スタートアップキャリア論:スタートアップキャリアの一歩を踏み出すために必要な、3つの自己理解の視点とは

最近は、大企業やプロフェッショナルファームで経験を積んだタレントが、スタートアップの世界に転身するケースが増えてきていると感じます。スタートアップのキャリアの1つの特徴として、不確実性の高さが挙げられます。市場も、事業も、組織も、ポジションも、報酬も、諸々他のキャリアに比べると流動的で不確実な要素があるとも捉えられます。

一方で、だからこそ経験出来るチャレンジやエキサイトメントもあります。

本記事では、大企業やプロフェッショナルファームで一定の経験を積んだタレント向けに、スタートアップキャリアの一歩を踏み出すために必要な、3つの自己理解の視点をご紹介したいと思います。

前提として
・前提として、大企業やプロフェッショナルファームで一定の経験を積み、スタートアップへの転身を考えているケース(20台後半から30台中盤程度)で、スタートアップ内で経営チームやそれに近い立場で参画しうる立場の人たちを想定しています
・彼・彼女らが、概念的にどういう思想を持って転職活動に臨むとスタートアップへのキャリアを成功に繋げられるか、という視点で私自身の経験も踏まえた考え方をご紹介したいと思います

目次
1.スタートアップでのキャリアで得たい報酬とは?という観点で、自らが求めるものをざっくり整理してみる
 a.金銭的報酬をどのように捉えるか?
 b.非金銭的報酬(内発的・外発的)をどのように捉えるか?
2.数多あるスタートアップの中からどのようにスクリーニングすればよいか?
3.まとめ

1. スタートアップでのキャリアで得たい報酬とは?という観点で、自らが求めるものを整理

キャリア全般に通ずる考え方でもあるかもしれませんが、スタートアップへのキャリアを考えるときに、金銭的報酬と非金銭的報酬をどう捉えるか、という概念で整理することができます。ここでいう「報酬」とは自身のインセンティブ・モチベーションという意味合いで使用しています。

  • 金銭的報酬、すなわち経済的な対価であり、年収とストックオプション(SO)を統合した報酬パッケージをどう捉えるか?という観点
  • 非金銭的報酬、すなわちお金に換えられない対価であり、内発的なもの (自身の価値基準に基づいて価値が発生するものであり、やりがいや自己実現といったもの)と、外発的なもの (第三者との比較に基づいて価値が発生するものであり、肩書、経験、賞賛や承認、権限、権力と言った外発的なもの)

a. 金銭的報酬をどう捉えるか?

経済的な対価(年収+ストックオプション(SO)を統合した報酬パッケージ)として発生する金銭的報酬に対して、自身がキャリアを考える上でどのような期待値を持っているのか、という観点です。ここで最も重要なのは、自らの金銭的報酬に対して適切な期待値を持っておくことです。

まず年収については、年間のフローとしていくらの所得を得られそうか、どの程度のレンジまで年収ダウンを許容できるかを見立てる必要があります。最近はまとまった金額の資金調達ができているスタートアップが増えており、年収が低くなるケースは少なくなったと感じますが、一般論的には前職年収×2/3~3/4位がよくあるダウン幅でしょう。

次にストックオプション(SO)。SOの仕組みの詳細は省きますが、フローではなくストックとしての所得をいくら得られそうかへの見立ても考える要素です。別の見方をすると、年収ダウン幅×期待在籍期間を正当化できる程、SOが魅力的なものなのか?ということかもしれません。

SOは、実現可能性×上昇期待率×付与量の3つの要素が影響します。スタートアップのステージ論と紐づけると、シードステージに近づけば近づくほど、一般的には実現可能性の不確実度は高まり、上昇期待率と付与量は上がりますし、逆もまた然りです。

  • 実現可能性:上場やM&Aによるエグジットの実現可能性はどの程度か?少なくとも会社として/CEOとしてどのように考えているのか?上場時期は202X年とか、n-X期です、等ある程度の目安がある会社もありますが、これはなかなか自分ではコントロールできない要素です
  • 付与量:これは会社のステージとポジションによってある程度規定されます。一般論としてシードであればあるほど付与量は増えますし、役職が高いほど、付与量も多くなる傾向です。これも交渉の余地はありますが、相手が決めることなのでなかなか自分ではコントロールできない要素です
  • 上昇期待率:入社時、正確にはSO付与時から権利行使タイミングの期間でどの位企業価値が上がる見込みがあるか?に対する期待値/見立てをどう立てるかという観点。これは、実現可能性や上昇期待率に比べると、多少見立てを立てられる可能性はあります

SOの上昇期待率をどう見立てるべきか?

