非連続な成長ステージを駆け上がるスタートアップの特徴とは?(導入編)

成功するスタートアップは皆、非連続な成長を遂げていると言えます。前回の「スタートアップの成長ステージ」の中で、スタートアップの事業ステージを6つに分類した上で、非連続で移行する各ステージの整理をしてみました。

今回は特にその後の非連続な成長を駆け上がれるか否か、を大きく決定づけるアーリーステージ(所謂シリーズA)の段階において、これまで成長してきたスタートアップはどういう特徴を有していたか、その構成要素を考えてみたいと思います。(これは翻って投資家目線だと、産業創出・産業変革の可能性のあるスタートアップ、ユニコーンポテンシャルのあるスタートアップの構成要素、と言い換えることができるかもしれません。)

成長するスタートアップは、①経営チーム②市場機会③プロダクト/ビジネスモデル(事業) の3つの区分において優れている特徴を有しています。①~③の構成要素については後述しますが、全てが揃っている必要は必ずしもありません。スタートアップによって尖る部分は異なりますし、投資判断においてもハイライトすべき項目・内容や論点は当然異なり濃淡があります。

上記の前提を踏まえつつ、各区分において主にどのような構成要素があるかを以下に整理してみます。(次回以降に向けた導入編として、今回は一定網羅的かつ簡潔に記載します。)

経営チーム

1-a. 経営チーム

非常に定性的かつ感覚的な部分もありますが、経営チームはステージを問わず最重要な構成要素です。例えば、Founder-Market-Fitがあり、目指す目線が高く、思考が深く/明瞭、またリーダーシップスタイルや強みとする分野が経営チーム間で相互に補完的、などは成長ステージを駆け上がる可能性のある経営チームの特徴になるかと思います。

1-b. 今後の組織進化仮説(必要となる人材等の特定)

上記に関連し、事業・組織拡大にあわせて必要となる人材が増えていくことになりますが、何が不足しているか/するかを認識し、中長期的な目線をもって適時にチームを組成していく必要があります。その辺りの仮説をもち、経営チームがしっかり組織や採用にコミットしているスタートアップはその後の成長の蓋然性も高まります。

②市場機会

2-a. 解決する課題と顧客ターゲット

何の問題(課題/ペイン)を解決するのか、顧客(ペルソナ)は誰か、は創業時からずっと仮説検証してきている内容だと思いますが、アーリーステージにおいてはその“解像度”が非常に重要なポイントです。後述するPMFのためにも初期的なターゲットセグメントとその本質的な課題をより具体的に特定できていることが重要で、そうすることで戦略・戦術の解像度も高くなります。

2-b. 市場規模

そして顕在/潜在的な市場の規模が大きいことや成長性が高いこと (事業がスケールするポテンシャル)も非常に重要な要素となります。「登る山の高さ」というように表現することもあります。どれほど優れたプロダクトであっても、そもそもの市場の広がりがなければ結果的に事業としてはスケールすることが難しいため、中長期に何を目指すのか、そして現実的にアクセスできる市場はどこかをしっかり見定めることが肝要です。またその際、何故今なのか (大きなトレンドとして不可逆な流れか、早すぎないか、遅すぎないか = WHY NOW?)も押さえておきたいポイントです。

2-c. 業界構造とKSF

市場を語る上で避けて通れないのが業界構造(バリューチェーンや競争環境等)です。当該業界や (直接・間接の)競合がどのように変遷してきたか、現在どのような構造になっているかを考察し、今後どのように進化していくかの仮説を持つ必要があります。その上で、当該事業が成功するためのカギとなるポイント(キー・サクセス・ファクター=KSF、「オセロの四隅」、勝ち筋)は何かを見極め、自社がそのKSFを実現できるか、実現するための戦略は何かという問いに対して、具体的な仮説に落とし込んでいることが重要となります。

プロダクト/ビジネスモデル(事業)

3-a. PMF (= Product-Market-Fit)

GCPの中ではシードからアーリーの分水嶺を「特定のセグメントにおいてPMFに達しているか否か」で議論することが多く、アーリーステージに到達する上で、最も重要な構成要素と考えています。もちろん完璧なPMFというものはなくその後も日々改善し続けていくものですが、特定のターゲットユーザーにプロダクトが熱狂的に使われている(欠かせない)状態になっており、収益化できる状態にあるかは大きなマイルストーンです。

PMFには画一的な基準があるわけではないのですが、(a)具体的な強いユースケース(誰がどんな場面でどのように使っているか。何が刺さっているのか。)、(b)初期的トラクション/KPI、(c)初期的なユニットエコノミクス、(d)顧客側の費用対効果、などを組み合わせ、定性的かつ定量的に分析することで検証できます。

3-b. スケーラビリティ

また、こうした現状分析を踏まえて、中長期的な目線でスケーラビリティ(再現性をもって規模化できるか)やユニットエコノミクス/収益性の仮説・戦略が組み立てられている必要があります。PMFしたプロダクトに対して、マーケ・営業・CS・オペレーション等の拡販体制をどのように構築していくか、事業を拡大した際に初期のユニットエコノミクスを維持・向上できるか、初期のターゲットユーザーからどの程度対象を拡げていけるか、そのために今後どのようにプロダクト磨きあげていくのかなど、経営チームとしての仮説をしっかりもっておきたいところです。

3-c. グロースドライバ―

上記のスケーラビリティが最も効率的に達成するために、調達した資金をどこに投じるべきかというグロースドライバー(の仮説)も重要な要素です。アーリーステージの調達段階ではこれも仮説ベースになりますが、次回ミドルステージでの資金調達に向けた重要な検証項目/マイルストーンになっていきます。

3-d. 競争優位性

2で触れた市場/業界の外部環境分析から導き出したKSFに対して、自社の持つ資産や能力を踏まえて、競争に勝ち抜いていくための自社の競争優位性は何か(或いは今後どう構築していくかという仮説)はしっかり説明できるようにしておきたいところです。今後の成長戦略の前提になる部分であり、ファクトと共に経営チームの強い仮説が重要になります。これも詳細については次回以降で触れてみたいと思います。

以上を簡単にまとめると表のようになります。

次回以降は、上記にあげた項目のうち主なものを順次個別に触れていきたいと思います。

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著者について

南良平
Globis Capital Partners
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