スタートアップの経営チーム:非連続な成長ステージを駆け上がるスタートアップの「経営チーム」とは?

スタートアップの成否を分ける要素の一つとして経営チームが重要であることは言うまでもありません。米国における過去の調査によると、スタートアップが失敗する原因の2割はチームであるとも言わる一方、その成功要因おいてもチームが3割を占める結果となっています。

 -どれだけ優れたアイディア、事業構想があっても、それを実現するのは経営チーム
 -市場、顧客、事業は選べても経営チームは簡単には変えられない
 -経営チームは自分たちでコントロール可能な数少ないレバー
 -強い経営チームは、困難をも乗り越えうる

本稿では、①シード/アーリーステージの起業家/経営チーム、②起業を検討しているキャリア層を想定し、“非連続な成長を遂げるスタートアップの経営チーム“の全体像とポイントを整理したいと思います。
①シード/アーリーステージの経営層:
 ・現状の経営チームの振り返りと、今後のありたい姿を考えるきっかけに
 ・今後の強化する経営チームの要素で、“補うべき観点”の参考に
②起業を検討しているキャリア層:
 ・起業を考えている際、どのような“チーム”が事業ゴールを達成する上で必要か考える参考に


================================
目次:
●3つのフェーズで捉える経営チームが向き合うべき要素(全体像)
●0→1:創業者=経営チーム(創業期からアーリー)
 ーファウンダーマーケットフィット
●1→10:経営チーム=創業者+コア人材(アーリーからミドル)
 ー経営チームの多様性
 ー経営チームの相互補完性
 ー経営チームの相互信頼関係
 ー目指すべき組織像から逆算したコア人材の特定
================================
※10→100:経営チーム=機能別のリーダー組織(ミドルからレイター)については、別記事で考えたいと思います。

経営チーム 3つのフェーズ(全体像)

以前の記事で整理したスタートアップの成長ステージによって達成すべきことが違うように、経営チームにとって重要な要素も変化します。ここで重要な点は、来る次の成長ステージに向けて、どのような要素を、いつ経営チーム・組織に落とし込んでいくかです。整ったシステムをベースに連続的な成長が期待される大企業と異なり、スタートアップにおける経営チームは一人が変化すると事業そのものへ与える影響が大きくなります。

経営チームのパフォーマンスがそのまま事業成果と成長スピードに直結すると言っても過言ではありません。そのため、事業に集中するあまり、気づいた時には経営チームが事業成長のボトルネックになっていた、ということも起こりえます。では、成長ステージを踏まえた際、具体的にどのような要素が必要になってくるのでしょうか?スタートアップの起業家/CEO関しては、「起業家から事業家へ」、「事業家から経営者へ」の成長が求められると言われていますが、経営チームも同様に大きく3フェーズあると考えています。

Ⅰ.(創業期からアーリー/0→1ステージ):経営チーム=創業者

Ⅱ.(アーリー前後/1→10ステージ):経営チーム=創業者+コア人材

Ⅲ.(アーリーからレイター/10→100ステージ):経営チーム=CEO+CxO/機能別のリーダー組織

事業の成長と経営チーム/組織の成長は表裏一体ですが、事業機会を最大化するという前提においては、常に経営チーム/組織が一歩~半歩先を進む必要があります。一般的にスタートアップは資金面での制約がありますが、来る事業のチャンス(波)に備えて、準備を整え、波を待つ(意識としては波を作る)姿勢が重要なるため、経営チーム/組織のアジェンダは「攻め」で一度考えてみることが重要です。

今回はⅠ.Ⅱ.に焦点を当て、シードからアーリーのスタートアップ経営チームについて考えてみたいと思います。

●0→1:創業者=経営チーム(創業期からアーリー)

チームが数人この時期は創業者イコール経営チームになります。米国での事例では、創業メンバーは何人が適切か?といった議論が良くなされていますが、時価総額を一定規模まで上げた企業の多くが2~3人の複数人で創業しているパターンが最も成功確率が高いといわれています。

このフェーズは実質的に事業活動=プロダクト(MVP)作りの時期に位置づけられ、効率良く且つ効果的に問題解決からPMFまでたどり着くことが最優先事項になります。これら機能的な側面で経営チーム(創業チーム)を捉えた言葉が“ファウンダーマーケットフィット”です。