会社の企業価値が入社時(正確にはSO付与時)からどの位上昇する見込みがありそうか?をどう見極めるか。これはざっくりと、①会社/事業への見立て、②市場への見立てで捉えることもできます。

ただ①については、結局は事業や経営陣、プロダクトが素晴らしいと思うとか、どうしても主観的になってしまうので、見立ての難易度は高いです。②も同様、スタートアップが戦っている市場の市場性を見立てる難易度は高いですが、①に比べると多少切り口はあるようにも思います。

すなわち、戦っている市場の規模や当該市場の資本市場における期待値(所属上場企業の平均PERが何倍か、など)、等という観点は、ある程度成長ポテンシャルの参考指標になるかもしれません。相対的に高い企業価値になる可能性が高い市場で戦っているスタートアップは、この上昇期待率も高い可能性が高いと想像できなくはないです。

上昇期待率の見立てにおいて、バリュエーションの相場観を把握し、IPOの時の期待バリュエーションを想像して、期待値のイメージをつかむことも不可能ではありません。

なお、非連続な成長ステージを駆け上がるスタートアップの特徴という連載記事の中で、より詳細に成長可能性の高いスタートアップの特徴をまとめています。

ここで改めて強調したいは、SOの上昇可能性という軸でスタートアップを品定めすべき、というのではなく自らの金銭的報酬に対して適切な期待値を持っておくことということです。色々書いたうえでこう言ってしまえば元も子もないですが、SOについては不確実性が高いので、スタートアップへの転職を考えるときに、あまり深く考えすぎないほうがいいかもしれません。

b. 非金銭的報酬をどう捉えるか?

お金ではない報酬に対して、自分自身はどう捉えているのかを理解することが、金銭的報酬よりもより本質的に重要です。

(1) 内発的なもの (自身の価値基準に基づいて価値が発生するものであり、やりがいや自己実現といったもの)

自分自身はスタートアップでのキャリアによって何を成し遂げたいと考えているのか、それはどのような会社/創業者の掲げるビジョン・ミッションであれば整合するのか、という観点です。

個人的には、この観点で大事なのは、月並みですが、会社やそこに所属する人たちと一緒に働きたいと心から思うか、会社/創業者の掲げるビジョン・ミッションに共感できるか否か、を見極めることだと思います。

スタートアップは数人から数十人位の規模が大半であり、非常に小さなコミュニティです。かつ、創業者が掲げるビジョン・ミッションに共感して入社した人が殆どです。従い、ここに共感できない、違和感を持ってしまうと、不幸な結果になってしまいますし、そもそも選考に落ちてしまいます。

ではそれをどのように見極めるのか?汎用的な正解はないですが、一つの近道は、経営陣・創業者との相性を見極めることではないでしょうか。

経営陣・創業者との相性

スタートアップの、特に役職が高い人の退職理由でよく耳にするのが、「創業者や経営陣との方向性の違い」といった類が挙げられます。スタートアップは、とどのつまりオーナー企業の側面もあり、企業文化や社員の行動様式は、多かれ少なかれ創業者/創業メンバーのDNAを反映しているものだと思います。

創業者/創業メンバーの過去の職歴/経験やキャラクターが、企業文化や組織・事業運営に色濃く反映される傾向にあります。

過去の職歴/経験:人は特に過去に所属していた企業の文化に多かれ少なかれ影響を受けています。生粋の起業家、金融機関や戦略コンサルファーム、外資IT、メガベンチャー出身など、経営チームのバックグラウンドに基づいた“色“があります。例えば仕事の進め方のプロトコル、報酬含む人事制度に対する考え方等、これまでの経験が元になっているケースも多い印象です。

