投資マネーに「色をつける」。現役VCが明かす、ベンチャーキャピタリストの全容と哲学

戦略系コンサルティングファーム出身者がスタートアップやベンチャーキャピタルへ転職したり、自ら起業するといったキャリアパスは一般的になりつつある。しかし、そうしたキャリアについての十分な事前知識を得られる機会は、未だ多くはない。
 
グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)は2019年2月、戦略コンサル出身者のキャリアパスについて議論するイベント「StrategyNight ~戦略コンサルのネクストキャリア~」を開催。登壇したのは、戦略コンサルとして企業の海外進出や経営統合、新規事業開発の支援などに従事した経験を持ち、現在はGCPでキャピタリストを務める湯浅エムレ秀和と山本絢子だ。
 
後編となる本記事では、起業家の信用を獲得する能力や、キャピタリストの業務フロー、デューデリジェンスの判断軸など、知られざるVCの実状がつまびらかにされた。

(前編はこちら

(構成:岡島たくみ 編集:小池真幸

“黒子”でありつつも責任を持って事業にコミットし、起業家からの信頼を獲得せよ

ーーベンチャーキャピタリストに求められる素養とは何だと思われますか?

グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル 湯浅エムレ秀和

湯浅:起業家が相談したくなる何かしらの「強み」を持っていることですね。実績や評判のあるファンドに所属したとしても、個人としての信用を積み上げなければ新しい投資先を発掘できないからです。たとえばGCPには10人のキャピタリストがいますが、そのうち3人が2018年の「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング BEST10」にランクインしており、業界内でも高く評価いただいています。実績あるファンドに入ることは、起業家から「担当してほしい」と思ってもらい、先輩キャピタリストを差し置いて選んでもらえる「何か」が求められることを意味します。

ーー起業家からの信用を得るためには、どうすればいいのでしょうか?

湯浅:How論は様々ありますが、ひとつは「これだけは誰よりも詳しい」と言える得意領域をつくることです。僕もVCになった直後、まったく案件を発掘できなくて。前職では金融機関向けのコンサルティングに従事していたので、「とりあえずフィンテックに詳しくなろう」と思い立ち、調べたことをブログに書いたり、GCPで勉強会を開いたりしていました。当時はフィンテック企業への投資を一件も手がけていませんでしたが、ドヤ顔で語っていましたね(笑)。

調べたり考えたり、色んな人から話を聞いたりするうちに、自分も領域に詳しくなっていく。すると、だんだんと起業家の方たちにも「GCPでフィンテックと言えば、湯浅だ」と思ってもらえるようになり、案件を発掘できるようになったんです。そこから実際に投資を経験するとますます領域について詳しくなり、どんどん案件創出につながっていきました。

ーーある領域に詳しいことが、大きな強みになると。他には、VCの強みになる要素はありますか?

湯浅:“黒子”として、起業家を圧倒的に応援できる人であることですね。僕たちの役割は起業家の支援者であって、夢を実現するために起業を行う主役は、あくまで起業家です。一方で、彼らを応援していくためには、僕たちも相応のプレゼンスを発揮する必要がある。つまり、僕から出資を受けたことが、投資先企業にとって誇れることでなければいけないんです。

業界内で圧倒的なパフォーマンスを出せているのは、トップ層の起業家からの信頼が特に厚い人です。頭の良さや知識の豊富さももちろん必要ですが、「あの人に投資してもらいたい」と思われる人になることが、何よりも大切だと思います。

グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル 山本絢子

山本:黒子でありつつも、責任を持って事業にコミットできる人でなければいけないと思います。VCも個としてバリューを発揮する必要はあるし、そういった姿勢で投資先企業と向き合える人には適性がある。

ーー事業への熱意が感じられるVCであれば、自然と起業家からの信頼も厚くなるように感じます。

山本:さらに性格面から適性を述べるとすれば、いろんな人と話すことが好きな人は向いていると思います。現時点ではまったく関係ない領域にも興味を持ち、業界で働く人たちとネットワークを構築できる人は強いです。

湯浅:起業家に人を紹介するためには、多方面との強固な人間関係を持っていないといけませんからね。

シード期はとにかく応援し、アーリー期からは戦略的な支援へ

ーー他の職業以上にネットワーキング力が求められるのですね。ところで、普段はどういった業務をされているのでしょうか?