1)ファウンダーマーケットフィット:

1-a)ビジョン

1つ目の要素はビジョンです。ビジョンは創業者が持つ当該事業領域における問題意識/理想像に裏打ちされた強い意思を示します。

背景として、幼少期や社会人における強い原体験に基づくものであることが多く、そのためビジョンは5年、10年、15年かけてでも“自分が”成し遂げたい・成し遂げるべきものとして位置づけれられます。

通常、ビジョンに基づき、組織のカルチャーや風土が形成されます。創業者がビジョンを効果的に発信するほど、採用やパートナー提携などの周りを巻き込む力に変わるため、ビジョンの有無と対外的な語り方はスタートアップにとって重要な要素になります。

1-b)業界・特定領域の“インサイダー”

2つ目は、当該領域のインサイダーであることです。具体的には、業界構造、ステークホルダーの力学と今後起こりうる変化を誰よりも早く把握・予見できていることが期待されます。

インサイダーであることの利点は、効果的かつ効率的に事業構想が設計できます。また、市場・顧客解像度の高さから、事業機会となるペインを捉えること自体も武器になります。

“インサイダー”であることは、業界構造が第三者からは捉えにくいB2Bビジネスにおいて特に優位に働きます。

1-c)テクノロジーの専門性

3つ目は、テクノロジーの専門性です。アーリーステージまではMVP(Minimum Viable Product)を創業メンバー自身が作ります。

ターゲット顧客への提案→実証実験→F/B→改善といった細かなPDCAプロセスを回すことから、プロダクト作りそのものを効率よくこなせる力が必要となります。

その際、事業の性質にもよりますが、バイオやAI等のディープテック系は特に専門性の要否が初期トラクションの成否を分けることとなります。逆に技術要件が高くない事業の場合は、テクノロジーは外部で補完しながら、ビジネスの仕組み化に集中することも可能です。

従って、何が当該事業の差別化要素/Strong pointsになるのかを客観的に捉え、ファウンダーとして必要な要素を的確に捉えることが求められます。

※ファウンダーマーケットフィットを後天的に獲得できるのか?
経営チームがファウンダーマーケットフィットの各要素を持ち合わせていることが望ましいですが、不足する場合や、そもそも事業特性に応じてその重みづけが変わることもあります。

仮に、経営チームに業界経験者がない場合は、起業前に短期的にでも業界に身を置くことや、当該領域の専門人材を招聘する方法が一般的です。また、事業がホリゾンタルか?バーティカルな事業か?でも若干ファウンダーマーケットフィットの意味合いは異なってきます。

●1→10:経営チーム=創業者+コア人材(アーリーからミドル)

アーリー以降は、これまで経営チーム自ら注力していた事業推進やプロダクト開発等の実務よりも、目線を徐々に組織へと向けていく必要があります。マネジメントの性質が強くなっていく局面において、経営チームとしてまず向き合うべきことは、経営チームの“多様性と相互補完性”を確認し、それでいて経営チームを一枚岩にまとめることです。

2) 経営チームの多様性と相互補完性

2-a) 経営チームの多様性

当然、チームによって役割の分け方やパワーバランス、コミュニケーションのあり方は三者三様です。但し、順調に事業が伸び、組織が大きくなっていくと、従来経営チーム内で行われていた阿吽の呼吸も徐々に難しくなってきます。

そのため、組織が大きくなる前段階から経営チーム内の“役割や関係性”の認識を合わせ、緊急時でも経営チームが最大限のパフォーマンスを出せる準備をしておくことが望ましいです。この“役割や関係性”を以下3つの軸で整理し“経営チームの特徴”と表現しました。

 ① 意見の多様性があるか?(保守↔リスク志向、論理↔直感/感性)

 ② 経験/専門性/属性の多様性があるか?