キャラクター:攻めるのが好き/得意なアグレッシブ、比較的慎重で堅実、情熱を持って夢を語るビジョナリー、着実に物事を成し遂げるプラクティショナー、などの職業人としてのキャラクターから、職業人を超えたパーソナルなキャラクターまで含めた観点があります。

相性の見極め方の黄金律などはありませんが、過去一緒にうまく働けていた人がどういう特徴を持っているのか、それとの共通項はあるのか、などいくつかの軸で振り返ってみる事で確かめられる要素があるかもしれません。

なお、こちらの記事でいい経営チームの特徴の1つとして相互補完性を挙げています。経営陣・創業者との相互補完性がイメージできれば、合う相性の可能性が高まります。

創業者と話し込む、お酒も交えて食事してみる、現社員や外部の人に聞いてみる、などの方法で、多面的にその人となりを理解することが重要です。創業社長は多かれ少なかれ、キャラの濃い非凡な人が相対的に多いと考えられるため、一緒にやっていけそうかはある程度妥協しなければいけない要素もあるかもしれません

(2) 外発的なもの (第三者との比較に基づいて価値が発生するものであり、肩書、経験、賞賛や承認、権限、といった外発的なもの)

役員、CXOといった肩書き(とそれによって得られる経験)、IPO経験、事業会社で事業の成長をリードする経験、などのスキルセットの体得等をどの程度実現したいと考えているか、そして実現できる可能性がどの程度あるか、という観点です。

スタートアップでは、1人1人の果たせる役割・出せるバリューが相対的に大きく、個としても大きな成果をあげられる環境があります。○○億円でのIPOを達成した、○○プロダクトの10xグロースをリードした等、スタートアップに挑戦しようと思うタレントなら、自らの手で会社を成長させ、実績を上げたいというマインドを持たれていると思います。

私がこの観点で大事と思うのは、自分自身が、これまでの経験とスキルをベースに会社の成長に貢献できるのか、会社でどういう役割を担うか担いたいか、です。

ポジション/期待役割

成果を出すためには、自らが既に持っているアセットを軸に、入社後に構築するアセットが必要だとします。言い換えると、自らが既に持っているスキル・経験・ネットワークなどがある程度直接成果につながる、持っていないが学んでいくことで成果につながるか、の2つです。

例えば、大企業向け法人営業の経験を有し、異業種のBtoBスタートアップへの転身を考えているのであれば、法人営業経験はダイレクトに価値提供できますが、業界経験はないので業界についてはラーニングが必要となります。

今現在価値提供できそうなスキル/経験が何で、新たに何を学ばなければならないのかがある程度イメージできれば当該ポジションにおいて、どの程度期待役割を果たせそうかのイメージの解像度があがります。それはミスマッチが起こる可能性を減らすことに繋がります。

とはいえ、そもそもスタートアップでは事業も組織もポジションも不確実性が高いことも多く、明確なJob Descriptionがなかったり、入社後に変わったりなどはよくあるケースなので、考えすぎても意味がないかもしれません。

少なくとも自分なりの考えを持っておけば、入社後能動的にその機会を取りに行くことはできます。数人から数十人位の規模が大半の非常に小さなコミュニティの中で、プロフェッショナルとして自分の居場所を作ること・作れるイメージを持っておくことが、スタートアップへのキャリアの成功に繋がります。

2.数多あるスタートアップの中からどのようにスクリーニングすればよいか?

