできる限り高め、PMFを確立させることで、その後の成長速度を上げていけると考えられます。

再び上記の例で見ると、

  • ロイヤルカスタマーとの接点を増やし、リピート率や単価上昇によりLTVの極大化により売上を伸ばしたい(課題)
  • 比較的体力はある(売上規模XX億円)が内製する人材が不足する、ミドル~ハイエンドの商材を扱う化粧品又はアパレルメーカー(顧客)

と特定できたとすれば、事業の戦略・施策の解像度は自ずと高まるはずです。これらはあくまで一例ですが、解像度を高める考え方として少しでも参考になれば幸いです。

次回は市場機会を考える上で非常に重要な、顕在・潜在の市場規模や成長性、Why Nowなどについて掘り下げて考えてみたいと思います。

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著者について

南良平
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