山本:「投資先を探す」、「投資すべきか検討する」、「投資先の経営支援をする」、「エグジット推進」の4つです。経営支援は、起業家とともに戦略を描くだけでなく、人材探しやバックオフィスのサポート、資金調達のアドバイスまで幅広く行ないます。エグジットを推進する際も、エクイティスト―リーの構築や、M&A先の紹介などを行います。さらに、通常業務に加え、時期に応じてファンドレイジングやIR活動も行なっていますね。

ーー実務レベルでも支援をするのですね。投資先を探すときは、どういった規模の企業を探していくのでしょうか?

山本:ベンチャーキャピタルによって異なりますが、GCPではアーリーステージからの投資をメインに、さまざまなフェーズの企業に投資しています。

ーー企業のフェーズが異なると、見るポイントも変わってくるのでしょうか?

山本:見ているポイントはもちろん、求める成果も変わりますね。基本的には、それまでの全ステージにおいて、どれだけ事業についての検証ができていたかを振り返ります。たとえばアーリー期の企業を見るのであれば、シード期の段階で「事業コンセプトが固まっているのか」や「プロダクトマーケットフィットを正確に検証できているのか」を確認するんです。

ーーそれぞれステージでVCの役割も変化するのでしょうか?

山本:変わりますね。シード期だととにかく目の前の課題をこなしていくしかないため、とにかく応援することがメインになります。フェーズが変わってアーリー期に突入すると、より戦略的な支援を行います。

どのフェーズにおいても大切なのは、投資先の信用を補完してあげること。「このVCが投資しているなら安心」と思ってもらえれば、採用にもつながりますし、大企業との事業提携の話もスムーズに進みやすくなるんです。

ーーなるほど。そのように知名度の低いシード・アーリー期の企業のポテンシャルを見極めるのは、難しそうに感じます。どういった軸にしたがい、企業を評価しているのでしょうか?

山本:市場性や競争優位性、経営陣の能力、組織のあり方、事業計画、投資収益性…あらゆる観点から網羅的に検討します。ただ、会社によって見るべきポイントは変わってきますね。たとえば、ビジネスモデルが秀逸な企業だったとしても、「狙っている市場が十分に大きいのか」「現在の経営陣で成し遂げられるのか」など、その時々で論点はさまざまです。

湯浅:「どんな会社が偉大になれるのか」の答えは、まだ完全には掴みきれていないです。しかし、たとえどんな企業だったとしても、日本は相対的に勝ちやすい環境だと思っています。それは、時価総額が数十億円でもIPOできるマーケット「東証マザーズ」が存在することに加え、海外と比較して競争環境が激しくないからです。

たとえばアメリカや中国であれば、Uberのような新しいビジネスモデルが登場すると、競合企業が数十、数百社と現れる。一方日本では、世界3位の経済大国にも関わらず、何か一つの市場を本気で取りにいくために競合するスタートアップはせいぜい数社だけなので、他国に比べて勝率は高いと言えます。

デューデリジェンスで問うのは、技術面での優位性ではなく、「いかに課題解決できているか」

ーープロダクトを評価する際、その製品に用いられている技術が従来の市場にインパクトを与えられるものなのか、判断が難しい場面もあるのではないかと思います。

湯浅:プロダクトに用いられている技術のすごさも大切ですが、最も重視しているのは「市場にある課題を解決しているか」です。技術的な優位性などももちろん考慮しますが、少なくとも僕たちが投資しているアーリー期であればプロダクトは既にあることが多いので、ビジネスリスクのほうが大きいと感じます。

山本:技術面の優位性だけにフォーカスしてデューデリジェンスする必要性はそこまでないと思います。ちゃんとユーザーがついていて、ある程度の売上を達成できているのなら、プロダクトの核となっている技術よりも、ビジネスモデルを見て検討しています。とはいえバイオなど、アカデミックな専門知識がなければデューデリジェンスできない領域であれば、最初から投資しないと決めている場合もあります。

個人投資家であれば、専門知識がない領域でも、起業家への信頼から投資することは可能かもしれません。しかしVCは人から預かったお金を投資するので、構造的な説明が可能な投資でなければいけないんです。

ーー個人投資家と比較すると、慎重に投資を行わなければいけないのですね。最後に、VCとして大切にされている「美学」はありますか?

湯浅:お金をコモディティ化させないことです。期待値が高く、多くのVCから投資の相談が舞い込むベンチャーへオファーするとき、他のVCより低いバリュエーションでも、起業家から選んでもらえることが多くあります。それは、「GCPから出資を受ければ、事業をグロースできる確率が高まる」と思ってもらえているからだと思います。お金で勝負するのではなく、自分たちが投資するお金に、「いかに色をつけられるか」が大切なんですよ。


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