世の中にはスタートアップが数多くありますし(2021年2月時点でStartup DBに登録されている未上場企業は10,000社以上あります)、近年その数は増加傾向にあります。昨今の資金調達環境から、2ケタ億の調達のリリースも珍しくなくなり、成長可能性の高いスタートアップの数も増えている印象です。そんな中で自分にとってここがベストだ!と思えるスタートアップをどのように探せばよいのか。

候補を絞り込むうえで、スタートアップキャリアのスクリーニングの3要素をご紹介したいと思います。

スタートアップキャリアのスクリーニングの3要素

a.自らの目利き基準

本記事で紹介した3つの報酬のうち、何をどの程度求めるかに対する自己理解を深め、自分にとって最も大事な要素をあぶり出す必要があります。

(そもそもスタートアップに向いていない、という話はありますが、)仮に金銭的報酬が最も強いのであれば、現職からの年収ダウン幅が少なく、SOの付与率が高いこと、かつその期待値が高いことが重要な要素となるでしょう。ここでの期待値は、当然ながら事業への目利きとスタートアップのステージの双方が影響します。

非金銭的報酬が最も強いのであれば、CXO候補、役員などと経営幹部ポジションを志向し、かつ自身の過去の経験がレバレッジでき、活躍できるイメージが解像度高く持てる所がいいかもしれません。もしくは、会社と個人のビジョン・ミッションがシンクロし、ライフワーク的な位置づけに出来る仕事がいいかもしれません

現実的には報酬の要素のミックスだと思いますが、考える上でのポジション取りとして、優先順位付けしてみると見えてくるものがあるかもしれません。

b.外形・形式的基準

自身の金銭的・非金銭的報酬に対する考え方を踏まえ、業界、ステージ、ポジション、などで自らが選ぶもの、選ばないものが何かを考える参考にできます。

  • 業界:特定の業界に非常に詳しい/経験を有しているため、当該業界に関連する企業を選ぶ観点
  • ステージ:スタートアップの成長ステージという記事の整理にあるように、位置するステージよって会社の置かれている状況・風景は大きく異なります。一般的に、ステージの早い遅いと、不確実性の高さ・1人1人がもたらす組織への影響度の高さは相関します。このステージ別のキャリア論については、別の機会に記事で取り上げたいと思います
  • ポジション:準創業メンバー、CXO候補、役員などの経営幹部ポジション、事業責任者として事業をリードできる立場、など自身が求めるキャリアに近い環境を選ぶ視点

c.外部の目利き基準

投資家、社内メンバー・退職者など外部の人のレファレンスも参考にできます。

投資家

最も分かりやすいレファレンスが投資家(特にVC)です。VCを中心とする投資家は、当然ながらそのスタートアップへの成長可能性を信じ、多額の資金を投資しています。一定実績のある投資家・VCからの出資を受けているのか、彼・彼女らはどのような観点で投資に踏み切ったかなどレファレンスを取れると、会社のことを多面的に理解できます。

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社内メンバー・退職者

現役社内メンバーや退職者目線で会社の内情を聞けると、異なる観点でのインプット情報になります。ただ、現役社員が候補者に本音を語るケースは少ないですし、退職者はそれぞれのバイアスも掛かっています。かつ、退職者はいつ/どのステージの時代に在籍していたかによっても経験していることが異なるため、情報をそのまま鵜呑みにしないほうがよいこともあります。

とはいえ、複数の人が似たような特徴を話してくれたとすると、帰納法的に会社の実態を把握できるかもしれません。

3. まとめ

経済的な対価として発生する金銭的報酬、自身の価値基準に基づいて価値が発生するやりがいや自己実現といった内発的な非金銭的報酬、第三者との比較に基づいて価値が発生する肩書や経験などの外発的な非金銭的報酬という3つの観点をご紹介しました。

3つの報酬のうち、何をどの程度求めるかに対する自己理解を深めたうえで、一定のスクリーニングプロセスを経て、最後はご縁と直感で決める事になります。

スタートアップのキャリアは、大きなチャレンジやエキサイトメント、それと裏腹な不確実性の高さがあります。後悔しないキャリアを歩むためにも、自己理解を深め、自分なりのベストアンサーを紡ぎだすプロセスが重要ではないでしょうか。

本記事が、大企業やプロフェッショナルファームで一定の経験を積んだタレントにとって、スタートアップキャリアの一歩を踏み出すための一助になれば幸いです。

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著者について

堀江隆介
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