 ③権限の集中か?分散か?(トップダウン/ピラミッド↔平等/分散)

2-b) 経営チームの相互補完性

“経営チームの多様性“に正解はありませんが、客観的に自社の経営チームの状態を確認し、①~③が意図した形で機能しているか?を把握することが重要です。その際重要なポイントは、従来何が機能していたか?を把握しつつも、今後どうあるべきか?を考えることです。尚、例として補完性が持つ意味合いは、以下のようなパターンが考えられます。

*専門性補完:「エンジニア出身の創業者」×「豊富なBiz経験を持つCxO」=プロダクトと事業のバランスが取れる

*能力面補完:「仮説でビジョンを描く起業家」×「計画に落とすのが得意なNo.2」=蓋然性のある大きな事業が描ける

*性格面の補完:「攻めるのが好き/得意な起業家」×「守りが考えられる堅実なCFO」=ガバナンスが効かせられる

3) 経営チームの相互信頼関係

アーリーステージ以降になると、組織が大きくなり、徐々に現場が見えなくなる一方で経営判断がより高度になります。その際、経営チームは、個々が“Chief=経営者”として責任を全うでき、相互に背中を預けられることが求められます。

これは、各CxOに求められる要素として重要なのは「x」の部分ではなく「C」の部分であるとも言えます。「x」はあくまでもファンクションを示しているに過ぎず、本質的には経営チーム全員が「C」の役割を担うことが本来求められ、この状態が出来上がった経営チームは「強固な信頼関係を築けている」と言えます。

尚、仮に経営チームを強化・増強する際、「x」の役割に資する専門性を有していることは最低限の前提であり、「C」として信頼がおける人物かどうか?がより重要な要素であることは言うまでもありません。

4) 次のステージに向けて:目指すべき組織像から逆算したコア人材の特定

上述の定性的要素は一定時間をかけて行っていきますが、より実務的な面では将来の組織図とコア人材の特定がアーリーステージにおける論点になります。組織づくりは一朝一夕でできるものではないので、実質的にアーリーステージに入る前後から構想しはじめることが多いですが、具体的な設計はアーリーステージで固めることが多くなります。

一般的に組織はボトムアップで作るのではなく、トップダウンで作っていきます。事業計画に基づき、各組織機能の繋がりを考えながら設計し、ファイナンス計画に反映していきますが、その中で経営チームとして取り組むべきはコア人材の特定になります。

ここでのコア人材とは、事業のKSFに直結したロールで、コア人材の不在=組織がボトルネック化することを示します。例えば、スケールを迎えるSaaS事業においてはオンボーディングを担うCS部門が重要になりうるし、BtoCサービスを展開する事業においてはマーケティング部門のトップ等が上げられます。

これら鍵となる部門の統括するコア人材の要件を経営チームの中で言語化し、最適な人材を探し、採用・登用できる“Ready to Hire”な状態に持って行くことが求められます。

尚、アーリーステージの実際の経営チーム強化としては、上記コア人材の中でも「攻め手の1枚」を採用するのが、上述の“波に乗り遅れない半歩先”のイメージになります。

(社外取締役の位置づけ)
上記に加え、アーリーステージ以降は社外取締役等の外部リソースも経営チームとして上手く活用する方法もあります。一般的にリード投資家を社外取締役に招くケースが多いですが、単なるお目付け役・モニタリングではなく、経営レベルを一段上げる有力なリソースとして活用するケースも多く存在します。

上場前になると、経営と執行を分ける必要がありますが、その前準備として、経営メンバーの”二足の草鞋状態”から、社外取締役を加えて取締役会運用の土台を作り始めることはガバナンスの観点でも効果的です。

●10→100:経営チーム=機能別のリーダー組織(ミドルからレイター)

ミドルからレイターにおける経営チームは、リーダーシップとガバナンスの観点で整理する必要があります。この点は、スタートアップの組織論とも関係する部分のため、今回は省略し、また別の機会に考え方を紹介したいと思います。

終わりに

本記事ではシードからアーリーステージの経営チームに関して整理しました。日々変化・成長する事業の中で、経営チーム自身の振り返りは意外とできていない又は後回しにされがちです。しかしながら、経営チームは事業を牽引し舵取りを担う最も重要な要素であるとともに、自らがコントロール可能な数少ないレバーになります。本記事が次の非連続な成長ステージを見定めた際の経営チームのあり方を考える際の参考になれば幸いです。

GCPでは起業家の皆さまにとって有益な情報発信行っていきます。是非ニュースレターへの登録も併せてお願いいたします。

関連記事
非連続な成長ステージを駆け上がるスタートアップの特徴とは?(導入編)

著者について

中村達哉
Globis Capital Partners
Investment Professional
Twitter


参考文献

Founder Market Fit:

Founding Team: